31 東の森の門番
切りどころがなくてちょい長いです。
とりあえず【創作魔法】を習得。なんかレアっぽいスキルだし、無駄にはならないだろう。
【創作魔法】を習得した後に僕は、近くの木を目標にして左手を伸ばす。
『“リアマグレル”!』
差し伸ばした左手から、炎の散弾が木に向かって放たれた。
ゴスゴスと、半数程度が木にぶつかって爆ぜるが、もうもうと立った爆煙が風に流された後、そこには大地に根を下ろし、悠々と立つ木がそこにあった。
――流石は破壊不可能オブジェクト! なんともないぜ!
「わ、わ、わわっ!?」
「――という風に、オリジナル(じゃないけど)魔法が使えるスキルらしい」
アイダリンは眼を見開いて僕の魔法を見ていた。
ライムとは言うと、魔法の当たった木をさすさすと撫でている。ちょっとカワイイ、うちの妹。
「まぁ、既存の魔法に比べて、別に強いわけじゃな――」
――がっ!!
「へ?」
もの凄い勢いでアイダリンに手を掴まれた。まるで握力勝負でも挑むように力を籠められる指。
僕を見上げるアイダリン。その眼のキラキラ具合いが半端じゃない……
「師匠! 是非ともあたしを弟子に! 師匠ぉ!!」
え……なにこれ?
――――――
「とりあえず、東の森をクリアしよう。にーちゃ、アイダリン」
「そ、そうですね」
「異議なし」
と言うことで棚上げされた弟子入り。
「オリジナル魔法とか、ステキ……後で絶対に教えてくださいね! 師匠!」
……だが、その棚上げもあんまり意味は無さそうだ。
とりあえずパッシブスキルの【剣術】【盾術】【回避術】を取って、即座にOFFにする。
君たちはただのスキルポイント製造要員だ。すまんな。
森を進み、少し開けた場所で何組かのパーティがたむろしていた。
正面の切り立った岩肌には、ばっかりとV字に裂けたような洞窟。
ここがインスタンスダンジョンの入り口になっているらしい。
その手前でウロウロしているパーティは、どうやら対ボス戦用の作戦を立てていたり、ウインドウを開いて事前準備をしているようだ。
「にーちゃ、行こう」
「待て、何か作戦とかはいいのか?」
「にーちゃ突っ込む。私たち遠巻き。以上」
「アバウトすぎる!?」
――でも進みました。
洞窟といっても、割れた地層と地層の間のような造りで、わずかながらに空も見える。洞窟というより、どちらかと言うと河の無い峡谷といった感じだろうか?
所々に雑草が生え、乾いた土の道を歩く。
インスタンスダンジョンなので他のプレイヤーは居らず。たまに地層の割れ目に宝箱があるぐらいで、基本的にはほぼ直線の道だった。
ちなみに見つけた宝箱の中身はお察し。初期装備のナイフとか、いまさらどうしろと?
出てくる敵もさっきまでの森に出た敵と変わらない。直線なので猪突課長がライムたちに突っ込んで行かないかだけ注意したが、特に変わったこととなるとそれぐらいのものだった。
アイダリンとの連携にも慣れてきたところで、なぜか、やたらと墓の立った場所に出る。
なんだろうこれは? わざわざこんなところに誰が墓を――とか、ゲームで考えちゃ駄目なのかな?
「ボス戦で死ぬと墓が立つ。最期の言葉が墓標に刻まれる」
「なんだそのシステム……」
と訝しみながら、とりあえず墓のひとつに近付いてみると――
【†愛天使†木刀のミサ】
:木の剣とかムリポwwww
「…………おい? ネカマプレイは不可能だよな?」
なんだろう、この名前から醸し出されるレディース+ネタキャラ臭は……だが、レディースということは女性。
このゲームで、リアルとの性別の変更は不可能な筈……
「女がネタプレイをしないとは限らない。そして、男が女装を出来ないとも言ってない」
……うん、まぁ
しかし、彼女(彼?)のことが気になる。遠目でいいから一度見てみたい。逆に言うと、遠目以外では見たくない。近寄りたくはない。なんとなく。
「行こう、にーちゃ」
「お、おう」
「ボス、初めてです。」
僕の胸に何かモヤモヤとしたものを産み出した墓を傍目に、ボスへの挑戦が始まる。
―― …… ―― …… ―― …… ――
墓があるということは、そのボスがすぐ近くに出るということだ。
周りの様子は今までと別段、なんの変わり無さそうだが、少し警戒を強めて進む。
――ふっ、と影が落ちた。
「散開! 上だっ!」
僕の声に、ライムはいち早く飛び退る。
「え? え?」
「アイダリンっ!」
状況の解っていないアイダリンを抱き上げ、その場を跳躍する。
――ドズンっ!!
重々しい地響きを立て、先程まで僕らが居た場所に落ちてきた『なにか』
『ゲゴン、ゲゴォン……』
周りの岩色と同化しそうな色をしたそれは、成人男性すら丸呑みに出来そうなほど巨大なカエルだった。
「え? あ? え? し、師匠……!?」
「ボスだ。立てるか? アイダリン」
アイダリンをその場に下ろし、カエルに向き合って剣を抜く。
なるほど、頭上からの不意打ちでプレイヤーを動揺させようという魂胆か。運営も底意地が悪い。
カエルはこちらに視線を向けたまま、未だ動こうとはしない。
不意打ちから立て直す時間を与えるようにプログラムされているのか?
ならば、今のうちだ。ライムにバフ魔法を――
「――ライム、バフを頼む」
(ぷくー……)
頬を膨らませて、プイッとそっぽを向かれてしまった……
「え? なんで……?」
「アイダリンにお姫様だっこ」
え? いやそれは仕方なくね? あのままだとアイダリンは、あのカエルの下敷きになってただろ!?
「ちょ……ちょっとキュンってしちゃいました」
アイダリンも余計なこと口にすんなや!
「むー……」
さらに頬を膨らます妹様。
あっちにいるカエルより頬が膨らんでいるんですけど? あれ? 敵ってあっちだよね? 憑依系の敵じゃないよね?
正直、このボスと戦おうなんてするプレイヤーの平均ステータスは、僕のステータスなんかよりずっと高いのだろう。
さらに僕はスキルレベルもまったくと言っていいほど育っていない。
それをなんとかギリギリで補っていたのはライムのバフである。
「お、おーい? 妹さんや? 機嫌を直して――」
「にーちゃ、対価無くして人は動かず。だよ」
「世知辛い!」
ど、どうすればいいんだろうか?
ライムさんが納得する対価って……
「あ、愛してるよ、My sweet baby……」
「もうwmaで持ってる。さらに感情が篭ってない」
「だから消せよォォォ!!」
妹様、もう勘弁してください。
「……行ってくる」
致し方なし、と気を取り直してボスに足を向ける。
ズシンズシンとこちらに向かって移動を始めたカエルに、これ以上の問答をする時間は無くなってしまった。
「にーちゃ、後でお話し」
そう言いながら、ライムが杖を振り上げると、僕の身体に赤と青のキラキラした光がエフェクトが降り注ぐ。一応バフは掛けてくれるようだ。
だが、妹様は完全にヘソを曲げられてしまわれたようだ……後が怖いよ。
巨大ガエルの名前は“ジャイアントポイズントード”……普通だけど意外と長い名前だな。
これアレだ。『ポイズントード』が通称になったはいいけど、ジャイアントじゃない、通常サイズの『ポイズントード』までゲームに出てきちゃうタイプだ。
なので『大ガエル』とかって呼ばれるようになるんだけど、『ジャイアントパラライズトード』とかも出て、さらに困るんだ。
仕方なく次は『大毒ガエル』で定着しかけるんだけど、『猛毒ガエル』まで出て紛らわしくなる。
そういう罠の臭いがぷんぷんします。
等とどうでもいいことを考えていたら、カエルの口がパカリと空いて、ピンク色の舌がシャッと襲いかかってきた。
「おっと」
それを避けながらも、拾った小石を舌先に放ってみる。
小石は舌にくっつかず、そのまま跳ね返った。あの攻撃は捕食行動ではなく、打撃攻撃か……
まずは敵の様子見だ。どんな攻撃をしてきて、どんな特性があるのか。
ポイズンっていうぐらいだから毒もあるはずだ。
カエルという生物は毒を持った種類のものが多い。
だがその大体は、捕食されない為の身を守る毒なので、体表を覆う分泌液だとかに毒があることがほとんどだ。ヘビのように相手を殺すためのような毒ではない。
素手で戦う武闘家なんかがいるこのゲームで、触れただけで毒状態になるとは考えにくいが……
「とりあえず牽制に魔法を――」
ん? カエルの弱点属性ってなんだ?
普通に考えれば冷気=氷なんだろうが……ゲームでは氷=水属性という場合が多い。
いや、カエルに水は効かんだろ……
「ええい! なら『マジックミサイル』」
無属性の魔力の塊をカエルに撃ち込む。
カエルの顔にマジックミサイルが当たると、カエルは嫌そうに顔をしかめた。
その間に回り込もうとカエルに近付く
――が……
『ゲッコォ!』
「跳んだ!?」
頭上高く跳んだ巨大カエル。
そのまま僕を押し潰さん、と僕の真上へ。
それをヘッドスライディングで緊急回避する。
――ズズンっ!
すぐ後ろで超重量の物体が落ちてきた事による地揺れが――
冗談じゃない……あんなの直撃したらひとたまりもないぞ!
「いきなりマジだな!? 運営!」
今までの、どこかなるい敵と違い、本気でプレイヤーを殺しにかかっている。流石はボスモンスターと言ったところか。
――だが、あくまでもゲームのモンスター。対処方法はある。
舌を伸ばしてくる前に口を開けるモーションがあるし、ジャンプする前にもタメがある。
妹様も言っていた。
『理不尽な初見殺しなんてゲーム、今時そうそうない』――って。
体勢を立て直し、盾を構える。
そう、ゲームなのだから攻略法があるのだ。
どこぞの異世界のように、数百メートル先からガトリングガンのように魔法を放ってくる魔族やら、かすっただけで死ぬ猛毒の牙を持つ魔物が、数十の単位でいっぺんに襲って来ることなどない。
『ゲェッコ……』
ガパリと大口を開ける大ガエル。
その口の中からピンクの舌が飛び出す。
「ッシ!」
それを盾で受け流すように逸らし、伸びた舌に一撃を入れる。
手応えはあった。
――だが、舌を斬り落とすことは能わず、斬れることのない舌はカエルの口の中へ戻っていってしまう。
グラフィックのダメージ差分が無いってのは、意外と厄介だな……
「妙な感覚だ……」
身体の一部分を攻撃して、徐々に敵の行動の選択を減らさせるというのは大型の敵との戦いにおける定石。
だが、ゲームにおいては破壊可能部位として設定されているか、そうでないかでその定石が崩れてしまう。実に厄介だ。
『ゲッココッ!!』
「っ来るか!?」
グンと腰を落とした巨大ガエルは、前方に低空で飛び掛かってきた。
横に避けた僕の目の前で、バクンとカエルの口が閉じる。
「……喰われたらどうなるんだろうな」
一撃死とか、胃の中で消化なんてことにはならないとは思うが、あえて喰われてやる意味も無い。
カエル硬直時間に、そのまま側面から二度斬り付ける。
だが流石はボス。大したダメージが通ったような素振りはまったくない。
雑魚相手なら数度攻撃すればなんとか倒せたので気にはならなかったが、こう先が見えないと違和感が酷い。
一度距離をおいて、次の行動に備える。
「ライム、ヤツの対処法は……?」
「知らない」
「お、おぉい……」
まだむくれてるのかい? 妹さんや……
「あ、あの……ライムさん? もう赦して差し上げては? 師匠もあたしを助ける為にしたことだったんですし……」
アイダリンの援護射撃が入った。
そうだ! がんばってくれアイダリン!! 我が家庭の平穏の為に! 主に僕の平穏の為に!
「そもそも本当に知らない。カエルとの近接戦の情報自体がほとんどない。『前衛は潰されないように下がってろ!』がほとんど」
えー? じゃあどうやって倒すんだよ、このカエル。
「それはともかくとして、そろそろ機嫌を直してくれませんか? ライムさんや」
「にーちゃ、後でほっぺにちゅー」
「ハードルたっかいなぁ……」
「なら赦さない。ついでににーちゃの声で作った音MADを動画公開する」
やめろってぇ……肖像権を守ろうぜ……?
「……ゲームでだぞ? リアルでは駄目だからな?」
「ならよし」
むふーと鼻息高くライムが胸を張る。
どうやら、なんとかご機嫌取りが成功したようだ。
――
『ゲコッコ……』
さて、タイムアップのようだ。僕を追いかけてきたカエルが近づいてきた。
どうにかこいつと殴り合いの戦いをしなければならないわけだが――
『サンダーランス!』
アイダリンが放ったイカヅチが、巨大ガエルを襲う。
……そうか、水棲生物には雷撃か。
実際には水棲生物に電撃を落としても、体表の水に電気が流れて効かねぇぞって聞いたことがあるけど……
でも電気を使った禁漁のビリってのもあったな……実際どうなんだろうか……?
異世界だと属性相性とか別に考えなかったしなぁ……
ぶっちゃけ燃やそうが水圧で圧し潰そうが岩をぶつけようが爆発させようが、大抵の奴は死ぬ。
『ゲゴォ!』
カエルの顔がアイダリンに向いた。
しまった! 僕が大してダメージを稼げていなかったから、今の魔法でアイダリンにターゲットが移ってしまったか!?
カエルとアイダリンの間に割込み、アイダリンを狙った舌攻撃を盾で弾く。
「アイダリン! もう少しヘイトを稼ぐ! しばらく待機していてくれ!」
曲がりなりにもボスに挑戦しようと思って来たアイダリンのステータスは、僕のステータスよりもずっと高かったようだ。
アイダリンも、幾度か僕が攻撃していたから大丈夫だと踏んだのだろうが、たった一撃で僕の与えたヘイトを上回ってしまった。
STRもちゃんと上げないと駄目だなこれは……
これまでに分かったのは、あのカエルの攻撃は連続性に乏しいこと。
舌伸ばしは発生してからが速い。ジャンププレスは範囲が広く、飛び込み攻撃は突然に間合いを詰められる。
だが、ひとつひとつの攻撃には長い合間があり、連続しての攻撃をしてこない。
(攻撃は単発だから避ける分には問題はない。――だが、問題はその隙にどれだけ攻撃が出来るかということだな)
僕が純粋な盾職であれば、ヤツの攻撃を防ぐのに集中して、アイダリンに攻撃を任せてしまってもいい。
だが、そうでない現実、僕の盾で舌伸ばしぐらいなら捌けるが、飛び込み攻撃でもされた場合、僕自身も回避に徹する他ない。
そうなればアイダリンが敵の攻撃範囲にまで入ってしまう。
「にーちゃ、ボスのHPが回復してる」
「はぁっ!?」
なんだそれは? キノコ怪人のところで勘違いした再生能力を、コイツは持ってるというのか?
「っていうか、なんでお前には敵のHPが分かるんだ?」
「え? オプション設定の【エネミーのHPの表示】をONにすればHPバーが出るけど?」
教えておいてくれよ、そういうのは……
「一部のボスにはHP自動回復がある。ちまちま削ってもダメだよ、にーちゃ」
「チキン戦法は通じないってことか……」
確かにフィールドが広く、敵の移動も遅いこの場合、投擲武器や魔法で逃げながら削るのが一番効果的に思える。
だが、こうしてHPの再生能力があると、かなりの火力で押し切らない限り、安全な距離を保つ為に逃げながらHPを削り切るのは厳しい。
投擲武器にしても魔法にしても、残弾というものがあるのだ。
「はぁ……どの道やるしかないか」
今回は勉強したということで、死に戻りするのは構わない。どうせゲームだから。
しかし、やはりライムが死ぬなんて場面は、仮想だろうが見たくはない。
死んだ者が生き返るなんて世界で、僕は生きては来なかったのだから。
……VRってのは地味にリアリティがあるから厄介だな。血を流して死ぬわけじゃないだろうけど。
きっと、従来の平面画面でのRPGでは、そんなことは考えなかったはずだ。
「……突っ込む。援護を頼む」
今度はライムも嫌とは言わず、強く頷いてくれた。
「アイダリン、僕がやつに張り付いたら、遠慮なく魔法を使ってくれ。ヘイトは気にするな。そのぐらいどうにかする」
アイダリンもしっかりと返事をしてくれた。
――よし、第二ラウンドだ。
戦闘シーンにいまいちメリハリが出せない……




