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29 激情の行く末

 前方に倒れ込む様に体重移動する。それだけで俺の身体はヤツの視界から消えたはずだ。


「ひっ! へっ!?」


 反射的に剣を構えるサボテン。だが――――


「遅っせぇ」


 屈み込んだ身体の足と腰のバネを利用し、ヤツの剣ごと盾で体当たり(シールドチャージ)


 腰の浮いた馬鹿なんぞ、それ一撃で吹き飛ぶ。


「ガッ!? 痛ってぇ……」


 ヤツの手から離れた剣が、カランカランと乾いた音を立て、ヤツ本人は受け身も無しに地面に仰向けになる。

 ……ナメられたもんだ。この程度の餓鬼に喧嘩を売られるなんてよ。


 無防備な腹の上に、ドスリと腰を下ろした。


「ち……チクショ――」


 サボテン野郎の右手が光る。

 その瞬間にその手を盾でぶん殴ってやる。


「!?」


 またもや地面に乾いた音を響かせる剣。今度はショートソードか。


「畜生はテメェだ、クソ餓鬼。鶏でもテメェよりは賢いぞ」


 ――吠えるしか能のない駄犬が。誰に噛み付いたかを教えてやる。







 ―――― 


 盾で顔を吹っ飛ばす。空いた右手でヤツの襟首を掴んでいるので、衝撃が逃げてしまうことは無い。

 盾は腕の固定を外して、固定具を手に持っている状態だ。つまり、殴り特化。



 ――ガン、ガン、ガン。



 クソ野郎の顔が右へ左へと赤べこみたいに吹き飛ぶ。

 往復ビンタの盾版だ。



 ――ガン、ガン、ガン。



 いやー、VRで良かったな? お前。

 別に痛くないだろ? ちょっと衝撃があるだけでさ。



 ――ガン、ガン、ガン。



 盾で攻撃しても、ダメージはあまり入らないんだな。素手の方が強いのかも知れないな。



 ――ガン、ガン、ガン。


 吹っ飛ばす、吹っ飛ばす、吹っ飛ばす。



「も、もう止め――」

「まだ死んでない」



 ――ガン、ガン、ガン。


 もげろ、もげろ、もげろ。



「わかった! もうギブアッ――」

「黙れ、殺す」



 ――ガン、ガン、ガン。


 死ね、死ね、死ね。



「しぶといな」

「ひ、ひぃ――」



 ――ガン、ガン、ガ……



「あれ?」


 ふっ――と、霞のように、あのカスが消えた――


 そう思ったら、ちょいと離れた場所に転がっていやがる。


 なんでだ? まぁいいや、ちゃんと駆除しなきゃな。あの害虫。



 ――そう思ってクソ虫に近付こうとした俺の前に、白い服をきた男が立ちはだかった。


『お待ち下さい“ユーシ”さん。ゲームマスター権限で、PVPを強制終了させました。これ以上の攻撃は無効です』


 え? なにコイツ。なに余計なことしてんのコイツ。

 

「なんだ? ゲームマスターも俺の敵だったのか? まぁいい。PVPじゃなくても、HPは減らせ(殺せ)なくても衝撃だけはあるんだよな?」


 足りないわ。全然殴り足りない。

 だって、クソビッチって言ったんだぜ? 俺の未来を。


『……どうかお待ち下さい。――ただいまお二人に接触不可能設定を施しました。現在、お二人の身体は透過され、接触自体不可能です』


「……なんでお前が邪魔するんだ? 何故?」


 別にチートでも、ルール違反でもねぇだろ? ただ、救い様のねぇ馬鹿餓鬼に教育をしているだけだ。

 発言には責任が伴うってことをな。



『このままではプレイヤー:“カクトゥス”が心的外傷後ストレス(PTSD)障害に陥る危険性があります』


「知ったことか」


 ちょうどいいんじゃねーかな? リアルで殴れなくて残念だったんだ。そのぐらいでちょうどいい。うん、ちょうどいい。



『“ユーシ”様……あちらをご覧下さい』


 ――と、ゲームマスターが指す方向に億劫ながら目をやる。


「――あ」



 そこには、自身の目を固く閉じ、アイダリンの頭を抱える未来の姿があった。


 何も見ないように、と、額に皺を寄せて目を閉じる未来と、それに守られ、寄り添うように身を屈めるアイダリン――



『あちらのプレイヤーお二人の精神にも悪影響を及ぼす危険が御座います。どうぞ鉾をお納めになって下さい』


 ゲームマスターが、深く深く、俺に頭を下げる。


「え、あ……」


 ボロボロになった男を、なおも執拗に殴り付ける俺の姿――

 傍から見れば、それはどんなふうに見えるだろう。



――――


 脳裏をよぎるのは、遠い日の光景。


 火の手が上がり、オレンジ色に染まる夜の街。

 町民を逃がす為、魔族に立ちはだかった兵士の一人。



「あ……あぁ…………ィア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!!!!」



 ――倒れた兵士に、何度も何度も爪を立てる魔族の男。

 一刺しするごとに悲鳴が上がり、その数と同じくして魔族の歓喜の声もあがる。


『ヒハッ! ィ……イヒヒヒ!』


 何度も何度も何度も何度も、死に難いところを狙って爪を突き刺してゆく。

 刺し、抉り、吹き出す血の量が少なくなっても、何度も何度も。


「ェあ……殺せ……コロして――おねが――」

『イヒ! イヒャヒャヒャ!!』

「痛……痛い……コロ、コ、おね――」


 泣き叫び、殺してくれと懇願する兵に、魔族は笑いながらなおも傷を抉っていた。


 ただ、痛めつけるだけの為に――




 ――――


 その光景を思い出し――頭の芯に、氷を直接ガラガラと注がれたかのように、俺の頭は冷めていった。


 俺は……あんなものを未来や、アイダリンに見せようとしていたのか――?



 ゲームマスターの眼が、俺の眼を真っ直ぐに見ている。

 作り物めいてはいるが、その眼は真剣そのものだ。



「…………悪かっ――いや、すみませんでした。頭が冷えました」


 ゲームマスターに、真摯に頭を下げる。


 怒りに流されて、取り返しのつかないことをするところだったかも知れない。


『いえ、お気持ちはお察します……』



「……終わった? にーちゃ」


 抱えていたアイダリンの頭を解放し、とてて……と俺――僕に駆け寄って来る未来――ライ厶。


「あ、うん……ごめ――」

「そか、おつかれにーちゃ」


 そうして、何でもないように言って、僕の手をきゅ――っと握りしめてくるライ厶。


 いつもと同じように、まったくもって、まるで何事も無かったかのように――



「……怖くは、ないのか?」


 僕が。


「んー? んー……」


 未来の視線は宙を漂ってから、僕の眼に合わさる。


「なんとなく、にーちゃは私に見られたくないんじゃないかな? って感じたから、目は閉じてた。けど、あれはにーちゃを怒らせたアイツがアホなだけ」



 ……はは、うちの妹は凄いなぁ。太刀打ちできそうにないよ。

 強くて暖かくて、いやになっちゃう。



「にーちゃ、泣いてる?」

「……泣いてない」





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





「ッハぁ……! て、テメー……おい! GM! こんなあぶねーヤツを野放しにしておく気か!? BANだBAN! さっさとしろよ! コイツぜってぇ二、三人殺してんぞ! リアルで!」


 ……って、こいつも強いなー、見習いたくはないけど。

 ちなみに二、三人じゃ利かない。ぶっちゃけ桁が違う。下手すると二桁違う。



『プレイヤー:“カクトゥス”からの要請により、不正行為の監視を実行。調査の結果、不正行為を検出致しました』



 ……え?



「ほ……ほれ見ろほれ見ろ! このクソチーターがっ! BANだBAN! ハハ……二度と顔見せんなよっ!!」


『――プレイヤー:“カクトゥス”から、“スキル高速化”及び“スキル威力増大”の不正改造コードが検出されました』



 ……へ?



『利用規約第14項目により、暫定的な処置として、プレイヤー:“カクトゥス”は一旦強制ログアウトされます』


「ハハハハ、アハ――はぁ……ッ!?」


 ゲームマスターの天使さんが、無感情に言葉を紡ぐ。


『以後の処置の内容は、当運営で審議された後に、追ってメールで通達されます。しばらくお待ちください』


「ちょ――待てよっ!! 『“高速化”と“威力UP”程度はチートに入らない』って、掲示板で――」


『“実行”』



 ――パチュン、と

 わずかな音を残し、サボテンはこの場から消え去った。


 ……辺りに静寂が生まれる。

 先程までの騒ぎが、まるで泡沫のようだった。






 …………


「人をチーター呼ばわりしてたヤツがチート使ってたとか……もう笑う気も起きないね、にーちゃ」


「まったくだなぁ……」


「あの人、アカウント削除でしょうか?」


 ととと、と、いつの間にかアイダリンが傍まで近付いてきていた。


「あ……すまん……アイダリン。怖い思いをさせちまった……」


「え? いえ? 実は、ユーシさんがおっかない声を出し始めた時に、ライムさんに耳を塞がれて頭を抱えられちゃいましたので――」


 アイダリンは顎に指を当て、コテンと小首をかしげて見せる。


「見えないし聞こえないしで――正直、なにがなんだかよく分かってないです。えーと……勝ったんですよね? あの迷惑な人に」


 ライムに視線を送ると、グッ――っと親指が突き立てられた。

 ホント、良い仕事をするよ。うちの自慢の妹さんは。



『とりあえずはアカウント停止処分。それから精査して、おそらくはそうなるでしょう。プレイヤー:カクトゥスが悪質プレイヤーとして通報された回数も多いようですし』


 ゲームマスターのその言葉に、ライムが眉をひそめた。


「腑に落ちない。被害が多かったなら、なぜ野放しに?」


 と、ライムのその言葉に、今度はゲームマスターの眉尻が下がる。



『プレイヤーの悪質行為については、例えばプレイヤー:“ユーシ”ですが――』


「ん? 僕?」


『はい。プレイヤー:“ユーシ”にも、迷惑プレイヤー通報が5件、運営に通達されています』


 うぇ!? 僕なんかしたかっ!?


『――5件全て、同一プレイヤーからの通報ですが……』


 あ……察した。




『プレイヤーの皆様には大変申し訳ないと運営一同、悔恨の思いですが……なにぶん、正式リリースからまだ約一週間ほど――複数のプレイヤーによる、個人攻撃として『迷惑プレイヤー通報』を使われる事もまま有ることでして……情報の精査が行き届いていない状況なのです』


 精査しないと、迂闊にアカウント削除処分は出せない。しかし人手が足りない……か。



『それでは、皆様。私はこれで失礼します。引き続き、どうぞ“brand-new World”をお楽しみ下さい』


 ぺこりと綺麗に頭を下げるゲームマスターさん。


「あ、はい……お手間を取らせました」


 スッとゲームマスターの人は、僕に耳打ちする。


『いえ、実は我々も、あのプレイヤーにはよく分からない理由で呼び出されることも多く、辟易してたんですよ』


「はは……」


『それでは、失礼します』



 ゲームマスターさんはニコリと微笑むと、光の中へ還っていった――

感想の返しですが、活動報告に書きましたが、すべてにお返しするのは難しくなって来ています。

大変申し訳ありませんが、ご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] さっさとブラックリスト化しといたら良かったのにってワケ。
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