28 みたびのサボテン。怒りの兄
「またPOPした。あのサボテン」
「あ、あぅぅ……」
赤い赤い、とにかく赤い姿のプレイヤー。言わずと知れたサボテンがまたやってきた。
今回はさらに赤いマントを引っ提げての登場だ。次は赤いマフラーだろうか? 正義の味方にゃほど遠いと思うが。
「アイダリン……確認するんだが、ストーカープレイヤーってアイツのことか?」
こくこくと首肯するアイダリン。
…………どうやら、アイダリンがこんな目に合ってるのは、あのスットコドッコイのサボテンの所為らしい。
「いきなりアイダリンのフレンド登録が消えたと思ったら、お前の入れ知恵かよ! いい加減にしろよな! このチーター!」
「チーター? ですか?」
「凄いって意味ならチートだね、にーちゃは」
冤罪です。名誉棄損で訴えますよ? このサボテン。
「なー? いい加減にBANされろよBAN! 運営も無能だよなぁー! GMに言っても『不正行為は検出されませんでした』とか言いやがるんだぜ? それぐらいちゃんと調べろってんだ。ハッキングされ放題じゃねーか」
うん、そりゃ当たり前だ。何もしてないもの。
ゲーム内のメニューウインドウ操作にも慣れていない電子音痴に、キミは何を期待してるんだ?
ついでにチートとハッキングは、ハッキングとクラッキング以上に別物だと思うんだ。
正直、ハッキングとクラッキングの違いは覚えてないけど。
後、よく見たらアイダリンの頭の上には『×カクトゥス』の文字が……
アイダリンは、既にこのサボテンをちゃんとブラックリスト入りさせてたんだね。
まぁ、当たり前っちゃ当たり前だけど……
「あの……えーっと」
「不本意ながら、私たちもあのサボテンと知り合い。同じく迷惑を被っている」
「そうでしたか……」
同類相憐れむ――って感じの、憐憫の目で僕らを見つめるアイダリン。
「チートでBAN出来ないなら、迷惑行為でBANすりゃいいのになっ! この悪質プレイヤーがっ!!」
「キミは両手剣じゃなくてブーメランを使うといいよ。もうそれしか考えられないぐらいにピッタリだよ」
あ、でも戻って来たのを、受け止められるかな? 無理だろうな……
「あ? そんな弱そうな武器、使うわけねーじゃねーか」
皮肉も通じないときたもんだ。
「しかもお前の武器……ぶぶふっ……なんだソレ、ダッセ! しかも赤い服って、オレのパクリかよ? ダッセェ!」
うるせぇな、僕は質実剛健を目指しているんだよ。
それと赤という色が全部自分発信だと言い切りましたよ? この子。
真っ赤なザクに乗ったリヒトホーフェンに踏み潰されるがいいわ。
「喚いて気が済んだか? お疲れ様。じゃ、行こうみんな」
「あ゛? 待てよチーター!」
だからなんだよ……こっちが我慢出来てる内に視界から消したいんだが?
ちょっと粋がっちゃった子供ってだけだったら、僕もそう気を荒立てたりしなかった。
だけどももう、お前は色々な人に迷惑を掛け過ぎた。やっちゃいけないレベルまでやってしまっていた。それを僕が知ってしまった。
そう、てめえが俺の妹をビッチ呼ばわりしたことも知ってるんだからな。
マイテにも迷惑をかけて、パーティに居づらくした。
アイダリンも困らせて、てめえのせいでゲームそのものを止めようかとまで悩んでいた。
てめえの無思慮で自己中心的なアレコレで、アッチコッチで大迷惑だ。
「……なんだよ。手短に言え」
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。イライラするな自分。ビークール。
サボテンはニタニタと嘲笑っていた。気色悪い。
「今、GM呼んだからな。GM立ち会いでPVPしろよ。流石にGMの前じゃチートできねーだろ?」
「勝手な思い込みで、さらに人に迷惑かけんのかよ」
「こっちは金払ってんだ。客が気持ちよくプレイ出来るようにすんのは、運営の義務だろ」
「……そうかよ、ならやってやるよ」
ならばさっさと来いゲームマスター。こんなヤツをのさばらせやがって。
ゲームってのは楽しむ為にやるもんだろ? 人を悲しませるヤツに、ゲームをする資格をいつまでも与えたままにしやがって。
「にーちゃ、大丈夫……?」
未来が俺に寄り添って、手を握ってくれた。それだけで血管が切れそうなぐらいに激昂しかけていた怒りが鎮まってくる――
「ああ、大丈夫だ。サンキューな」
そうしてしばらくすると、何も無い場所から光が現れた。
そこから純白のトーガ、真っ白な羽根の、天使のような恰好の男が姿を見せた。コイツがゲームマスターだろう。
金髪碧眼で彫りの深い西洋人顔。ずいぶん作り物めいた顔だ、サボテンといい勝負か。
ゲームマスターなんてものは、ほとんど苦情受付係みたいなものだろうから、逆恨み対策に、リアルの面影すらないキャラクターを使っているのかも知れない。
『お呼びを聞きつけて参りました。どのような御用でしょうか?』
ゲームマスターの言葉に反応し、即座にクソサボテンが口を出す。
「おい、運営が仕事しねーから、オレが悪質プレイヤーを叩き出してやるわ! PVPして、コイツ負けたらBANな! チート使わねーようにちゃんと見張ってろ!」
……いや、そんな理由でBANとか出来るのか?
「にーちゃ、GM立ち会いの元でのPVPは、双方の同意があれば、プレイヤー同士の要求を通すことが出来る。けど――」
『申し訳ありません。その様な理由でのアカウント削除処分は、当運営側では承りかねます』
……だよな。
「あ゛? んなヌルいこと言ってるから、こーゆーチーターが大きな顔してんじゃねーか! どんだけ無能なんだよ運営!」
ああ、イラっとするが、それだけはサボテンにちょっと同感だわ。
なんとかしろよ、その馬鹿。被害者の会が正式に立ち上がっても不思議じゃねぇぞ。知人だけで三人。既に甚大な被害を被っているわけだが?
「まぁいいわ。んじゃ、とにかくチート見張ってろ。前にコイツがチート使ったからな」
『そちらのご用件は承りました。不正プログラムの監視をリアルタイムで集中的に行います』
「ハッ、チート使ったらBANだし、負けたらこのゲームに居られない様に、しっかり宣伝しといてやるからな。『一回目はチート使って勝ったけど、二回目はGMにチートを見張られてて、ボコボコにされたダセー奴』だって」
どうせ既に俺がチーターだとか、各所で喚いてるんだろ? いまさら誰がお前の言うことを信じるってんだよ?
「……面倒くせぇ御高説は終わったか? サボテン野郎」
――【Ready?】
俺とサボテンの間に、カウントダウンタイムが表示される。
未来をそっと押してアイダリンの元へ促すと、俺は視線をサボテンに固定した。
――カウントダウンが進む。
サボテンは背中の両手剣を抜き、構える。
俺は半身のまま、ただカウントダウンを待った。
――【3】
「……? 抜けよ」
「必要ねぇよ」
――【2】
「でけー口叩きやがって。チートしたらBANだからな、BAN」
「いい加減聞き飽きた。バンバンバンバン、ガキの鉄砲ごっこか?『うわー、やられたー!』……なんて言って倒れてやるほど、俺の心は広かねぇよ」
――【1】
「散々、人をイラつかせやがって、これでテメーも終わりだ。バーカ」
「肩の力を抜けよ“ソードマスター”……“本物”に笑われるぞ?」
――――……【Go!!】
『ソニック・スラッシュ!』
「遅っそい音速だな」
開幕一番。アクセル・スラッシュの上位スキルだろう突進スキルで近づいて来たサボテンの横薙ぎを、スウェーで躱す。
初撃が躱された所を見たサボテン野郎は、その剣で大地を強く叩いた。
「っち、『マイト・スプラッシュ!』」
「ある意味びっくりだわ……」
剣で地面を叩きえぐり、その勢いで石礫を飛ばしてくる。
剣が駄目になるぞ? 普通。
後ろに跳びながら、大きめの礫を盾と手の平で適当に受け止める。
パラパラと降り掛かる程度の粒にダメージは無い。
――さらにサボテンの連撃は続く。お次は青い光を纏った剣を、とんでもない間合いで振りかぶった。
「ッハ! 隙あり! 『ソードウェイブ!』」
「うへぇ、なんでもアリかよ」
縦に振った剣から発生する衝撃波。
ご親切に、見やすい様に青い色が付いてるね。
軽く横に跳んで回避。
ちなみに俺の何処に隙があったか訊きたいな? 脇の甘い“ソードマスター”様。
――ソードウェイブの衝撃波と共に駆け込んで来たサボテンは、僕の目の前まで来ると、これまた大きく剣を振りかぶる。
『ハイパワースラッシュ!』
はいはい、大技ね。パワースラッシュの上位版ね。
パワースラッシュより多少ばかりエフェクトが派手になったそれを、盾で軽く逸らしてやる。奴の剣はそのまま無意味に地を叩いた。
剣を構えなおしたサボテンは、突きの体勢を取ると、なんの奇をてらうこともなく剣を突き出してくる。
『スプラッシュ・エッジぃ!』
この間効かなかった技な? 繰り出される連続突きを全て、盾で受け流してやる。
スキルレベルが上がったのか、この間から比べると、ちょっとばかり速くはあるが、それだけだ。
と、ここでサボテンの連撃が終わる。剣をだらりと構え、攻撃するそぶりも見せない。
MP切れか? それともスタミナが無くなったか? 無駄な動きが多かったものな。
「どうした? タネ切れか? 満足したならこっちから――」
「ハッハッハ……! ハァッハハハ!!」
ここで突然、高笑いを始めるサボテン。
……いや、お前完封0点だぞ? 今のとこ
「おい! 見たかGM! こいつチート使ったぞ! さっさとBANにしろよ! なぁ!」
『プレイヤー:“ユーシ”からは、不正行為は検出されていません』
「ハァ!? チートじゃねーか! 確実にっ!! あんな動きが普通出来るかっ!」
……それで勝ち誇ってたのか、しょーもない。
「……で、こっちも攻めていいのか? 冤罪野郎」
「ざっけんなよ!? 運営もグルか! テメーどうやって運営を味方につけたんだよっ!?」
……運営に知り合いなんざいねーよ。ゲームマスターの容姿もさっき初めて知ったってのに。
まったく耳障りな奴だ。そろそろ――
「ハッ! あーそーかッ! あのクソビッチを運営のトップにウラせたんだろッ!? 便利だな! あの○※#*はっ!!!!」
――――…………
――……
「――――……あ゛?」
今、この馬鹿はなんて言った?
「だから、そこのクソビッ――ひィッ!?」
「テメー、今、なんつった? また言ったな? なんつった?」
「う、運営とグルかって――」
「その後だボケ。あ゛? テメ、俺の妹をビッチ扱いしたな? なぁ、おい。言ったよな? 俺の妹をよ」
「い、いや……言ってな――」
「言ったよな? 言った。なぁ、オマエさ、なんだ、オマエさ、アレだ、オマエさ――」
なんだ、もう、目の前が、チカチカして、何がなんだか分からない。
ただ、解ることは、目の前の、コイツが、とにかく、赦せない。
「――死ねよ?」




