表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/160

23 花言葉

 さて、悪ノリはそこそこにしておき、ハヤトくんのバット握りを矯正し、武闘家の子には常には敵に張り付かず、魔法使いの攻撃のチャンスを作るように指示した。

 それだけでも多少は改善されるだろう。


 なんだかんだで夕飯の時間に近くなってしまったので、“帰還の晶石”で街まで戻り、ログアウト。


――【サーバーとの通信を切断しました。またのプレイをお待ちしております】――


 そして、ベッドの上で意識が覚醒する。


 こうしていると、「寝なくてもVRやっててば良いんじゃない?」と言う人がいるらしいが、VRをやっている最中は、身体は休まっても脳は休まらない。

 特にVRは直接脳に情報を送り込むようなものなので、脳の疲れは大きい。人間が使っていないと云われる眠れる大脳(サイレント・エリア)のリソースを上手く利用しているそうだが、脳を刺激していることに変わりはないだろう。

 あれって実際は脳の大部分を使ってないんじゃなくて、なんの用途で使っているか昔の学者さんじゃ判明出来なかっただけっていうしね。

 ……まぁこうやって一般に販売、普及しているんだから、安全水準はクリアしているはずだ。


 それはともかく――まぁつまり、VRをやってる時間とは別に「ちゃんと寝ろ」って話。



 VRギアを着けたまま、むくりと上体を起き上がらせ、周囲を見渡す。

 どうやら妹様の罠は今回は無さそうだ……


 ダイブモードが終了しても、少しの間はビジョンモードで待機することが推奨されている。

 ダイブモードの後は酔いやすいらしい……ビジョンモードでそれを緩和して現実と調整するのだとか。自律神経と副交感神経の問題かな? よく分からんけど。


 もうダイブモードに慣れている妹様は平気らしいが――


「ん……?」


 部屋の入り口に何かが落ちている……なんだろう? と注視すると、柔らかそうな布切れっぽい。


 ――黒と白のストライプ――

 あれ? 何処かで聞いたような――



 ダァァァァンっ――!



 はい、勿論妹様です。

 蝶番(ちょうつがい)が傷むから、普通に入ってきて下さい。


「ふ……にーちゃ。どう?」

「……どう? と訊かれてもな?」


 今回の妹様は、VR機を着けたままのご入室だった。


 妹様は足元に落ちている布切れを拾うと、それをゆっくりと広げた。


「白と黒のストライプ――今日、聞いた覚えはない?」


 妹様の手に持っているのは、間違いなく――パンツだった。


「なっ……!?」


「クックック……今朝言ったよね?『今日の私のパンツの柄は白と黒のストライプ』だと――この意味がわかるよね?」


 もしや――ノーパン――だと……?


「おっと? VR機は外しちゃ駄目だよ? 実はこのパンツは立体映像オブジェクトで、本物は私が履いているかも知れない――しかし、このパンツは本物で私はノーパンかも知れない――もちろん、本物であっても私は別のパンツを履いているかも知れない――」


 ……何が言いたいんだ、この子は?


「つまりこれはシュレディンガーのパンツ! 私がパンツを履いているかどうか、観測するまでは分からない!」


 妹様はととと、と、僕のベッド脇まで近付いてきた。


「さぁ、観測して、にーちゃ! これは学術的行為、崇高な行動だよ! いまこそ! 妹のスカートを! 捲し上げるのだっ!」


「な、なんと……」


 その言葉に僕は――



 VRギアを外した。



「立体映像じゃん」


 未来の手の中には何も無かった。


「に、にーちゃ……にーちゃには学術的えー……っと、なんちゃらにかんちゃらする崇高な意思はないのっ!?」


「なんちゃらとかかんちゃらとか言ってる時点で、崇高さなんか欠片もないなぁ」


 とりあえずお前はシュレディンガーさんに謝れ、世界中の量子学者に謝れ。






 ―― …… ―― …… ―― …… ――






 夕飯は豚の生姜焼き。お風呂に入ってからベッドへ。


 今は未来の入浴タイム。どうでもいいけど、なんで毎回脱衣所のドアを少し開けておくんですか? わざわざ自然に閉まらないようにドアストッパーまで使ってますよね?


 ……まぁいいや。



 僕は脱衣所の脇をスルーし、部屋に戻る。

 VR機を起動させ、“brand-new World”の世界へログインした。





――【“brand-new World”へようこそ】――





 ログインした後、とりあえず街を散策してみることにした。


 ――華の街ファアート。

 街のあちこちで色とりどりの花が咲き、建物にも花の形のオブジェクトが多く使われている。


 建物は多くあるが、ほとんどは外装だけで、中には入れないらしい。ゲームだしね。

 まぁ、入れても謎空間に飛ばされるのがオチなんだろうけど……



 市場通りに差し掛かる手前で、路地の脇にぽつねんとゴザを開いた露店が目に止まる。


 若い青年の開く店だ。


「ちょっと見せてもらっていいかな?」


「っしゃいー」


 まだ市場街に入る前の区域なので、NPCのショップだろう。

 ランダムで出るNPCショップの露店には、偶に掘り出し物が出るという話だが……



 どうやら、ここはアクセサリーショップらしい。


 アクセサリーは補助的な防具で、特殊な能力を持ったものが多い。

 特定のスキルのダメージが上昇する……とか、麻痺耐性が小上昇する……とかだ。

 VITが1上昇とか、まぁ微妙なものも多いが、あるとないとではあった方がいい。


 華の街だからだろうか? その露店には花をモチーフにしたものばかりだった。


 そうだな……ライムに何か買ってみようか、日頃の感謝の気持ちも込めて。



 ――とは言っても、掘り出し物を探すのは存外に大変。

 こういう露店では、アイテムを手で取ってみてから、仮所持品としてからアイテム詳細を見なければならない。

 だからこその掘り出し物なのだが……


 ……ん?


 ひとつのブローチが目に止まる。

 多弁の青い花をモチーフとしたブローチで、花弁はツンツンしているのに、なんだか柔らかいイメージのする不思議な花だ。


 手にとって見ると【ニゲラのブローチ】と出た。


【ニゲラのブローチ】

:ニゲラ(クロタネソウ)を模ったブローチ

花言葉は“未来”


Love in a mist:時間経過により、装備者に向けられるヘイト値を小減少させる。



 ――ん? これはアタリなのではないか?

 未来の使うヒールやバフでもヘイトは溜まる。それを少しでも減らしてくれるのなら僕も戦いやすい。


「これはいくら?」


「あー、うーん……1500ぐらい?」


 oh……すっからかんで南の森に行って稼いだのが、またもやすっからかんに……


 でもまぁ、おトクな買い物ではあるよなぁ……


「うし、買った」

「ぁいっどーぁりゃっとござっすー」


 何語だよ。


 なんだかやる気の無さそうな店員さんからブローチを受け取ると、いそいそと仕舞い込む。



 ――ぴろん!


 と、どうやらちょうど妹様がログインしたようだ。


 僕はコートのポケットにはいったブローチを指でなぞると、妹さんのいる場所へと急いだ。



 ニゲラを画像検索すると、なんだか真ん中が微妙にグロい花が出ます……

 花言葉だけ気に入ったのでこれにしましたが、真ん中(花芯?)の部分はいい感じに脳内補完して頂きたく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ