22 イモっぽい勇者
「……あー、その、なんだ。みぃ」
「……ライムでいいよ、にーちゃ」
「……おう」
なんだか、白けてしまった空気を換気しようと、少し歩き回ることにした。
POP待ちもいいが、適当に移動していれば、他パーティの手が入っていない打ち漏らしのMOBもそこそこにいるので、時間単位での討伐数は増える。
ただ、面倒くさい。
RPGのレベル上げの何が面倒って、エンカウントする為に十字キーをカチャカチャしてる時じゃない? そういう気分なのである。
「あ! ユーシさんだ! ユーシさぁーん!」
いくつかのパーティの脇を通り抜けた時、またしても知った声が掛けられた。
ブンブンとご機嫌に手を振るのは、少年ハヤト。元気いっぱいのにこやか少年だ。
さっきのみぃが猫なら、ハヤトくんは犬っぽい。
「よう、ハヤトくん。君もここにいたんだね」
片手を上げて応えると、ライムがぴくりと反応する。
「アレが弟……?」
「アレとか言うな、ハヤトくんな?」
タッタと軽快な足音を立てて、ハヤトくんが駆け寄ってくる。
「わ、それがねーちゃんの作った服ですね、似合ってます!」
「おう、僕も気に入ったよ、サンキュ」
ハヤト少年は頬をかいて、すこし顔を赤らめた。
そういう顔をするのはやめなさい、大きなお姉さまに攫われてしまいますよ?
「オレはなにもしてませんケド……あ、そちらの方は?」
「はじめまして、ユーシの『い も う と』の! ライムです」
妹様は警戒態勢の臨戦態勢。
何を張り合っているんでしょうか? この子
「あ、妹さんがいるって言ってましたね! オレはハヤトです! よろしくライムさん!」
だがハヤトくんにとってはどこ吹く風。
キラキラ笑顔でライムに握手を求める。
差し出された右手の指先にちょこんと触れ、「よろしく……」と小声で返すウチの妹。
「ハぁーヤぁートぉー、敵が出たよー!」
「あ、うんー! すみません! 行ってきます!」
「ああ、いってらっしゃい」
パーティメンバーの元に慌てて駆け戻るハヤトくんの様子を、そのまま見送った。
ハヤトくんのパーティメンバーは魔法使いらしき子と武闘家っぽい子、それとヒーラーっぽい子の四人パーティのようだ。
ハヤトくん以外は全員女の子――あれ? ハーレムパーティ?
パーティメンバーの中に、タンク役が居ないのは気になるが、中々バランスの良いパーティなんじゃないだろうか?
ハヤトくんたちのパーティは、各々一匹づつPOPした、ブルーヘッドスネークとたぬ太郎、レッサーコボルトとの戦闘を開始する。
どれどれ? と野次馬気分で、その様子を後ろから見ることにした。
「……ううん、拙いな」
「アレぐらいが普通。にーちゃは異世界脳すぎ」
ブルーヘッドスネークを引き付けるハヤトくんは、両手剣に振り回されてしまっているように見える。ぶんぶんとバットのように振り回される両手剣は、ブルーヘッドスネークの首を狙っては地面を叩き、現実の世界の剣ならとっくに刃が潰れてしまっているだろう。
武闘家の子もたぬ太郎に攻撃しようとしては酒瓶に拒まれ、魔法使いの子もフレンドリーファイヤー(プレイヤーにダメージはないが、当たった時に衝撃がある)を恐れて中々手が出せずにいる。
残ったヒーラーの子はレッサーコボルトを牽制するので手一杯で、バフも満足に使えていない……
「普通のネトゲならクリックぽんなんだけど、VRは実際に身体を動かすからね。余計に拙く見えるんだよ、にーちゃ」
「なるほど……」
僕もあちらに行ったばかりの頃は、敵の動きをよく見ろとか、連携をよく考えろとか、仲間に口を酸っぱくして注意されたな……と、懐かしいことを思い出してしまった。
「もう少し慣れれば普通に戦えるだろうし、ステータスやスキルが上がればゴリ押しも出来るんだけど、あの子たちは昨日からの夏休み組っぽいね。慣れるまでもうちょっとかかりそうだね、にーちゃ」
そうこうしている間に、ハヤトくんパーティの背後から、別の敵の一団がPOPする。
内訳は青大将一匹、たぬき二匹、小犬二匹――今、ハヤトくんパーティの相手にしている敵より、数が多い。
「うっそぉ!? こっちにも!?」
魔法使いの子の悲鳴のような声が響き、ハヤトくんもぎょっとして振り返った。
彼らに新手を相手する余裕は無さそうに見える。
「……やるか」
「りょーかい、にーちゃ」
イモ剣を鞘から抜くと、一応はハヤトくんに声を掛け確認。
「ハヤトくんー、こっちは受け持っちゃっていいかなー?」
「は、はいー! 助かりますー!」
許可が出たので倒しにかかる。
――まずは【プロボークステップ】を発動させてヘイト稼ぎ。
モンスターが僕を敵と認識し、モンスターの流れが僕に集中しはじめた。
……スキルで敵の注意を引けるとか便利だなぁ。これがあればミミアの腕にあんな傷痕を残すような事態にはならなかったのかな……
おっといかん、これはゲーム、現実とは違う。
まずはたぬ太郎二匹を、駆け寄りざまに蹴りとばしてダウンさせておく、これで手足の短いたぬ太郎はしばらくは起き上がれずに時間を稼げるだろう。
次にレッサーコボルトの一匹を斬り伏せ、もう一匹は盾で殴りライムの足元へ転がす。
『犬も二足歩行すれば棒で殴られる』とかいう、物騒なことわざを口にしているライムに転ばせたレッサーコボルトを任せ、僕は青大将を引き付けるように旋回しつつ、起き上がる直前のたぬ太郎に剣を突き立てた。
もう一匹のたぬ太郎に近寄るには距離があったので、遠間から【ストーンバレット】で攻撃。銃弾のような石が起き上がる前のたぬ太郎を撃ち抜き、撃破。
残った青大将は、咬み付こうとしてきたところを盾で顔を殴りつけて怯ませ、【パワースラッシュ】で首を斬り落とす――いや、使わなくても良かったけど、早く【パワーチャージ】覚えたいからね……
――と、
「おおうっ!?」
ハヤトくんパーティが戦っているモンスターも、何故か僕に近寄って来てしまった。
「にーちゃー、プロボークステップの効果範囲が、そっちまで入っちゃったんだよー」
ライムがレッサーコボルトにトドメを刺しながら教えてくれる。
「あちゃー……すまん、ハヤトくん。そっちの敵まで釣っちまった。引き付けておくから倒しちまってくれ」
「あ、はい!」
こちらに経験値を割り振られないように、ただの囮として敵を引き付けることにした。
ダメージを与えたりダメージを受けたりすると、戦闘状態に入ったとして経験値の割り振りが判定されてしまうので、とにかく盾と身体で敵の足を止める――
「ふぅっ……」
僕に攻撃が集中していたのが良かったのか――ハヤトくんたちも早々に敵を倒すことが出来た。怪我の功名になったかな?
やっぱりハヤトくんたちのパーティには、タンクが必要そうに見える。
武闘家の子は素手のリーチの短さに攻めあぐねる場合があるようだし、魔法使いの子は動いて戦っている子たちの中で射線を確保することに慣れていない。タンクに敵が集中すれば、ヒーラーの子も支援に集中できるだろう。
そんなことを考えながらイモ剣を鞘に納めると、ハヤトくんがキラキラとした目で僕を見つめていることに気付いた。
「す、すごいですユーシさん! なにか、リアルで剣術でもしてるんですか!?」
……え、なにこれ。もしかして、ネット小説恒例のアレが始まっちゃう感じですか……?
武闘家のお嬢さん。
「確かに……とても素人の動きだとは思えなかったわ……剣はイモっぽいけど」
魔法使いっ娘。
「凄いわ、あの数の敵がまるで子供みたいにあしらわれていたわ……剣はイモだったけど」
ヒーラーの子。
「それでかすり傷ひとつ無いなんて凄い……剣はイモっぽかったですけど」
我が妹。
「さすがはお兄様です」
おいこらお前、今まで『お兄様』なんて、一度だって呼んだこと無かったろ?
それと剣がイモなのはほっとけや。こっちだって不本意だ。
もにょもにょとした気分で眉間に皺を寄せていると、妹さんの指が僕の脇腹をつんつん、と突いた。
「ほら、にーちゃ。にーちゃもお約束っぽいセリフを」
……なんだろう、この状況? 一応ノッておかないとダメなのか?
「ふっ……大した事じゃあない。俺はもっと強いヤツを知っているよ。“剣聖”“宝盾”――この程度じゃ、かつての仲間に笑われちまうよ」
「――ぷっ……」
おいコラ妹、噴き出すな。決して嘘じゃあないんだからな?




