21 南もMORI MORI
「さて……」
妹様をリンカから引き離してから十数分、宥めすかしてやっとこさ妹様の機嫌が直った。
機嫌を直す為に、耳元で「愛してるゼ……My sweet baby……」と言わされた事は、僕の新たな黒歴史に記載されるだろう。……死にたい。
「ちなみにしっかりと録音しておいたよ、にーちゃ」
「消せ! マジで消せ!!」
「やだ、まだ使ってないもん」
「なんに使うってんだよぉぉぉ!?」
あれか? 僕への脅迫か?
「はー、はー……クッソ……疲れた」
「ハァ……ハァ……」
「なんでお前まで息を荒げてんだ……?」
「あ、ごめん。リピート再生してた」
……ほんと、やめろってぇ
「う~ん……」
「今度はなんだ……?」
「ちょっとネタに走りすぎた。“My sweet baby”のところを“未来”に変えてもう一回お願い、にーちゃ」
「誰がやるかボケ」
『まぁ、前半と日常会話の音声を合成すればいいか――』とか、怖いことをブツブツ呟いている妹さんのことは、もう気にしないことにしよう。そうしよう……
「にーちゃ、『妹ラヴァーズ』『妹のためになら死ねる』――音MADにするならどっちがいい?」
「あー、あー、聞こえないー」
兄のボイスを録音して音MAD作るような妹なんて、僕には居ない。居てたまるか。
――――……
「それはそうと、さっきの魔法はなに? にーちゃ」
「ん、ああ……」
試しにあちらに居たときの魔法を使ったら使えてしまったことを話す。
「む~……なんだろ?」
「リアルじゃ使えなかった訳だしなぁ」
帰ってきてから勿論、こちらでも魔法が使えるか試してみたが。
結果、周囲から魔素が集まってくる独特な感覚がこちらには無くて、使えなかった。
「リアル技能補正かも……?」
「なんだそりゃ?」
ライム曰く、例えば現実で料理をしている人は、【料理】のスキルが無くても料理が出来る。
多くはないだろうが、リアルでの鍛冶職人も【鍛冶】スキルを持たなくても鍛冶が出来る。
そういった人は、続けていればそれに合ったスキルを覚えるだろうが、同じスキルレベルの人間と比べても出来上がった品の完成度は高い。
「リアルに魔法使いはいないけど、にーちゃだったら魔法を使う技術はある。結局、VRって精神の世界だから、現実では魔素という素材が無くて使えないけど、VRならいけたのかも? ここにも魔法はあるし」
「ふむ……そうだな、それっぽいかも」
確かにこのゲーム内で魔法を使った時、身体の中からなにかが抜けてゆく感覚があった。異世界での魔力とは違ったが、『似て非なるもの』なのに間違いはない。あれがこのゲームで言う魔力だったのだろう。
ちなみに一番の大きな違いは、異世界では身体から抜けた魔力は自然界の“魔素”を取り込むことで回復出来たが、ここでは時間経過によって身体の中からじわじわと湧き上がってくる感じだ。体力などに近いかもしれない。
「あ、ちょっと待っててにーちゃ」
ライムがウインドウを操作して何かを調べている。
「あった。あるプレイヤーが、別のVRゲームで使ってた魔法を使えたことがあるみたいだよ。2回目は使えなかったって話だから、ネタ扱いされたらしいけど」
「1回限りなのか……?」
試しに極小の魔力で“テーラランサーズ”を唱えてみる。
「……出来たね、にーちゃ」
「うん……」
指一本程度の土の隆起が、そこには出来た。
「あれかも? 前に使った人は、版権の影響で使えなくなったのかも? 一回目で運営のデータバンクに登録されて、次は使えなくなったとか……」
「別ゲーの魔法だしなぁ……」
結論、よくわからんが使える。
「すごいねにーちゃ、これでお約束のチート持ちだよ! サボテンの言うことに否定できないね!」
「いや……それなんだがなぁ……」
「……?」
いや、使い慣れた魔法が使えるのはいいんだが……
「……弱い」
「……え?」
「今のステータス準拠なんだろうな、普通に弱い」
以前の“テーラランサーズ”なら、土槍は八本は出ただろう。
だが、さっきの戦いで出たのは僅か二本。
一本ごとの大きさだって全然違う。
「使用回数だって、向こうに居た頃と今とじゃ、ずっと少ないだろうし、多少変わった魔法が使えるだけで、強さはゲームの魔法とそんなに変わらんと思う……」
「チートと言うには微妙だね……」
今のはメ○ゾーマではない……ファ○ガだ……とか言っても微妙ですよね? ってそれだけの話
「これって、運営に連絡しなくていいのかね?」
「異世界で使っていた魔法が使えました――って? GMの苦笑いが目に浮かぶよ、にーちゃ」
結論、まぁ放っておこう。
「まぁ、人前ではあんまり使わないように、他に適当な魔法スキルは覚えておこうよ、にーちゃ」
「だな……」
―― …… ―― …… ―― …… ――
スキル屋で一通り、ライムのオススメの魔法スキルを購入した僕は、それを端から覚えておく。
それとヘイト集めのスキルを一つ覚えておいた。ライムと二人の時に、敵がライムをターゲットにしてしまうのを避けるためだ。
“プロボークステップ”
スキルの効果時間、一歩ごとの移動にヘイト効果が生まれるスキル。
難点は即効性が無いことと、盾を据え、あまり動き回らないタンクではあまり使い道が無いことだ。
だが、僕のように機動力の高い戦い方をする人間にはちょうど良い。
「すっからかんだ」
アンクレッドロングコートと各種スキルを購入した僕の手持ちは、ほとんど残っていない。
ちなみに攻撃スキルは、「パワースラッシュですら気持ち悪いって言うにーちゃにはどうしようもない」――との事。
パワースラッシュの派生スキルで、【パワーチャージ】という、使用後、次の攻撃がパワースラッシュと同等の効果になるスキル(身体が勝手に動かない)があるそうなので、それを覚えるまで我慢することにした。
「試しに、今度は南の森に行く? にーちゃ」
「ふむ」
どうやらこの街の周囲の難易度は、南の森。北の森。東の森。西の森――の順に敵が強くなるらしい。
東の森をクリアできれば、次の街に行けるので、わざわざ西の森に狩りに行くパーティは少ないのだという……
「南の森でも、奥に行けばブルーヘッドスネークっていう敵が出るから、そこそこ手応えはあると思うよ、にーちゃ」
「蛇か……毒は?」
「あるけどどうでもいい」
「どうでもいいって……」
序盤の毒なんて放っておいてもHPが1割減る前に切れるので、放置が基本なんだそうな。
序盤での解毒ポーションは無駄アイテ厶もいいとこ。
毒のスキルレベルが上がる中盤以降になると必要になるかも知れないけど、βまでの情報だとなんとも言えない――というのが毒に関する認識だそうな……
大体、千差万別の毒を全部引っ括めて“解毒ポーション”で解毒出来るというのが、どこか腑に落ちない気はするんだが……
「まぁ……行ってみるか」
「おー」
―― …… ―― …… ―― …… ――
さてや来ましたは南の森。
今まで行った狩り場で一番人が多い。
まぁ昨日や今日から初めたプレイヤーも多いだろうし、まずは南の森から進めるのが定石なんだろう。
横殴りにならないように、人の少ない場所を求めてすいすいと先に進む。
「案外、ソロやコンビも多いな」
「入り口付近は大した敵も出ないからね。友達待ちだけど街の周りの敵だと実入りが少ないーって人が結構流れてくるんだよ、にーちゃ」
「なるほど」
そのうち固定メンバーとか増やした方がいいんだろうか? 今のところ、ライムと二人でも問題ないんだよな……
スキルや武器が整った今なら、西の森にしたってどうとでもなりそうだし。
「で、敵はどんなのだ?」
「たぬ太郎とレッサーコボルト。そしてブルーヘッドスネーク」
……だいったい、変な名前のヤツが1種類は混じるなぁ。
パーティを組んでいる人は奥地へ、少人数組は入り口付近に纏まっているので、中間地点は人が少なくなる。
その辺りに来て、やっと僕たちの初戦闘が始まった。
『たぬ~!』
「いや、絶対に狸は『たぬ~』とは鳴かない」
現れたたぬ太郎は、どう見ても、有名なあの焼き物の姿をしていた。
「信楽焼?」
「信楽焼だね、にーちゃ」
「だけど……『アレ』がないぞ……?」
「きっと、『アレ』は、倫理規定に引っ掛かったんだよ、にーちゃ」
なんだか物足りない。そんな信楽焼のたぬきと対峙する。顔はなんかぶちゃいく。
「なんでモンスターって微妙に不細工なんだ……」
「かわいいと攻撃しにくいから」
……なるほど。
――たぬ太郎は、手に持った酒瓶を振り回して攻撃してきたが、まぁそれがどうした? とあっさり倒せた。これぐらいならライムひとりでも楽勝だろう。
レッサーコボルトとも遭遇したが――
「リトルビッツウルフと何処が違うんだ……?」
「二足歩行。以上」
……どうやらグラフィックの使い回しらしい。
ちなみに二足歩行なので移動は遅く、簡単に倒せた。
野生を失うと生き物は弱くなる――というひとつの理を見た気がした……
そのまま進むと、にわかに人気が増えてくる。
どうやらパーティ狩りのグループの行動範囲に入ったらしい。
「ここらへんからブルーヘッドスネークが出てくると思うよ、にーちゃ」
「了解」
他のパーティを避け、奥に進む。
適当なところに、空白地帯を見つけた。そこに陣取り敵のPOPを待つ。
「なんだか、こう……冒険とかっていうより、潮干狩りでもしている気分だな……」
「人気の狩り場は仕方ないよ、にーちゃ」
適当に敵のPOPを待っていると、それなりの頻度で敵が現れる。
ブルーヘッドスネークも出たが、体長2メートル近い巨大蛇だった。
しかしうねうねと動くぐらいで、蛇特有の瞬発的な素早い攻撃は無かったので、首を落として簡単に倒せる。
「うーむ、またなんでこんな場所にいまさら来たんだ? ライム」
「うん? んー……」
胡座をかいて座り込み、ぼへーっと敵のPOP待ちをしている間に、そう訊いてみた。
今の僕らなら、西はちょっと面倒にしても、北の森なら余裕の筈だ。経験値もそちらの方が美味いだろうに。
「んー……」
ライムの頭が傾いて来て、僕の肩にぽすんと依りかかる。
「なんだか、昨日から慌しかったかな? って」
「ふむ……」
そういえば、なんだかんだでバタバタしていた気がする。
まぁ、ゲーム開始直後だったし仕方ないとは思うが――
ライムの頭がずるずると滑って、僕の膝の上にころんと乗った。
「にーちゃ~」
「なんだ?」
「へへ、なんでもないー」
――――
「にーちゃー」
「なぁに?」
「名前よんでー」
「どうした? ライム」
「……ちがーう。みぃってよんでー」
「小学校の頃の呼び方じゃないか……」
「はーやーくー」
「はいはい、どうしたの、みぃ」
「んーん、なんでもないー」
みぃの髪を梳くように撫でると、毛づくろいをされている猫のように、みぃは眼を細める。ごろごろと喉を鳴らしそうだ。
「んー♪」
「ご機嫌ですね、みぃさん」
「みぃはねこなの、にーちゃ」
「そっか」
「にーちゃ、ねこ好き?」
「好きだよ」
「みぃのことは?」
「大好きだよ」
「んー♪」
――
「にーちゃにーちゃ」
「なんですか? みぃさん」
「みぃはね? みぃもね――」
『シャアアアアァァ――っ!!』
あ、蛇がPOPした。
「…………」
ゆらりと立ち上がったみぃは、杖を握りしめ、幽鬼のようにふらりふらりと、ブルーヘッドスネークに向かった。
「にーちゃ、みぃはマングースだったみたい……」
あ、はい、そうでしたか。
マングース・ライムの活躍によって、ブルーヘッドスネークは呆気なく昇天しました。
魔法でチートは出来ませんでした! 残念!
↓気分転換に、書きかけだった短編を仕上げて投稿してみました。よろしければどうぞ
悪役令嬢様が見ているっ!
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