1 キャラメイクは基本だよね。
「ハイこれ、ホイこれ」
家に帰るなり、未来はどこからか、一抱えもするダンボール箱を持ち出してきた。
そしてダンボールの中からホイホイとゲーム機一式を取り出す。
「おいおい……コレいいのか? 高かったんじゃないのか?」
未来が用意したのは、ここ一年ほどで急成長を見せるVRシステムを利用したゲーム機だ。
一般のパーソナルコンピューター用ではなく、ゲーム用にデチューンされたものとは言え、ちょっとお高い物には変わりない。
「いい、わたしは普通のVRのパソコンを持ってるから」
じゃあ、なんでこんなものがウチにあるんだろう……?
「『コンシューマー機じゃないと“brand-new World”がプレイ出来ない』とか勘違いして買っちゃったけど、そんなことはなかったゼ! ってコトで、勘違いでダブついちゃったのだよ、にーちゃ」
「……嘘こけ」
普段からしっかりものの未来が、そんなミスを犯すはずがなく、間違いなくこのVR機は僕の為に用意したものだ。
ちなみに僕のパソコンは旧式のディスプレイ型。VRとか、使いこなす自信はなかったので無関心だった。
未来が持ってきたのはゲーム用のVR機なので、PCVRとは違い、パソコンとしての機能は無い。とは言っても、ちょっとしたアプリケーションなら使えるようだが……
「ま、おとうさんおかあさんも、普段わたしたちを放置してる後ろめたさがあるのか、仕送りは結構多いし、ちょっとやりくりすればそれぐらいならね」
未来は手をひらひらとさせながら、VR機のセッティングを始めている。
一通りの配線が済んだ所で、ハーフヘルメット型のVR端末を押し付けられた。
「じゃ、にーちゃ、わたしはオープンベータの時のアカウントでログインするから、後でゲーム内の教会前で」
そう言い残すと、未来はスタスタと自分の部屋に戻って行った。
そういえば最近、部屋に篭もることが多かった気がするが、どうやら僕が今からプレイするゲームのオープンベータをプレイしていたようだ。
――ベータやってたなら、コンシューマー機が必要なんて勘違いをするわけが無いじゃないか……
妹の適当な言い訳に苦笑しつつ、僕はVR端末を頭に被った――
――【“brand-new World”へようこそ】――
「ふうん? これがVRね」
ゲームを立ち上げた瞬間、僕の精神は宇宙空間の中に半透明な床があるような幻想的な場所に居た。
【キャラクターを作成してください】
電話の時報のような無感情の声が聞こえ、同じ内容の文字が目の前の宙に浮かぶ。
「あ……特にナビゲーターとかは居ないのね」
こういう場合はナビゲーターのNPCが付きっ切りで説明してくれるってのがお約束だけど……
いくらNPCだとしても、待たせた状態で、時間を掛けてキャラクターメイキングなんてやりづらいし、居なくて良かったと思う。
ほら、役場なんか行った時、「ではこの用紙のこことここに記入して下さい」って、そのままカウンターで書かされるのと、「あちらで記入してから持ってきて下さい」ってテーブルを指されるの、どっちが良い? って話。
僕は断然後者だ。前者は急かされているような、監視されているような気がして落ち着かない。ど忘れした漢字とか、携帯で調べるのも恥ずかしいし……
ま、それはさておき。
目の前の空間には、僕そっくりな3Dモデルがあった。デフォルトはリアルボディなのだろうか?
【※注意:現実の身体からかけ離れた体格で使用キャラクターを作成いたしますと、操作時に現実との差異に強い違和感を覚え、ゲームプレイに大きな支障が出る可能性があります。なお、倫理規定により現実での性別と違うキャラクターを作成することは出来ません】
……ふーん。まぁいきなり手足が伸びたりしたら転ぶよね。普通。
それと異性にはなれないのか。ネカマプレイは無理ってことね。
……まぁ、女の子になったら揉むよね。確実に。そこらへんが倫理に違反するのかね?
【体格を変更する場合、お手元のシークバーで各部を調整するか、もしくは左手を額に付けた状態で、作りたいキャラクターを想像してください。脳内のイメージを読み取り、イメージに近似のキャラクターを仮作成します】
「ふむ――」
最初はデフォルトでいいか、と思っていたが『それならば』と、僕は左手を額に乗せた。
【次のキャラクターでよろしいですか?】
Name:ユーシ 種族:人間
HP :24
MP :15
STAM:20
STR :12
DEF :11
VIT :10
AGI :7
DEX :8
INT :12
MIND :11
以上でよろしければ、【決定】を選択してください。
【決定】 【キャンセル】




