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17 北の森へ ~マイテを添えて~

「さて、どうしよ、にーちゃ。なにかクエスト受ける?」


「ん? ああ、そうだな。まずはステータスを上げないとどうしようもなさそうだしな」


「にーちゃとなら、無理やり進めば、次の街には行けなくはなさそうだけど……次の街にいっても、結局敵が強くて戦いにくいと思うよ、にーちゃ」


「ああ」


 まぁ、僕らは謂わばエンジョイ勢だ。無理する必要なんてないしな。


「マイテ、どうする? パーティメンバー(みんな)のとこに戻る?」


「昨日の今日だから……ちょっと時間を置きたいです……みんなもあの人にイライラしてたみたいですし……」


 サボテン……なんだかもう騒音公害扱いだぞお前……


「なら一緒に行く? いいよね? にーちゃ」


「ああ、歓迎するよ」


「はい……そうさせて貰えると、助かります……」



 と、いうことで、今日のパーティメンバーにマイテが参加した。

 気が弱そうな雰囲気なのに、恰好は見るからに盾職なマイテ。

 戦闘で前に出ることが出来るのか? ちょっと心配だが……、まあ前に出られないならタンクなんてやってないか。



「希望はある? マイテ」


「……オオリクガメの出る北の森に行けると嬉しいです。あ! 無理でしたらいいですよ! ほんと!」


「亀か……」


 いかにも防御力が高そうな名前のモンスターだ。


 マイテは見た目から防御力は高そうだが、攻撃力はさほどでもなさそうだ。

 僕らも攻撃力に難があるし、攻撃力が低いパーティではキツくないだろうか?


「オオリクガメは首が弱点。首を狙えば大丈夫だよ、にーちゃ。にーちゃなら余裕」


「お前のその、僕に対する絶対的な信頼はなんなんだ……? ちなみに他の敵は?」


「モグモグ男爵とクレセントベアーだよ、にーちゃ」


「モグモグ男爵……?」

「うん、モグモグ」


 運営のネーミングセンスが分からん……!


「モグモグ男爵はもぐらのモンスターだよ、にーちゃ。クレセントベアーは熊、がおー」


 まんまツキノワグマか……そうなると大型犬ぐらいの大きさになるのかな? 横幅は圧倒的に上だろうけど……


「まぁ、序盤だから、そこまでは強くない。にーちゃなら大丈夫」


「だから、お前の信頼補正は分からんわ……――なぁ、そのエリアは森なんだろ? 森で火魔法を使うと山火事になるとかは……ないよな?」


「それは大惨事だね、にーちゃ。大丈夫、ゲームだから。火魔法取るの?」


 なんだかんだで攻撃魔法と言って思い浮かぶのは属性は火だ。魔法の入門として火魔法を取って間違いはないだろう。


「ああ、少し魔法を覚えようかとな……火魔法でオススメは?」


「取りあえずは単発系を取っておけばいいよ。水と闇の単発はいらない子っぽい」


「了解、ちょっと買ってくるからクエスト受けておいてくれ」


「らじゃ」

「は、はい……」


 そして僕はスキル屋へ、ライムたちは冒険者ギルドへと向かった――





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





「また森か……」

「森は平原よりエンカウント率が高いっていうのはドラゴン退治的なアレからの常識だよ、にーちゃ」


 昨日に引き続きの森。

 今回は北の森――昨日の森とは少し様相が違い、木の間の幅は広く、草の背が高い。一応はグラフィック的な差別化もされているようだ


 まぁ森とはいっても、人の歩く場所は土の道になっていて、戦闘もそこの上でするので、木々が邪魔で剣が振れなくなるようなことはないのだが――


「あ……華の街ファアートは森で囲まれてます……だから四方に森はあります……です」


 と、マイテの話によると、あの最初の街は周囲を森に囲まれていて、東の森を抜け、そこのボスを倒さないと次の街へは進めないのだとか。

 あの最初の街は“華の街ファアート”って名前だったんだな。初めて知った。


「孤立しちゃってんじゃん……物流とかどうなってんの……?」

「それは言わないお約束だよ、にーちゃ。きっと転送陣でなんとかしてるんだよ」


 ……まぁ、RPGなんて、海に閉ざされた孤島に世界中の金持ちが集まるカジノとかがあったりするしな……

 長く危険な船旅をしてまでカジノに行きたいのか? 金持ち諸君。


「で、クエストはどんなのを受けたんだ?」

「モグモグ男爵のしっぽを15個納品」

「了解」


 そう話していると、ガサガサと茂みが揺れ、そこから早速モグモグ男爵とクレセントベアーが――


「……モグモグ男爵?」

「いえす。ざっつ」


 なんだろう? 例えで説明するとしたら、アニメで、セクハラした主人公がヒロインにタコ殴りにされた後の絵面と言うか……。もしくはボクシングの試合の後日に撮られた、選手のインタビュー映像というか……

 とにかくデコボコな顔をした、黄土色のモグラがそこにいた。

 大きさは120センチぐらいで二足歩行をしており、尻尾の先には薄紫の花が咲いていた。


 ……おい、男爵って


「おジャガか?」

「もっちりホクホク、だけど煮物にすると煮崩れするよ。っていう男爵だよ、にーちゃ」


 運営の考えることはよく分からない……


 あ、話に触れられなかったクレセントベアーは、普通にクマでした。ツキノワグマ。流石にそのまんまじゃなくて、ちょっとデフォルメされてたけど。



「か……『かかってこいやあー!』……」


 マイテが前に出て、スキル【ウォーハウンド】が発動させる。

 スキルの効果によって、モンスターの意識がマイテに集中した。


「……ひっ!?」


 襲いかかるモンスター。マイテは木製のタワーシールドを使い、爪による攻撃を上手く防いでいた。

 だが、盾を持つその手はぷるぷると震え、目元には涙を浮かべており、完全に腰が引けてしまっている。


「……おいおい、なんであの子はタンクやってんだ?」

「その話は後でね、にーちゃ」


 ショートソードを抜き、僕はまず、攻撃力の高そうなクレセントベアーを攻撃する。

 このゲームにもクリティカルヒットというのは存在しているらしく、攻撃が当たるタイミングだったり、攻撃が当たる場所によってダメージが変わるらしい。


 クレセントベアーはその首元だけが白い体毛に覆われているので、首に狙いが付けやすい。


 ――ッ斬っ!!


 正確に首を狙った一撃はクリティカルヒットと見做され、熊型のモンスターすらも一撃で仕留める。

 クレセントベアーが一撃で倒されたことにぎょっとしたモグモグ男爵は、慌てて土を掘って逃げようとするが、その背中を斬りつけて終了。


 僕はすぐにマイテに駆け寄ると、ぐったりとしたその背中を擦った。


「お……おい、マイテ。大丈夫なのか? 無理はするなよ――」

「ああ! 怖かった! すっごい怖かった!!」


 と、顔を上げるマイテの瞳は、キラキラとものすっごい輝いていて……


「にーちゃ……普段怖がりなのに、やたらとジェットコースターが好きな子っているでしょ? マイテもそんな感じだよ」


「さぁ! 次行きましょう! 次!!」


「お、おう……」





 ――……


 きゃーきゃーわーわーと騒ぐマイテを囮にした戦闘は実に楽なものだった。

 マイテに群がる敵を、横合いから一体一体、確実にクリティカルヒットで倒してゆく――

 たまに男爵が穴を掘って逃げようとするが、逃げた穴の中に、覚えたての【ファイヤーボール】を投げ込むと、簡単に追い打ち出来た。


 そしてオオリクガメ――

 軽自動車サイズの亀が襲って来るのには少しビビったが、その動きは遅く、マイテの盾でも突進を止められたので特に苦労は無い。


 ダメージを与えるには、甲羅以外の柔らかい場所を攻撃する必要はあれど、甲羅に首を引っ込めたところで、穴から剣を突っ込むなり穴に火魔法をぶち込むなりで簡単に倒せた。


「楽なもんだな」


「そりゃそうだよ、にーちゃ。難易度自体は西の森の方が上だよ」


「亀の甲羅大量ゲットです。新しい盾が作れそうです」


 ほくほく顔のマイテ。まぁ、木の盾と革の鎧じゃちょっと心もとないよな――


 ……ん?

 確かマイテはライムと同じβテスターだよな?


「あれ? こんな序盤の素材で作れる装備を、βテスターのマイテが欲しがるもんか?」


 ちょっとした疑問だったのだが、僕のその言葉にライムが大きな溜息を吐いた。


「この娘、正式リリースからステータスがリセットされるとか、よく分かってなかったみたいだよ、にーちゃ」


「うう……」


「他のβ組はリセット後の、ステータス上昇に合わせての段階的な装備を集めてたけど――」


「マイテは弱い装備は全部処分しちゃってた……ってことか……」


「更に言うと、その処分したお金と所持金を殆ど使って、βテスト終了直前に防具を買っちゃったから、お金も無いはず」


 不憫な……


「うう……前と同じステータスになりさえすれば、前の装備が使えるんですが……」


「たぶん、今日、パーティメンバーのトコじゃなくて私たちに付いてきたのも、装備が整わないタンクがパーティに混ざるのが心苦しくなったからだよ、にーちゃ」


「うえええん!」


 お、おい妹よ……ちょっと辛辣すぎないか? ガチ泣きしてるぞ、その子……


「オオリクガメの素材で作った防具は優秀。それでしばらくは凌げるはずだよ、にーちゃ。盾と言わず、鎧の分も狩ろう」


「お……おう。僕の分の素材も譲るよ……」


「あ゛、あ゛り゛がどうごじゃいまずぅぅ!!」


 なんだろう……妹の知人には、ちょっと変わった子にしか会ってない気がする……

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