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16 マイテと再びのサボテン

「あ、来た。にーちゃ」


「おう、遅かったね」


 待ち合わせ場所に後から着いた方の台詞としては変な感じだが、事実ログインしたのはライムの方が後だ。


「あ、どうも……こんにちは」


 と、挨拶をしてきたのは、ライムの隣に居た女の子。


「えっと……?」


「この子はマイテ。βの頃のパーティメンバーで、よく一緒にいた子」


「マイテです……よろしくお願いします……」


「ああ、こんにちは。僕はユーシ、ライムの兄だよ。よろしく。」


 マイテと名乗った少女は、気の弱そうな雰囲気の女の子だった。

 栗色のセミロングの髪にキューティクルが輝いている。

 その頭の上には三角形の耳が一対。どうやら猫科の獣人(ワービースト)らしい。


 両耳の根元には小さなリボンが映え、垂れ目がちの目の片方は、長めの前髪に隠れてしまっていた。

 内側に篭もるような手足の角度に、気の弱さが表れている。


 ライムよりもまだ歳はひとつふたつほどは下だろうか? とはいえライムよりも胸は……うん、ありそうだ。


「にーちゃ、なんか失礼なこと考えた?」

「なんのことだ?」


 むー……っと睨みつけるライムを無視する。



 そんな気の弱そうなマイテだが、何故か装備は重々しく、革鎧と、木製とはいえ大きなタワーシールドを担いでいた。


「で、何か話していたのか?」


「サボテン被害者の会」

「(……こくこく)」


 ……また何やらかしたの? あのサボテンくんは。


「私にフラれたから、マイテに粉かけに行ったみたいだよ、にーちゃ」


「……あの貼り紙のまま?」

「あの貼り紙のまま」


 ……ある意味すげー根性だな、サボテンくん。


「まあ一応、わたしたち両方の知り合いでもあるからね、あのサボテンは。β時代の固定パーティがわたしを入れて5人で、余った1人の枠に野良の人とかをたまに入れてたんだけど――」


 ――で、たまたまあのサボテンくんがパーティに入ってきたのが運のツキ。それからパーティ単位でしょっちゅう付きまとわれ、仕方なく相手をしていたとか。

 サボテンくんの一番のお気に入りはライムで、いつもベタベタされていたが、マイテなどの女性メンバーにも普通に粉をかけていたらしい。


 ちなみにこのゲームでのパーティの最大人数は6人。



「で、マイテたちの所に行って、私のことをビッチだとかなんとか喚いてたらしいよ、にーちゃ」


「……ほぉ?」


「……ひっ!?」


 おっといかん。怖い顔をしていたようだ。マイテを怖がらせてしまった。



「で、散々喚いた後に、いかに自分がカッコよくて強いかを語って――」


「……あの貼り紙で?」

「あの貼り紙で、だよ」


 すげーなぁ……精神の強さなら完敗かも、僕。


「まぁ、私のときと同じく『そんな奴らとじゃなくてオレとパーティ組もうぜ!』……と」


 ……なんだかなぁ。


「他のパーティメンバーにも迷惑掛かっちゃうし……どうしようって、ライムちゃんに相談してたんです……」


「どうって言われても、ブラックリストに入れるしかないと思うよ、私は」


「かなぁ……? できればブラックリストとか使いたくないんだけどなぁ……」


 それに関しては仕方ないと思うがな。迷惑プレイヤーとしてGMに通報する方が対人難易度が高いだろうし……


「ま、できるだけ早い方がいい。そうじゃないと――」


「ああああっ!! テメーは昨日のインチキ野郎!!」


「――またすぐに変なのが来るよ」







 ―― …… ―― …… ―― …… ――







 ――そして来た『変なの』

 真っ赤なツンツン頭にゴテゴテとした鎧。

 同じ赤髪でも、ハヤトくんのそれは落ち着いた赤だったが、この子の赤は原色で目が痛い。チカチカする。


 鎧も替えたらしい。一応はオーダーメイド品なんだろうか?

 金属ではなさそうだが、やたらと肩パーツが大きく、動きにくそうだ。

 そして赤い。目が痛い。こんな鎧が既製品だったら、デザイナーのセンスを疑うところだ。


 とにかく赤い。スペインのトマト祭り(トマティーナ)帰りですか? と質問しそうになるぐらい赤い。


「噂をすれば影が差す――ってか」

「来ちゃったね、アレ」

「……ああう」


 サボテンくんは肩をいからしながらダスダスと足音を立ててこちらに向かって来た。


「今度はマイテにちょっかいかけてんのかよ! このチーターがっ!!」


「えぇ……?」

「うん? なに?」

「チーター……? ですか?」


 あ、ライム、サボテンくんが何言ってるか分かってない。アレか、ブラックリストに入ったままだからか。


「にーちゃ、アレなに言ってるの?」

「……面倒だから、一旦、サボテンくんのブラックリスト外しなさい……」


 こくりとうなづくと、ウインドウを操作するライム。


「拒否レベルを下げて、声は聞こえるようにしといた。また根も葉もないコトわめいてるみたいだね、あのサボテン」


 めんっどくさそうに溜息を吐くライムと、ひたすらにおろおろとするマイテ。


「おい! マイテ! そんな奴らと一緒にいると、BANされっぞ! BAN! チーターだからな、ソイツら!」


「え、えぇぇ……?」

「マイテ、おろおろしない。気に食わないものは全部不正。典型的な子供の考え方」

「布の服とバックラー、ショートソード装備のチーターってなんだよ……」


 早く卒業したいんだよ、この初心者ルックから。チートしてるならまずはここからなんとかしてるよ!


「テメ……昨日はアレだったけど、マトモに戦えばテメーなんてアレなんだからな! アレ! わかってんのか!?」


 指示語ばかりでさっぱり分かりません。


「……あぁ? じゃあ身の程ってもんを教えてやるよ! ボコにしてやる!!」


 ウインドウを操作し始めるサボテンくん。

 そして、僕の目の前にPVPのダイアログが――


 ……出なかった。


「あっ、テメ! クソっ!! またチートしやがったな!? なんだこれ!」


 何がなんだかさっぱり分からない僕に、ライム知恵袋からの説明。


「PVPには純粋に戦いを楽しむ“試合(バトル)”形式と、負けた相手にペナルティを付ける“決闘(デュエル)”形式がある――んで」


 ウインドウの、エンターのあるだろう空間をひたすら連打するサボテンくんを指差す。


アレ(・・)が昨日したのは、“決闘(デュエル)”のほう。そうすると負けペナが消える24時間は次のPVPを申請出来ないんだよ、にーちゃ」


「ああ……」


 まだ24時間経ってないものな……彼の背中には『負け犬』の貼り紙がまだ残っている。


 まだ必死にウインドウを操作するサボテンくんに、憐れみにも似た視線を投げた。


「行こうか……」

「だね、にーちゃ」

「あ……わたしも……ブラックリストしました」


 僕たちはそのまま、冒険者ギルドに向かって歩き出す。


「あ! テメ! GM呼んだからな!? マジだからな!? BANされちまえ! このクソチーター!!」


 背後から聞こえる声に、僕らはそっと目を伏せるのだった――

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