15 やっと服が替えられそうです
ちょっと短めです。
「ん? 服屋じゃないのか? ここは」
防具というと革や金属で出来た鎧を想像していたのだが、彼女はこう言った。
「ローブやらマントやらも防具でしょ? ワタシはそういうのを扱ってるんだ」
なるほど……マントは防寒、防熱具だと認識していたが、ゲームで言うと防具か……
まぁ、この“ぬののふく”も防具だしね。ただ、服を見て『これは防御力が高そうだ』とかいう感覚が、僕にはまだ鍛えらえてなかった。
「しかし、そういった防具は防御力が低そうな気がするんだが……」
「素材によりけりさ。そりゃ、基本的に鎧の方が防御力は高いけどさ――アンタ、身の軽さを重視した戦いをするんだろ?」
「ああ」
バックラーにショートソードと、軽戦士であることは見て分かるだろう。
「なら、半端に鎧なんて着けちゃったら、持ち味が死ぬよ? 革鎧でもそれなりにAGIは下がるからね。ステータスレベルもAGIが上がりにくくなるしさ」
おおう……それは大問題だ。
ただでさえAGIの為にあまり得意でもないショートソードを使っているのに、防具で足を引っ張ってしまっては意味がない。
「それなら頼もうか……とは思ったが、生憎見ての通りの駆け出しなんでね。金も無ければステータスも低い」
「ッぶ……見ての通りって……――ああ、いいよ、さんざ笑っちゃったお詫びだ。安くしとくよ。それと何か素材は持ってないかい?」
素材というと……昨日大量に倒したリトルビッツウルフの皮と、アンクレッドディアーの皮ぐらいしかないな……あとエテモンキー。
「……アンタ、その装備で西の森に行ったのかい? 根性あるね」
「凄いですね! 僕も友達と一度だけ試しに行ってみたんですけど、すぐに逃げて来ちゃいました! あんなスピードで跳び掛かってくる敵なんて倒せませんよ!?」
……いや、スピードは大したことは無かったんだけど、数がなぁ?
「――ふむ、小狼の皮はイマイチだけど、赤鹿はいいね。ステータスは――おや? 思った以上に低いけど、まぁ大丈夫だわ。服系はVITが低くても装備できる利点もあるんだよ」
「そうなのか」
まぁ、ローブやらなんやらは魔法職が装備するものだという印象だ。それが高VITを要求されても困るよね。
「んー……半日。リアル時間で半日待っておくれ。赤鹿の皮で服を作っておくから」
「早いな?」
「まぁ、基本はスキルでちょちょいだしね。時間を取るのはデザインさ。イメージはあるから細部を煮詰めたいね」
「了解。十年やってるベテラン冒険者っぽいのを頼むよ」
「っぷ……一応、若手冒険者に見える程度にはしとくよ、まいどあり!」
――と、そこでフレンド申請が飛んできた。
なるほど、こうしないと服が出来ても連絡がつかないか。
【リンカさんからフレンド申請が届いています。受理しますか?】
もちろん【はい】を押す。
この人はリンカさんという名前らしい。
「あ! ねーちゃんズルい! 僕も!!」
【ハヤトさんからフレンド申請が届いています。受理しますか?】
もちろん【は――
「あ……」
「あ……」
…………
「泣きそうにならんでくれ……押し間違えただけなんだ」
「で、ですよね!? 僕、嫌われてないですよね!?」
「あ、ああ。すまん。もう一度やってくれ。まだ操作に慣れてなくて、何処をどうしていいかさっぱり分からん」
「は、はい!」
……今度は慎重に【はい】を選択した。
それと同時にぴこん! と音が鳴った。
「ん……?」
「ん、どうした?」
「いや、ピコンとか音が鳴ってだな? 視界の隅に四角い物が……」
「ああ、メールですね。ウインドウからも開けますが、そのアイコンを押しても開けますよ?」
なるほど、メールのアイコンか。視界の隅のそのアイコンをタップしてみると、メールフォルダが目の前に展開された。
『【洗濯終わった。にーちゃ、何処にいる?】』
「妹からだな」
二人に伝えるように口に出し、ウインドウを操作して返信する。
『【市場街だけど、人が多いからそっちに行くよ。噴水前で待っていてくれ】』
と、返信。
「おやアンタも妹さんがいるのかい?」
「ああ、このゲームも妹に誘われてね」
「可愛い?」
「ああ? 少し難はあるがな」
なんだろう、リンカは妹に興味があるのか?
「ああ、ゴメンゴメン。メールを見てた時のアンタ。優しい良い目をしてたからね――どんな子かなってちょっと気になったダケさ」
「……あんたがハヤトくんを見てる時もな?」
…………
ふっ、と
どちらからともなく、二人で笑った。
「んじゃ、行くよ。服よろしくな」
「任された。早く行ってやんな」
「ユーシさん、今度一緒に冒険してくださいね!」
そして僕は市場を後にする。
今回知り合ったリンカさんは、男前な女性だった。