12 おかいものリベンジ
「まったく……人をからかうのもたいがいにしとけよ?」
「にーちゃになら抱かれてもいいー(棒)」
はぁ……まったく……この子はいつからこんな風になっちゃったんだろう? 育て方を間違えたかね……?
「それはそうと、にーちゃ。報酬を受け取りに行こう」
「……あいよ」
さっきは街まで戻って来てすぐにログアウトしたので、クエスト報酬は受け取って無かった。
特に時間制限のあるクエストでもなかったし、後回しにしたのだ。
そして、僕たち二人は冒険者ギルドまでやってきた。
本来ならパーティメンバーが一人でも報告に来れば、他のメンバーもクエストクリア状態になって、自動的に報酬がアイテム欄に追加されるらしいのだが、他に用事もないので連れ添って来たわけだ。
冒険者ギルドに入ると、最初に来た時と同じく謎空間に飛ばされ、定型文のようなメッセージの後に報酬が支払われる。
用事が終われば、また冒険者ギルドに背を向けた状態で立っていた……
「これ、慣れそうにないわ……」
「ベータの時は気にしなかったけど、確かに変な感じだね、にーちゃ」
ウインドウを出して所持金の確認をする。
最初のチュートリアル的なクエストなので大した金額は入らなかったが、道中のモンスターを倒した分も含めると、安武器を買えそうな程度のそこそこの金額にはなっていた。
「いい加減、何か武器を買うよ……ナイフ一本じゃ心許ない――何か注意することはあるか?」
「ふむす。にーちゃは片手剣を使うんだよね?」
「ああ」
右手に聖剣、左手に小型の盾の軽剣士スタイルが僕の常だった。正確には聖剣はバスタードソードに近い片手半剣だったが、まぁそれはいいだろう。
ちなみにバスタードソードとは両手でも片手でも使える片手剣と両手剣の中間のような剣のことだ。
「ならいいけど、両手剣とか大きいのだと、あんまりAGIが上がらないよにーちゃ。レイピアとかショートソードの方が上がりやすい」
「お? そうなのか」
言われなければ片手剣か、もしくは片手半剣を買ってしまっていたかもしれない。
レイピアはちょっと細すぎて頼りないのでショートソードにしておくか……
「じゃ、私はスキル屋に行ってくるね、にーちゃ」
「ん? スキルって買うのか?」
てっきり、【ファイアをひらめいた!】とかって感じで覚えるものかとばかり思っていた。
「ものに依りけりだよ、にーちゃ。戦闘系の初期スキルは買うのが普通」
そこから熟練度が上がって派生していくらしい。
確かに魔法を使えないのに、ヒールを覚える為の行動をしろ……って言われても困るしな。
「僕も何かスキルを覚えた方が――」
と、そこまで口にして、あのサボテンくんとの試合を思い出した……
隙だらけの突進スキル。無駄な動きの多い乱打スキル――カウンターし放題の大技スキル……
「……いらんな」
精々、隙狙いの大技ぐらいしか使い道が無い。スキルがあれで全部とは思わないが……
「まぁ、勇者なにーちゃだったら魔法を覚えてもいいと思うよ。今はまだ、ステータスもお金も足りないと思うけど」
「う、うむ……」
杖で戦っていたライムは、ヒールを覚えられる程度にMINDが上がったらしい。
ライムと別行動を取り、武器屋に行く。
店に足を踏み入れると、やはり謎空間に飛ばされての買い物になった。
ショートソードとバックラーを見たが、両方買うには少し所持金が足りなかった。
最初に買った無駄なアイテムが憎めしい……
結局ショートソードだけ買って店を出ると、同じく武器屋店から出てきたであろう少年が、僕の横で突然に素っ頓狂な声を上げた。
「んのっ!? あああああっ!? ソードとバックラーって、一緒に装備出来ないの!?」
突然にその少年が奇声をあげたので、思わず構えを取ってしまった。
赤茶色の髪に、ライムとさほど変わりそうにない低身長。声もまだ高めで変声期を迎えていない、おそらくは中学1、2年生といったところか?
「ああ……だったら盾じゃなくて鎧買ったのに……攻撃力が高いと思ったら“ソード”って両手剣なのかぁ……」
独り言ちて肩を落とす少年。僕と同じ初期装備の服を着ていることから、彼もまた今日あたりから始めた初心者のようだ。
……そしてどうやら少年は、両手剣と盾を一緒に買ってきてしまったらしい。
両手剣なら『トゥハンデットソード』とでもしておけばいいのに、運営はただの『ソード』という名前にしているようだ。
……大方、運営は『トゥハンデットソードって名前長くね? んで、初期武器にしては強そうな名前すぎね?』とか思ったんだろうなぁ……
しかしまぁ、無駄銭を使ってしまった者の気持ちは、今は痛いほどよく解かる。なんだよ荷袋って……エンドコンテンツ用のアイテムを最初の街に置いておくなよ。
普通のRPGでも、パーティ全員分の防具を買った後。
買った防具を装備させていたら、あるキャラの分だけ「あれ? これって前の装備と比較すると、防御力はちょっと高いけど、特殊ステータス上昇分を見たら、今まで使ってたヤツの方が強くね? 防御は3上がるけど、魔防は20下がるし?」――とかで、結局一人分の装備が無駄になることが、ゲーム中盤辺りではよくあるのだ。
……どうにかならないのかな、あの罠。
まぁ……閑話休題。
ゲーム序盤の資金繰りというのは意外と大変だ。無駄なアイテムを買ってしまった時のショックはかなり大きい。
序盤のお金に余裕がない時に、武器を買い揃えて『いざダンジョンへ!』と、意気揚々とダンジョンに入ったら、一番最初の宝箱から買ったばかりの武器が出た時のやるせなさは――おっといかん、閑話休題閑話休題……
「君、間違えて装備できないバックラーを買ってしまったのかな?」
と、とりあえずコンタクトを取ってみる。
少年は一度ビクッ!! と肩を震わせてから、怯え、警戒するような目でこちらを見てきた。
いや、そこまで怯えなくても――と思ったが、そういえば今の僕の姿は、十年の時を戦いに明け暮れた冒険者の青年。……そりゃ、ゲームとは言え、疵だらけの男に話し掛けられたら警戒するよな。
だが、構わず続ける。
「僕も今日始めた初心者で、バックラーを買おうとしたんだけどね、ちょっと手持ちが足りなかったんだよ……もしバックラーがいらないんだったら、240Eで譲ってくれないかな?」
ちなみにバックラーは定価で250E。
そのままNPCに売却すると、10分の1の25Eになってしまう。
悪い話ではない筈だ。
「え……?」
少年はしばらく呆けた後、やっと意味を理解したようで、慌ててアイテムストレージからバックラーを取り出した。
「あ! はい! バックラーです! そうしてくれたら助かります!」
僕はお金を240Eを取り出すとバックラーと交換して貰った。
店や冒険者ギルドでは、直接アイテム欄の所持金の数値が増減しただけなので、初めて現物を見たが、紙幣のようだ。
目の前にダイアログが現れ、取引きの内容を確認されたので【YES】を選択。
【ハヤトとの取引きを完了しました】――とメッセージが出たので、正常に取引きが出来たらしい。
「助かります。これからパーティメンバーでクエストに行くんですけど、その前に装備を整えようとしたらこの有り様で……これで代わりに鎧が買えます!」
「こちらこそ、ちょうどバックラーが手に入って良かった。クエスト頑張ってね」
最初の怯えはどこへやら、少年ハヤトくんは笑顔で手を振って、小走りに駆けて行った。
うん、こういうやり取りもいいものだ。バックラーを装備しつつ、僕はにんまりと笑う。
――さあ、ライムと合流しようか。