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11 からかい上手の未来さん

――【サーバーとの通信を切断しました。またのプレイをお待ちしております】――



「っふぅ……」


 街まで戻ってきた僕たちは、そこからすぐにログアウトした。

 時刻はおよそ午後5時。一学期の終業日の今では夕方と呼ぶのも微妙なぐらいに外は明るい。

 エアコンの電源を切ると、VR端末を頭に乗せたまま窓を全開にする。

 アスファルトに熱せられた、むわっとした熱気が室内に入ってきた。


 VR機は外気温センサーも付いていて、あまり高温の場所や低温の場所だと機能を停止する。

 VRで意識を切り離している間に、熱中症になったり凍死したら困るしね。

 そうでなくとも、バイタルチェックに異常があったら停止する。全没入のダイブモードではなく、視界が制限されるだけのビジョンモードなら、どんな環境でも使えるのだが……


 外からの空気を吸うと、一気に現実感が生まれ、今まで居た場所が幻想だったことを実感する。

 だが、不快ではない。まるで映画館から出てきて、太陽の光を浴びた時のような感覚だ。


「にーちゃー、夕飯の買い出しー」


 ドアの向こうから聞こえてきた声に、少しだけ苦笑する。

 ――現実でも幻想でも、変わらないものがある。

 未来が傍に居てくれるということだ。






 ―― …… ―― …… ―― …… ――






「お肉が安かった」

「だな」


 とは言っても豚肉だが。


「今日はホイコーローでいい? にーちゃ」

「おーう」


 スーパーからの帰り道を、二人で並んで歩く。

 僕の左手にはエコバッグ。二人分の食材なのであまり重くはない。安売りの醤油が少しだけ重いぐらいのものだ。

 未来の右手にはトイレットペーパー。


 僕の右手と、未来の左手が、時折擦れるように触れ合う。


「あっついね、にーちゃ」

「だなぁ、もう六時なのにな」


 太陽はようやく傾きだした頃。空はまだ薄い青色で、焼け付くような陽射しではなくなったものの、何をしているわけでもないのに薄っすらと汗が滲むような暑さは残っている。


「にーちゃ、アイス買ってこう」

「おう、そうしよう」


 これが僕らの日常。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





 未来の作った夕飯を取り、筋トレを少しして汗を出してから入浴。

 そうしてから、またVR端末を手に取った。


「未来がもう少ししようって言ってたしな」


 ゲーム内での夜の時間は二時間のみらしい。太陽の出ている時間は十時間――つまり十二時間で一日の計算らしい。

 これは夜にしかログインできない人などに考慮したもので、午前と午後の5~7時が夜の時間に割り当てられるという。

 夜は基本的に冒険に向かない時間ではあるが、夜にしか発生しないサブイベントなどもあるそうなので、一応夜時間が設定されているらしい。

 後、長時間のログインをしている人を強制的に休ませる意味合いもあるのだとか……


 現実での諸々を終え、時間は9時を差し掛かっている。ゲーム内ではもう陽の出ている時間だ。


 ハーフヘルメット式のVR端末を被ると、まずはビジョンモードで起動する。


 そこから“brand-new World”を起動――


「ん?」


 なんだろうか、最初の起動では気が付かなかったが、なにやらゲームとは別のデータが入っている。操作を間違えて動画やスクリーンショットでも取ってしまっただろうか?


 フォルダ展開をしてみると、今日の日付がファイル名になった動画データや画像データが幾点かあった。


 いつ、そんな操作ミスをしたのだろうか? と、データを閲覧してみると――


「ぶっっっっっ!!!?」









「あ、にーちゃ。遅かったね」


「……おい、未来」


「ライムだよ、にーちゃ」


「そんなことはどうでもいい……なんだアレはっっ!!」


 VR端末の中にあったのは、全てアダルトものだった。しかもわざわざリネームまでして偽装しやがって!!

 さらに全部が妹モノってどういうこと!? 誘ってんの? 誘ってんのか? この妹様はっ!!


「にーちゃ……勃った?」

「…………」


 ノーコメントを貫く。


「ちなみに、にーちゃ。あの中に私のえっちっちな自撮りが混ざってたんだけど?」


「え……?」


 画像データではない。一通り確認はした。

 なら、動画データの中に差し込んだのか……?


「にーちゃ」


「……ん?」


「想像して、勃った?」


「勃たねーよッ!!」


 もうやだこの妹……兄をからかって楽しんでいるだけだわ…………

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