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111 勇者は来たれり

本日? 二回目の投稿。

前話はクリスマス小話なので本編には関係しませんが、よろしければ。



・前回のあらすじ

ワールド・クエスト二話目。廃村を進んでゆく主人公たち。

そこに明らかに罠と思しき、磔の女性が。

だが、クエストNPCのペネローザは、その罠に当然のように掛かってしまう。

女性の正体はウェアウルフのホジド。

このクエストのボスだった。

 ――ホジド。


 それがこのクエストのボスの名前らしい。


「運営も、スタッフの名前をもじるのはやめたのか」

「ま、いくら巻き舌ふうにしたところで、限界がある」


 元が和名だもんな。どうしたって無理やり巻き舌にしました感が出るよな。


『キサマも“ノーデェルラ”の手の者かっ!?』

『カハハ、違う――とだけ言っておこう。お前を疎ましく思っているのは、一人だけじゃないってことだな』


 うーん、ここでの第三勢力の示唆。ふろしき広げるのが早すぎない?

 そういうのはまだ先でいいだろ?


『なんですって!?』

『まぁ、どうでもいいことだったな。どうせお前はここで死ぬ』


 その言葉を皮切りに、ホジドの頭上にHPが現れた。

――どうやら、この瞬間からがボス戦らしい。


 HPゲージが見えた瞬間、やわらかシリコンの壁は消えた。



「先行する!」


 開幕一番、跳び出す。

 ホジドと名乗ったウェアウルフの男は、続けざまにペネローザに襲い掛かろうとしていた。


「なるほど、ペネローザを狙って、クエストを失敗させるようになっているのか」


 底意地の悪い敵だ。

 いや、底意地が悪いのは運営か?


 走り出した僕について来ているのはトーカ。

 AGIの都合で、僕について来て来れているのは彼女のみだ。


「トーカ! ペネの方を頼む!」

「はーいよ」


 ホジドに肉薄し、駆け込みの勢いのままに剣を振り下ろす。


『フンっ』


 その一撃は躱された。だが続けての連撃。

 剣を振った重みを殺さず、身体を回転させての後ろ蹴り。


『ヌゥっ!』


 蹴りは十字防御に防がれたが、勢いの乗った蹴りは、ホジドを地滑りさせる。

 ペネローザからホジドを引き離すことには成功した。


「トーカ!」

『爆拳っ!』



 どっごーん!



 …………ってオイ?


 トーカの放った【爆拳】は、ペネローザにクリーンヒット。

 爆拳を喰らったペネローザはズザザ――と、地滑りしてゆく。


「ええぇ~~……」


 いいのか? これ。倫理的な意味で。


 しかし、地滑りしていくペネローザはと言うと、直立不動のままで表情ひとつ変えてはいない。


「攻略Wikiに書いてあったんよ。『吹き飛ばし攻撃をペネに使って、敵との間合いを離すとラク』って」


 ……まぁそうだろうけど、そうなんだろうけど。


「倫理観とはいったい……」


「『これはフィクションであり、なんちゃらかんちゃら……』だよ、にーちゃ。『ヒール!』」



 僕らより遅れて前線に上がってきたライムが、すかさずペネローザにヒールを掛け、イベント時に減らされたHPを回復させる。


「ゲーマーというのは――結婚相手を選ぶ時ですら、『強スキルを持っていて、金持ちの父親が定期的に良アイテムをくれる』って理由で、一途に想い続けてくれている幼なじみをフって、富豪の娘と愛のない結婚をしてしまう、悲しい生き物だよ、にーちゃ」


 やめろよ。

 ど〇兵衛派か、〇ちゃん派かと同じぐらいデリケートな話題を出すのはさ……


「はっ!? やっぱり、このゲームやめよ? にーちゃ」

「突然なんなんだよ、お前は」


「にーちゃがゲーム脳になったら、妹であり、ある意味幼なじみでもあるわたしを捨てて……」

「変なことを気にしすぎだ、ばかもの」


 幼なじみか……そう言われれば、そういうことにもなるのか?

 いやまぁ、そんなちょっとした疑問は、今のところどうでもいい。


「じゃ、あたしはちょっとドリブルしてくるんよ」


 そう言い、ペネローザに向かっていくトーカ。

 どごんどごんと爆発が連続して起こり、その音が次第に遠くなってゆく……


 どうやら、吹き飛ばしスキルを使って、ペネローザをさらに遠くまで運んで行ってしまう作戦らしい。


「トーカー、あんまり遠くまでやるとー、逆にワープしちゃう。ほどほどにー」

「りょーかいでーっす」


 ……まぁ、ペネローザのことはあちらに任せてしまっても大丈夫みたいだ。



「お待たせしました! 行きます!」

「おう」


 一足遅く到着したハヤトくんと共に、ホジドの前に立つ。


『退け、俺の目的は“聖女候補”のみだ』


 ……どうやらコイツは、プレイヤーではなく、クエストNPCを積極的に狙ってくるタイプの敵みたいだ。

 だからイベント扱いでペネローザのHPを減らしたんだろう。


 それで、ペネローザを守り切れなかったらクエスト失敗――っと、


「あの似非(えせ)聖女サマは、正直どうでもいいが……このクエストをやり直すのはもう御免だな」


「ぼくたちもです。三回目に挑戦するまでの気力はもう出ません」


 僕とハヤトくんは顔を見合わせ、こくりと頷きあう


「僕は右に出る。ハヤトくんは手を出さなくても良い。とにかくヤツを後ろに逸らさないでくれ」

「はい!」


 ホジドと斬り結ぶ。

 剣と爪、盾と爪がぶつかり合い、火花を散らし、繰り出される蹴りを屈んで躱す。


 見た目通りのスピードファイター。

 さらに言えば武闘家タイプの敵だ。


「相性はイマイチ……だな」


 僕のほうも、どちらかといえばスピードファイターだ。

 ただし、武闘家ほどではない。


 さらに相手は、曲がりなりにもボスモンスターだ。

 HPはこちらよりずっと高いし、攻撃力も普通のプレイヤーの僕よりもずっと上だ。


 ――つまり、なにもかもが僕より一回りは上。

 正面から真っ向勝負しても、僕に勝ちの目はない。


「ま、正面からやりあえば……だが」


 ホジドは僕たちプレイヤーとやり合う気はないらしく、僕たちの隙をうかがい、そこからの突破を試みている。


 つまり、まともに戦闘はしていない。気も(そぞ)ろに、僕と剣を交えている。


 勿論、抜かせる気はない。

 ハヤトくんも積極的に攻撃をするでは無いが、逃げ出そうとするホジドの進行方向を上手く潰してくれていた。


『邪魔をするな! 人間!』


「大人しくしてろ、犬ッコロ」


 破れかぶれに振られた爪を、盾で弾く。



「おまたせしたんよー」


 ペネローザを、どこか遠いところまでうっちゃってきたトーカも参戦。

 3対1――これでますますホジドの形勢は悪くなった。


『フヌゥウ!』


 僕とトーカとで波状攻撃。

 そしてハヤトくんがフォローに回る。

 少し離れた所にはチユが回復のために待機し、ここぞという一撃を狙って、マホが詠唱を始めている。

 ライムはペネローザを警戒。僕らから離れた場所にいた。


 これ以上ない、盤石な体制。


 ……だが、だからこそ、心にしこりが残る。

 このまま、なにもなく終わるはずがない。



『シールドチャージ!』


 ハヤトくんの盾スキル【シールドチャージ】がホジドを吹き飛ばす。


「『アクアフォール!』ですわ!」


 そのタイミングで、マホの落水魔法がホジドの身を穿った。


『ごばばばばばば――っ!?』


 滝のように流れ落ちる水流に圧し潰され、ホジドはその場に叩き伏せられる。


「これが“伏せ”ですわ。躾の悪いわんこさん」


 激流に圧しつけられ、伏したホジド

 だが地に手を突き、どうにか踏ん張り水圧に抗って立ち上がった。


『俺は誇り高き狼人だ! 犬ごときと一緒にするな!』

「そのセリフもテンプレだなぁ……」


 進化という面から見たら、犬の方が優れていると言う人もいると思うぞ?

 猿が人間を見て、『野生を忘れた』と後ろ指を差しているようなもんである。



『きさまら……良い気になりよって!』


 全身がずぶ濡れになったホジドの身体は、体毛がペタリと寝てしまい、二回りほど小さく見えた。


「よォし! このまま畳み込むんよ!」

「うんっ!」


 その様子がホジドを弱々しく見せたのか、警戒力を薄めさせてしまった二人が、トドメとばかりにホジドに襲い掛かった。


「待てっ! 二人とも!」


 僕の上げた制止の声。

 ――だが遅い。

 ハヤトくんとトーカは武器を掲げ、既にホジドに躍りかかってしまっている。




――『ゥオォォオオオォ――オンッ!!』



 獣の咆哮。

 高く響く言葉のない声。


 ホジドは天に向かって出した声は、音を分かりやすく可視化表現したような――重なった輪になって周囲に飛び散った。


「なんだ!?」


 咄嗟に跳び退る。

 ――しかし、目前まで来ていた輪を避けきるには遅く……


「ちいっ!!」


 後ろに跳びながらも、その輪を盾で払いのけた。

 否、払いのけようとした。

 だがそれは、盾でどうこう出来る代物ではなかったらしい……


 盾で輪に触れた瞬間、僕の左腕は痺れたように感覚を無くし、力なくダラリとぶら下がる。


「麻痺効果かっ!?」



 RPGによく登場する状態異常“麻痺”。

 それも、大概のRPG作品では、麻痺は強力な特殊攻撃だ。


 プレイヤー側が使えば、大量の敵が相手でも、こちらが有利な状況に持ってゆくことができ――

 敵が使えば、プレイヤー側の連係を根本から崩され、そこから全滅する恐れすらある。



 ――そう、まがりなりにもボスの立場をとっているホジドが、『囲んでタコ殴りにしたら勝てました』なんて単純に倒せるような話が、あるはずがないのだ。



『クォオォオオォン!』



 四つん這いになったホジドが、ハヤトくんたちの間をすり抜けるようにして駆け出す。


 至近距離からまともに麻痺咆哮を喰らったハヤトくんとトーカはぴくりとも動かない。

 どうやら全身が動かない様で、ホジドの通過を簡単に許してしまった。


「くっそ!」


狼人(ウェアウルフ)ではなく、四つ足で普通の狼のように走るホジド。


 待ち構える僕の数歩手前で大きく跳躍し、飛び掛かってきた。


「こなくそ!」


 唸りを上げ、身体ごと襲い掛かってくる爪に右手の剣を合わせる。

 勢いの乗った一撃に剣は弾かれ、僕の体勢は崩れた。


「ちぃ! 片手では……」


 着地したホジドは『キサマなど眼中に有らず』とでも言わんばかりにこちらを一瞥し、そのまま走り去る。

 マホ、チユと、瞬く間に抜き去り、一直線に標的(ペネローザ)目掛けて――

 走る、走る……



 ――ちくしょう、追いつけない。


 麻痺した左腕では、走るのにも上手くバランスを取れず……

 そうでなくとも四足走行の獣に追いつける気はしない。


 ペネローザへの障害は、残るはライム一人のみ。

 ヒーラーのライムでは、ホジドの足止めも儘ならないだろう。



 しかし、ふんすと仁王立ちしたライムは、ホジドを迎え討つ気まんまんのように見えた。



「ライム! 無理するな!」


『邪魔だ! 小娘!』


 ライムに飛び掛かり、鋭いナイフのような爪を振り下ろすホジド。

 それに合わせ、ライムの持つ杖がホジドに向かって突き出された。



『カウンタバリア!』


 ライムの杖の先端に、小盾程度の、小さな円が生まれる。

 その小盾と、ホジドの爪がぶつかり合った瞬間――


――空を舞い、吹き飛んでいたのはホジドの方だった。



『ヌォオオ!?』


「にーちゃ直伝、護身術魔法バージョン。成功」


 ぶい、と指を立てるライム。


 ……やるなぁ、ウチの妹。



『おのれェ! 姑息な真似を!』


姑息(ごまかし)で充分。その場しのぎで結構。そうすれば必ず――」


『ナニ――? グォ!?』


 ごいん、とホジドの頭に、フリスビー形の盾がぶつかる。


 おや? 牽制程度に適当にぶん投げた亀盾が、見事に頭に当たってしまった。

 突然のマリカーアタックに、頭を抱えてうずくまるホジド。ご愁傷さん。



「――わたしの勇者(にーちゃ)が来てくれる」



 追いついた。


 まったく、うろちょろすんなよ。あちこち走り回るのが面倒じゃないか。

 脱走癖のある駄犬か? おまえは。


『キサマ……』


「まったく、鈍い犬ッコロだな。お向かいの太郎丸は、そのぐらいのフリスビーは簡単にキャッチ出来るぞ?」

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