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95 菊井大吾(プログラマー)

・前回のあらすじ

 ワールド・クエストを始めた主人公たち。

 その内にマルタ、アイダリン、セイと仲間が増えていき、そしてクエストの目的地である森の中の洋館までたどり着く。

 そこで現れた“ミア”

 義妹と、現地義妹のそっくりさんの間に飛び散る火花! と思いきや、火花を飛ばしてたのは現義妹のみでそっくりさんはスルー気味。

 主人公の胃は大丈夫か!?

 屋敷に入り、僕たちは辺りを見回す。

 どうやら屋敷の前が混んでいたのは、単純に入り口の大きさの問題だったらしい。高速道路が料金所のところで渋滞するのと同じかな。最近はETCの人が多くなったけど、それでも渋滞は起きるよね。


 洋館に入ってすぐは広間になっており、左右にはいくつかのドアが付いていた。そして正面奥には一際大きな扉がある。

 内部は外観ほど傷んではおらず、普通に誰かが住んでいるかのような佇まいだ。

 その中で、何組かのパーティが辺りをうろうろとしている。


「Wow! What a mansion! (すごい館だな)」


 おいこらマルタ、その英訳は珍妙だって聞いたことがあるぞ。

 英語が自国語のお前が使うはずないだろ?


「お約束ですよねー、マルちゃん」

「デスヨネ」


 いえーい、とまたハイタッチを交わすマルタとアイダリン。

 ほんと仲いいなお前ら。


「まぁいいか……、しかし、人が並んでいた割には中には人が少ないな」


 屋敷の前に詰めかけていた人数から考えれば、屋敷の中はぎゅうぎゅう詰めになっていてもおかしくはないと思うのだが……


「この屋敷に入った時点で、ある程度の人数別に、自動的にチャンネル分けされてるみたいだよ」


 それはまぁ仕方ないか、鮨詰めでゲームするわけにはいかないしね。


「で、この洋館の奥に行けばいいんだな?」


 洋館に入った広間の正面奥に、一際大きな扉がある。

 その扉に近付き、取っ手を引いてみるが……


「開かない?」


 押しても引いても、うんともすんとも言わない。


「屋敷の中を探索して、鍵を見つけるみたいだよ。にーちゃ」

「ああ、そういう……」


 このゲーム、なんか色々と混ぜすぎだろ?

 FPSもどきの水鉄砲シューティングとか、釣りゲーとか……


「? 師匠。RPGで、謎解きは当たり前ですよ?」

「そういわれるとそうだな……」


 最近のRPGっていうと、特に謎を解くようなギミックはなく、ただなんとなく進んでいけば勝手にストーリーが進行していくものが多くて忘れかけていたよ。

 扉の先に進む為のアイテムを探すのがPRGの基本だもんな。


「ま、それじゃその鍵を探すか」


 と、屋敷の中を探索することになった。



  ◇



 屋敷の中の探索は、RPG的というよりも脱出ゲームに近い感じで行われた――


「この棚を開けるには、三桁の暗証番号が必要みたいだが……」


「あ、向こうの引き出しの底に書いてあった数字じゃないですか?」


「ふん、それは四桁だったはずだ。我としては、あの壁の模様に違和感を覚えるがな」


「モウいっそ、棚を壊してしまえばイイと思いマース……」


「マルタ。ゲームだからそれはムリ」


「あの、クレリックさん? ちょっと休んでいていいですよ?」


 脳筋クレリックマルタはこういうのは苦手そうだな……


 謎解きエリアはこれまたインスタンス化しているようで、1パーティでじっくりと探索できた。モンスターも出現しない。


 こうして部屋に入る鍵を探す部屋の鍵を別の部屋で探す……なんてたらい回しを三、四回繰り返し――

 最後にいかにも、といったゴツイ鍵が、大仰に置かれた宝箱の中から発見される。



 その鍵を持って、再度広間の扉の前まで戻ってきた僕たち。

 鍵を鍵穴に入れると、カチリと硬質な音が響き、そのロックが解除されたことが分かる。


「この先はボス戦か?」

「調べてないけど、たぶん?」


 おや、ライムにしては珍しいな。

 教えるか教えないかは別にしても、いままではだいたい下調べはしていた感じだったが……

 流石に配信されたばかりのクエストなので情報がまだ入ってきていなかったのだろうか?


「ちょっと調べたら、謎解きのネタバレに当たった。即ブラバ(ブラウザバック)


 あぁ……謎解きのネタバレは見たくないよなぁ。ミステリ小説を、巻末から読むようなものだもんな。


 チャンネル分けされていたとはいえ、それなりの人数が屋敷内にいるはずだが、流石に謎解きを挟んでしまうと人はバラけるのか、扉の前に順番待ちをしているパーティはいなかった。


 とりあえず戦闘準備を整え、扉に手をかける。




――


『クク……、ようこそ、聖女様とその一行よ』


 屋敷の奥の間――

 そこには10メートルはあろう長テーブルが設置されており、その一番奥に壮年の男性が座っていた。


 男性のその手の中で、ワイングラスがくるりくるりと弄ばれている。


「ア、ダーイニングルーム」

「そのネタはもういい」


 と、プレイヤーの僕たちがそんなことをしている間に、NPC同士の会話が始まっていた。


『あなたは――』


『これはこれは聖女様。我が名は“キークィ・ディーゴ”――我らが王、“ノーデェルラ”様の配下にして、高位なるヴァンパイアの一族です。お見知りおきを』


「ちなみにコレのモデルは、プログラマーの“菊井大吾”らしいよ、にーちゃ」

「それで“キークィ・ディーゴ”か……」


 どうでもいい情報だった。ほんとどうでもいい。



『この場所にあるはずの魔力聖域はどうなったのです!』


『フフ、そんなもの、とうに我々が封印しましたよ。そして、こうしてその場所に屋敷を建て、待ち伏せていたのです……、“聖女”が来るのをねっ!!』



「あの……そんな重要なところに変な建物が建ってたら、普通は誰かが先に調査に来ますよね?」


 おう、ミアも意外と突っ込むな。

 まぁゲームのシナリオなんてそんなもんさ。



『ならばあなたを倒して、魔力聖域を開放しますっ!』


 ドレス姿のペネローザが、腰にぶら下げたショートソードを抜くと同時に、キークィの姿が人型のそれから崩れ、変化する。


 空間は歪み、長机は消え、そして部屋そのものが消え、まるで星を散りばめた夜空のような空間へと変貌した。


 その間に、キークィの姿は全身真っ黒な悪魔のような姿に変わっていた。

 吸血鬼というよりも、どちらかというとガーゴイルのような風貌だ。それは悪魔的……としか言い様がない。


『ククク……脆弱な人間如きに何が出来る! 返り討ちにしてくれるわッ!!』


 キークィのその言葉を皮切りに、戦闘が開始される――



  ◇



「にーちゃ! 行って!」

「承知!」


 まず飛び出したのは僕。ボス戦の前に作戦は立ててきた。


 今回の戦い――これを勝利できるかどうかは、僕の動き次第といっていいだろう。この戦いで、僕が一番重要な役割を担っている。


「まず、()()()の足を止める!」


 今回の僕の立ち回りに“プロボークステップ”は必要ない。ヤツの妨害さえしていればいいのだ。

 後はパーティメンバーのみんなが敵を倒してくれる。


 ――僕は、ショートソードを振りかざしてキークィに駆け寄ろうとする“ペネローザ”の前に立った。

 当然、僕との衝突を避けて、ペネローザの足は止まる。


「よしにーちゃ! そのまま()()()を動かさないで!!」

「よしきた!」


 ペネローザが、僕を迂回してボスに向かおうとするのを、また回り込むようにして妨害する。


――そう、僕の仕事は『ペネローザが敵に突っ込んでいかないように邪魔をする』事だ。


 ……ここまで来る間にも、ペネローザはショートソードを片手にモンスターの群れに突っ込んでいった。

 ペネローザが近接戦闘系ならばそれでもいいのかもしれないが、『聖女』と銘打たれた彼女のステータスは、どちらかと言えば魔法使いやヒーラーに属するステータス振り……

――なのにコイツは剣を手に、接近戦ばかりをしたがる。


 クエストNPCであるペネローザが死亡してしまえばクエストは失敗。蘇生アイテムも役には立たない。


 ……まぁ、有り体に言って、すげー邪魔。AIがお馬鹿だからか、こちらの指示も聞きやしない。

 だから、彼女の蛮勇を止める為に、誰か彼女に張り付いて妨害する役が必要なのだ。


 その役を仰せつかったのが、AGIが高く動体感知能力も高い僕――ということになる。


『シャイニーボール!』

『シャインブリッツ!』


 ライムとミアの放つ光の攻撃魔法がキークィを撃つ。

 キークィはヴァンパイアのモンスターなので、光魔法に弱いらしい。

 こうなると、ヒーラーばかり三人もいるこのパーティも悪くは無かったと思える。


『ギィイイイッ!』


「HAHAHAHA! 悪魔祓いはクレリックの仕事デース!」


 光魔法を使わないクレリック、マルタが丸太を構えて敵に突貫する。

 巨大な丸太を振り回す姿はまるで格ゲーキャラ――否、なんちゃら無双というタイトルのゲームに出て来てもおかしくはないように思えた。


『ゴヲォォウッ!!』


 丸太でしたたかにブン殴られたキークィが悶絶。

 流石に光属性の丸太。ヴァンパイアには効果バツグンの様子。

 そういえばヴァンパイアって木の杭で心臓を刺すと退治できるっていうけど、丸太のまんまでも効果はあるんだろうか……?


『行くぞ! ヴァンパイアめっ!!』

「おっと」


 僕は僕でバスケかサッカーの選手のように、マークから抜け出ようとするペネローザをブロック。

 したたーん、したたーんと反復横跳びを繰り返している――って、これ、前にもやらなかったっけ?


 敵モンスターみたいに、ヘイトが取れれば楽なんだけどなー……、便宜上は味方だからな、コイツ。


「“シャルラハロート・ブレンネン・シュピラーレ”!!」


 ここぞとばかりにアイダリンの創作魔法が火を噴いた。

 轟、と螺旋を描いた炎の弾がキークィを焼く。


『ゴァオオオオオオ!』


 炎に包まれるキークィ。

 創作魔法ならではの、かなりの量の魔力(MP)が込められた一撃だ。



 ライムとミアの光魔法でボスのHPを削り、アイダリンとセイの魔法がボスのHPをさらに削る。

 そしてマルタの丸太がボスを穿つ――それを繰り返し、ボスのHPはみるみると減っていった。


 まぁ、攻略難易度からすると、東の森のカエルと大差ない筈だ。

 ここにいる全員がカエルは攻略しているはずだし、敵の弱点である光属性での攻撃方法も多彩なこのパーティでは、ヴァンパイアのキークィなど相手にはならなかった。


『行くぞ! ヴァンパ――』

「だからお前はいいって」


 こうしてお邪魔虫も僕が完封している。

 キークィの残りHPは順調に減ってゆき、もはやHPゲージはレッドゾーン。

 後一押しで倒してしまえるだろう。


『グォオオオオ! おのれ、聖女めェエエ!!』


 いや、聖女なにもしてませんがね? というか何もさせませんがね?



「ふん、トドメは我が貰おうっ!」


 全ての指に指輪が嵌まった右手を、キークィに差し向けるセイ。


 ……あれ? 左手じゃなくて右手にしたんだ?

 ああ、アイダリンに貰ったマジックリングを左手の薬指にはめたかったから、右手に変えたのね?

 うん、順調にシスコンをこじらせているね。


「我が深淵なる漆黑のイカヅチを喰らえっ! 【伍条の雷光(フュンフ・ドンナー)】!!」


 セイが詠唱を終え、キークィに向けてサンダーボルトが放たれる。


――――ぱしゅん


 と、本来ならば五つ同時発動の【サンダーボルト】が、ただの一発しか出なかった。


「え?」


『グヌォオオオッ! 忌々しき聖女めッ!! しかし、我が同志によって、他の魔力聖域も封印されているはずだっ! キサマにその全てを倒せるかな!?』


 ……とはいえ、レッドゾーン限界まで削れていたキークィのHPは、一発のサンダーボルトで削れきってしまったらしい。なんとも締まらない最後だ。


 まぁ、『ボスは大技で倒そう!』と思ったら、削り切れなくて、次の通常攻撃で倒しちゃう――とかは、よくあることである。


 そして再度言おうキークィ。聖女は何もしていない。



 キークィが最期の言葉を発すると、キークィの体は爆発、飛散し、辺りの風景は長テーブルのある元の部屋へと戻った。


『私は決して悪魔などに屈しない! 必ず全ての魔力聖域を――』

「あれ、なんで一発しか出なかったんだ?」


 なんかべらべらと喋り出したNPC(ペネ公)を放置して、セイの様子をうかがう。


「……解らぬ、我が魔力(マナ)は【伍条の雷光(フュンフ・ドンナー)】を放つのに充分だったはず……」


 と、


「あ、セイ。メンテで『マジックアイテムの仕様変更』って無かった? それじゃない?」

「なん……だと……?」


 アイダリンの言葉を受け、あわててメンテ内容を再確認するセイ。


「“マジックアイテム使用時のクールタイムを、使用者に付与するように一律修正”……」


 ああ、それで一発なのか。

 指輪一個分だけ魔法が出て、他はクールタイム中だと判定されたのね。


「貯めた金をつぎ込んで、最近やっと五つ揃えたのに……」


 右手の五本指を見て、がっくりと項垂れるセイ。

 ぢつと手を見る……


 ……気を落とさずにがんばれ。



『――私は負けない! かならず“聖女”の力を得て、“ノーデェルラ”の野望を止めて見せるっ!』


 部屋に虚しく、ペネローザの独り演説が響いていた。

ちなみに、王“ノーデェルラ”は小野寺さん(ディレクター)です。

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