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日常への帰還、そしてプロローグ

「……終わった。全部――終わったんだ」


 黄昏に染まる通学路。キチチチ……と鳴く鳥の声。遠く聞こえる子供たちのはしゃぎ声。

 アスファルトで舗装された地面。ブロックで隔離された塀。サイディングボードで構成された家の外壁――


 なんの変哲もない夕暮れの住宅街。

 でもそれの全部――全部が懐かしい。


「ありがとう……アルベロス、ヘギサ、セルシン、ミミア――」


 共に泣き、共に笑い、共に傷付き、共に旅をした、俺の大切な仲間たち。

 その仲間たちのお陰で、俺はここに戻って来れた……


 そして――

「ただいま……! 俺の世界(ニッポン)!!」


 こうして俺は、異世界からやっと帰って来れたんだ。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――






 僕の名前は羽田勇史。

 勇者だった(・・・)人間だ。

 まぁ、異世界グランスモールでは……の話だけどね。

 今はただの一般人。普通の高校二年生。どこにでもいる16歳の少年。


 15歳――当時高校一年生だった僕は、突然異世界グランスモールに召喚され、勇者として魔王を倒すべく旅立つことになった。

 仲間の剣士アルベロス。魔導師ヘギサ。重戦士セルシン。治療法師ミミアと共に旅をして10年――


 どうにか魔王を討ち倒した僕たちは、魔王の所持する“悠久のオーブ”に込められた魔力を使い、グランスモールから日本に戻ってくることが出来た。


 何故か異世界(むこう)で過ごした10年という年月は、地球(こちら)では全くカウントされなかったようで、戻ってきた日時は転移した日そのままで、僕の身体も高校一年生の時のものに戻っていた。


 流石に25歳から、15歳に戻っていたのはちょっと驚いたけど、まぁ結果的にはそれで助かったと思う。

 10年ものあいだ行方不明になっていたような状態で、いまさらひょっこり帰ってきても、居場所なんてどこにも残ってはいなかっただろう。

 せいぜい、位牌と写真一枚分の仏壇の中だけが、僕の居場所だったろう。



 幸いにして、死亡届けや失踪届けも出されることなく、日常に戻ることが出来た。

 そんなこんなで、異世界グランスモールから帰ってきてから一年――

 前述のとおり、僕は平凡と呼べる高校生活を送れていた。



「ふゎ……ぁ……」


 帰って来た当初は感動に涙した日常の風景も、一年もすれば慣れスレて、それこそ有りふれた日常の景色でしかなくなるもので……

 あくびを噛み殺しつつ、僕は昼の帰宅路を歩いていた。

 世はなべて事もなし。しいて言うなら、ニュースで少し前から頻繁に熱中症対策が声高に勧告されているぐらいのものだ。


 僕と同じく、帰宅途中であろう少年少女たちは、どこか浮足立って見える。

『カラオケ』なんて単語が聞こえてくるので、これから打ち上げのようなものに赴くのだろう。



 そう、今日は一学期の終業式。

 今から長い夏休みが始まるとなれば、子供たちが浮足立つのも当然だ。


 僕は遠目から、そんな少年少女らを微笑ましい気持ちで見ていた。

 この身体は16歳のものだけれど、僕の精神は異世界(むこう)にいた10年を足して、26歳のものと同様になっている。

 さらに向こうでは、いつも死と隣り合わせの過酷な毎日を送っていた。平和そのものの光景に、頬が緩むのも当然なのではないだろうか?



 そんな僕は、今はいわゆる“ぼっち”

 周りの皆より一歩早く、精神だけが大人になってしまった僕は、うまく他の子たちと馴染めずにいた。


 さらに勉学の遅れを取り戻すのに去年一年間をまるまる費やしてしまった。

 10年も前にやっていた勉強なんて覚えていられるはずがないよね……


 まぁ、周りからハブにされているとかいうんじゃなくて、どこの友達グループにも参加していないというか、なんというか……まぁそんなカンジなんだけどね。


 ……そういうことなので、夏休みの予定はゼロ。

 もういっそ自転車で日本縦断の旅にでも出てしまおうかと思うぐらいには無予定である。



――――と、


「っ――!?」


 首筋に感じたチリっとした感覚。

 通学鞄を投げ捨て、後方を振り向き咄嗟に構えを取る。


 こちらを窺うような視線。その先には――


「……なんだ、猫か」



 塀の上に、ふてぶてしい顔つきのデブ猫がこちらを見ていた。

 咄嗟に左腰に回した右手を、ぐっぱぐっぱと開閉して苦笑する。


 ――もう、そこに剣など携えてはいない。

 身についてしまった癖というものは中々取れないものだ。



「にーちゃ、また『異世界病』?」


「そう言わないでくれよ未来。もう職業病みたいなもんなんだよ」


 近づいてくる、僕のよく知った気配。

 てとてとと歩み寄ってきたのは僕の妹の“未来”読みは『みく』ではなく『みらい』だ。


 未来には異世界に行っていたことは一通り話してある――というか喋らされた。

 あの日、異世界から帰ってきた僕に、なにか(・・・)があった事に、未来は早々に気付いたらしい――


 というか、朝に普通に学校へ行った兄が、家に帰ってくるなり突然抱き付いて来て泣き崩れたら……、そりゃあ何かあったと感じるよね……


 僕は投げ捨てた鞄を拾うと、軽く埃を払って持ち直す。

 こうやって毎度毎度、事あるごとに投げられる通学用の革鞄は、この一年であちこちに大小の疵がついてボロボロになってしまっていた。

 ……ああ、コレやっちゃうと、シャーペンの中の芯が折れてバラバラになるんだよな。なんて約体もないことを考えられるのも、平和な証か。


「日本にはゴブリンもいなければ、突然襲い掛かってくる盗賊も居ないよ。にーちゃ」


「いやまぁ、それは分かってるけどね」


 魔族が勇者である僕の命を虎視眈々と狙っているとか、寝静まった街にモンスターの大群が押し寄せてくるとか、そんな事はここでは有り得ない。

 そう頭では分かってるんだけれども……身についた癖というのはなかなか取れないものだ。



 妹の未来と並んで歩く。帰り道は当然一緒。


 この春から同じ高校に通う未来――

 てっきり未来には、友人との予定があるだろうと思って、僕一人で先に帰ってきていたのに、どうやら妹もまた直帰組らしい。

 ……この子、ちゃんとクラスに友達とかいるのかな? ……なんて、ぼっちの僕が心配することじゃないか。でも変わった子ではあるしなぁ……


 妹の未来は、美人か可愛いかと言われるとちょっと悩む。

 ツリ目がちな眼に気だるそうな声。

 顔のパーツを見ると美人っぽいのだが、150センチにも充たない身長と、まだ幼さを残す丸みを帯びた輪郭。

 胸も同年齢の平均を大きく下回る肉付きで、現在の印象としては『美人』よりも『可愛い』だが、将来は美人になるかも? と思わせる要因を持った少女だ。


 二人、無言でてくてく歩いてると、不意に未来の黒々とした瞳が、僕を見上げた。


「にーちゃ……また異世界(あっち)に行きたい?」


 そんなことを突然に訊かれる。

 だが、この質問はこれが初めてではなく、今まで何度も繰り返されたものだ。

 ――だから、僕の返答は決まっている。


「いいや、わざわざ自分から行きたいなんて思わないよ。こっちに簡単に戻って来れるなら、観光気分で行ってもいいかな? とは思うけどね」


 不安気に問う未来に、笑いながらそう答える。

 もちろん、異世界はそんなに簡単に行ったり来たり出来るものではない。事実、こうして帰ってくるまでに十年もの年月が必要となったのだ。

 ――たしかに、向こうには十年来の仲間もいれば思い出もある。

 だけれども、僕が生きてゆく世界はやはりこちらなのだ。


「……そう」


 未来はショートボブの髪を掻き上げる。

 さらさらと手触りの良さそうな髪が踊った。


「大丈夫。未来を独りになんて絶対にしないよ」


 僕らの両親は忙しい人達だ。

 父は取引先の都合で、半ば無し崩し的に、他県へ単身赴任状態になってしまっているし、母は母で看護師として忙しくしており、職場から帰ってくるのはいつも深夜だった。

 さらに務めていた医院が移転し、職場が自宅からかなり遠くに移ってしまった。

 このままでは自宅からの通勤は困難と見て、母は病院近くにアパートを借りて、そちらに生活の中心を移してしまった。


 つまり、現在ウチは実質的に、僕と妹との二人暮らし状態なのである。


「それはそれとして――にーちゃ、夏休みはヒマ?」

「悲しい事に予定はサッパリない」


 本当に悲しいことにね。


 僕の返答に、未来は「ふーん」と息を洩らす。


「じゃ、一緒に新しいゲームしない? にーちゃ」


 その妹の一言が、僕の“brand-new World”との出会いと始まりだった――

 ぶっちゃけ筆者はMMOとかやったことないんで、かなり嘘っこ書きます。

 初回はある程度キリのいい所まで、簡単な手直しをしながら順々に投稿しようと思います。

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