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ツンデレなメインヒロインとヤンデレな幼なじみはお好きですか?  作者: 芳香サクト
第一章『ツンデレな彼女はヤンデレな幼なじみに牙を剥かない…』
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他人に無関心になることが一番の悪だと教わった

 翌日、いつもの場所で僕は理恵を待った。

 昨日の今日で理恵が機嫌を直してくれると思っているわけではないが、美奈子には先に行かせて、一応、待ってみることにした。


 はぁ、しかし、昨日は酷かった。僕自身としての対応も悪かったと思っているけど、なによりひどいのは緋想さんだろう。純粋な乙女心にいちゃもんをつけるのだから。

 本当になぜ緋想さんがそういうことをしたいのかそれをして、僕たちの関係を引き裂くためにしたところでどうなる?僕は確実にそうさせた緋想さんを許しはしないし、それで緋想さん自身が優位に立てるわけでもない。むしろ、周囲に敵を作りすぎて勝手に破滅するだけだ。昔の僕のように。友人との付き合いに失敗した僕は事あるごとに人を煽り周囲に敵を作りまくっていた。

 その結果、今のような性格が出来上がってしまったのだ。

 まぁ、緋想さんも西中学出身って言っていたから何か後ろめたいことがあってこっちに来たのだろう。

 だから、気持ちは分からないでもない。だけど、緋想さんはまだ、正義の眼をしている。アレを失うと僕のようになってしまう。それは一度学園生活に失敗したことを意味するのであって一度経験した僕にとっては絶対に避けなくてはならない障害の一つ。そのために、今まで緋想さんが出てきても無視をし続けた。

 関わってほしくないからだ、緋想さんが関われば確実に迷惑なことに巻き込まれる。

 だから、僕は緋想さんを含めたみんなと距離を置いたはずだったのに……どうしてこうなったのだろう。

 と、そんなことを考えているといつもの道から理恵がやってきた。


「晴馬……なんで?」

「よ。理恵。一緒に行こうぜ。お前も話したいこと。あるだろ?」


 僕はそういうと、理恵のほうへ一歩近づいた。


「それ以上は来ないで!」

「!?」

「い、いい?私とは一定距離を開けて話すこと!分かった?」


 あらら、これは結構重症だ。相当昨日のことが参っているようだね。まぁ、話すなとまではいわれていないからまだいいほうなのか。

 僕はそう理解するとコクリと頷き、理恵より少し歩み出て言う。


「分かった。それじゃあ、僕が先に行こう。理恵も僕の顔を見ながら話すのは嫌だろうからね。」

「ふ、フン。分かっていればいいのよ。」


 ここまでしないと動かないからなぁと思いつつ、僕は先に歩みを始める。そして、無言のまま、十メートルくらい過ぎたところで理恵から質問が来る。


「き、昨日はごめんなさい。晴馬のことぶっちゃって。」


 理恵からぶたれたところは昨日、今日で軽く青い痣になっているので少し、後遺症が残る程度だろうと保健の先生が言っていた。


「それに関しては別に怒ってないからいいよ。先生が言うには軽い痣程度だから。気にしてないし。」

「でも謝っておこうと思って……ごめんなさい。」

「もういいって。僕が聞きたいのはそういうところじゃないし、そこは正直どうでも良い。」


 僕が吐き捨てるように言うと理恵は歩みを止めた。僕はそれに気づき、歩みを止める。


「晴馬なら、分かってくれると思ったのに……。」


 その言葉が昨日の勘違いの出来事だと思った僕は吐き捨てるようにして言う。


「理恵にとって僕は何でも分かっているように見えているようだけど、それは間違いだよ。僕だってミスはするし、分からないことが多い。今だって、理恵の気持ちに考えることはできるけど、確かめることはできない。人間は所詮、そこまでの生き物だ。」

「でも、晴馬は何度も気づいてくれて、助けてくれた。あの時(・・・)だって。」


 お前もなのか……お前もあの時について語るのか。


「アレは……しょうがなくやっただけだ。あの場にいたのは僕だけで傷ついているお前らをそのまま見殺しにするという選択肢を捨てた。ただ、それだけだ。」

「ただ、それだけって。あんたねぇ!」

「理恵、それ以上は言うな。僕も思い出したくないから。」

「そ、そうね。ごめんなさい。」

「理恵、一つ言っておくと、僕は一度、大切な人を亡くしている。だから、中学時代は人と付き合うことをやめたし、友人関係になるつもりもなかった。そんな僕が君と悠長に歩いていて良いのか。今でも不安しかないのだ。君がいつ、いなくなるのか。それが怖いから、僕は君に強く言い出せない。」

「そう……そうだったのね。ごめんね、晴馬。私、何もわかっていなくて。」

「いや、僕も上手いこと切り出せなかった。すまない。」


 僕が謝ったのを見て、理恵は背中から僕にダイブしてきた。


「でも、忘れないでね。あの時のおかげで私は晴馬のことが好きになったのだから。」

「……できれば、忘れたいくらいだけどな。」


 すっかり、元気を取り戻し、僕の手をギュッと握ってくる理恵の横で僕は一人、考えていた。


 そういえば、あの時はどうやって、助けたのだろうか。確か、確か……傷ついている二人を僕は……僕は………。あれ?どうやってやった?全く、そのころのことが思い出せない。それとも僕自身が思い出すのを拒絶しているだけなのか?それとも、たまたまそこにいただけなのか?ダメだ、考えれば考えるほど、何が何だか分からなくなってきた。


 教室に入った僕たちを待っていたのはいつも通りのクラスメイトだった。美奈子も席について僕たちが来たのを少しうれしそうに見ている。そんな中、誰よりも先に委員長が僕に向けて言う。


「おはよ、石倉くん。」

「ああ、おはよ。」

「理恵さんは……フフッ、もう、大丈夫そうだね。石倉くん、叩かれたところは大丈夫だった?」


 委員長は僕たちが手を握っていることに対して、苦笑しながらも笑顔を浮かべて僕に話す。

 僕はそれに対して、頬を触りながら言う。


「ああ、叩かれたところは変に痣が残っていて嫌だけどな。」

「しょうがないよ。昨日のことは誰が悪いとか言われることはないしね。」


 ん?どういうことだ?昨日のことは確実に緋想さんという明確な人がいたはず。


「……。」

「どうしたの?晴馬。」


 後ろから理恵が不思議そうに言う。

 まさか……な。もしかして……いや、偏見か?それでも、確かめる必要は充分にある。

 僕は机にカバンを無造作に置くと、委員長に向けて言う。


「委員長、少しだけ話、できるかな。」

「ん~、ここじゃダメなの?」

「委員長がここで言いならここでもいいけど。」


 その言葉に確信を持ったのか委員長はニンマリとした笑顔からシュッとした表情へと変わる。

 そして、今まで席について静かに事を見守っていた美奈子が僕に対して言う。


「その顔は……さては、何かつかんだようだね。晴馬くん。」

「ああ、まあな。」


 やはりなのか……僕が思っていることがすべて正しいということにしなくてはいけないのか。

 そして、すべて分かっているのはお前だったということだな。


「最初に言っておくけど、これからのことはすべて偏見。つまりは完全な僕の創造に過ぎない。ということを踏まえて話そう。委員長、君は昨日のことを覚えているかい?」

「え、ええ。覚えているわ。理恵さんが泣いて、石倉くんにビンタした。これはみんなが見ていたはずよ。」

「もちろん。そこについては実際に僕が叩かれた跡がある。だから、そこに関して否定するつもりはない。」

「じゃあ、何なのよ。」

「じゃあ、質問を変えよう。なぜ、緋想さんは理恵と僕との関係を聞いてきた?」

「そんなの、知らないわよ。緋想さんの気まぐれじゃないの?」

「ああ、僕も最初はそう思っていた。ただの気まぐれだ。ただ、僕たちの関係で妬いているだけだ。別に気にする必要はないってね。でも、よく考えたらこうとらえることもできる。『僕たちのことを心配してくれている。』とね。」

「「「はぁ??」」」


 その言葉に委員長、理恵、美奈子、そして、興味なさそうなクラスメイト達が全員僕のほうを向いた。

 正直、なんでこういうときだけ一気に来るのですか?もっと前からきてもよかったでしょ。


「断言しようか。『昨日の出来事はすべて偶然なんかじゃない。委員長、あんたがすべて考え、利用した張本人さ。』」


 僕は委員長を指さし、断言した。

 さて、ここからどう切り崩していこうか。まぁ、どっちにしろ、委員長、あんたの考えをすべて暴いてやるよ。

 委員長は最初、僕から目を背けていたが、僕に指をさされた時から僕のほうを見るようになった。


「……根拠は?」

「ああ、あるとも。っと、その前に謎はたくさんあるからそれを整理しようか。」


 僕は自分の筆箱の中から筆記用具を取り出すとそれを問いとして委員長へ問いかけた。消しゴムを置きながら僕は言う。


「一つ、昨日のあんたの行動がおかしかった。というよりも不自然すぎた。朝から何かを企んでいるような態度をとっていた。それはなぜか。」

「知らないわよ。それは石倉くんの考えすぎじゃないの?」


 ふむ……まあ、そう答えるよな。これは分かり切っていることだ。

 僕はシャープペンシルを机の上に置き、問う。


「二つ、学校を休みがちな緋想さんがなぜ、昨日になって登校するようになったのか。」

「それも知らないわよ。緋想さんが来たのは来たかったからじゃないの?」


 なるほど、そう答えるのか。まあ、急に学校に来るようになったのは別にどうでも良いと思っているから委員長の言い分を否定するつもりはない。

 僕は二本目のシャープペンシルを転がして問う。


「三つ、僕らに関係ない緋想さんがなぜ急に関係を聞くようになったのか。」

「だから、さっきも言ったでしょ?そんなのは緋想さんの気まぐれに過ぎないって。石倉くんもそういっていたじゃない。」


 まぁ、そうだろうな。でも、気まぐれにしては大きすぎるし大胆な気まぐれだけどな。とりあえず、ここまでは予定調和、勝負はここからだ。

 僕はハサミを机の上に置くと、委員長へ問う。


「四つ、なぜ昨日理恵が泣いているときにあんたはあの場にいなかったのか。」

「それは、トイレにいっていたのよ。」

「でも、トイレに行くにしては長かったよな。五分くらいで帰ってくるのかと思ったがあんたは全然来なかった。それどころか、すべてのことが終わってからひょっこりと出てきたように見える。と捉えられてもおかしくない態度だった。」


 僕はそういいながら、五つ目の問いを委員長へ問いかける。


「五つ、なぜ今朝、僕の頬を見て、叩かれたと認識できた?見ていなかったあんたが。普通、心配はしても叩かれたと認識できるのは昨日の光景を見ていた人たちならともかく、あんたはいなかった。ここが大きな矛盾点だ。」

「………。」


 もう、問いかけるものはないが、あまりにも十分すぎる証拠だ。これ以上、追い詰める必要はなさそうだな。


「委員長、僕は謎を解いていく探偵でもなければ警察でもない。だから、教えてくれないか。なんであんなことをしたのか。それで、納得するならば僕は怒らないし、今回のことも水に流す。だから、聞かせてくれ。君に何があったのか聞かせてくれるかい?」

「………嫌だった。」


 委員長はそういうと、僕たちに語り始めた。


「石倉くんを取られるのが嫌だったの。」

「……あんた、まさか。」


 理恵が委員長へ聞く。委員長は首を縦に振って言う。


「私ね、あなたたち、特に理恵ちゃんと美奈子ちゃんには謝らないといけないの。」

「え?ボクも?」

「うん。覚えてないかな。中学の時、君たちを拉致したことを。」


 !!


 その言葉で教室内は凍り付いた。

 理恵は顔を真っ青にしてガクガクとふるえている。美奈子は変わらない笑みを浮かべているが目が笑っていなかった。


「理恵……大丈夫か?」

「……あんたが主だったの?」

「フフッ、そう、そうよ。あの時、あなたたちを拉致監禁し、警察沙汰にしたのも私、あなたたちをとらえるように指示を出したのも私、すべて私の計画の中だったのよ。すべてうまくいっていた。なのに……なのにっ!!」


 委員長は僕を指さすとキッとした目で言う。


「あんたが全部壊したのよ!石倉晴馬!!あんたがっ!あんたが一人で解決して、二人を救って。それで今は被害者の一人と付き合っている。それが許せないのよ!!」

「そうか。」

「そうかって!」

「……理由を聞いてみたら、なんだ。そんなこと(・・・・・)か。」


 僕はため息交じりに言う。

 そんなこと、理由はどうであれ、今の僕にとってはどうでも良いことなのだから。


「それが許せないとして、委員長。今のあんたに何ができる?理恵や美奈子は許せないかもしれない。被害者は一番覚えているのだから。美奈子、視線が強いから少し抑えてくれ。」

「……んー、そんなに強い?」

「ああ、少なくとも僕の背中が痛いのは事実だ。それなりに強いぞ。」


 ぶっちゃけて言うと、蛇に睨まれた蛙状態だ。だから、僕は美奈子を怒らせるようなことはしなくなかった。委員長はそんな美奈子の視線にガクガク足を震わせている。


「分かった。じゃあ、委員長に一言だけ言わせて。」

「どーぞ。あとは任せてもいいか?」

「うん。」


 美奈子は震えている委員長へ歩み出るとフッ、と笑い、一言だけ言う。

 それでも、本当に強い、過去を掘り返すような一言だった。


「ね?これで分かっただろう?君がいかに努力してもボクたちには追い付けない。ということがさ。」


 そういえば、美奈子は人を追い詰めるのが大好きなドSな奴だったなぁ。と思ってしまった。


「ボクは君を許しはしてないし、あの時のことも今でのことも覚えている。君は知らないだけだよ。いろいろとね。」


 もう言うことが無くなったのだろうか。

 美奈子はクスリと笑い、僕の後ろへと下がった。


「理恵は、なんか言うことあるか?」

「……別にないわよ。あの時のことは全部忘れたし、言いたいことは美奈子と晴馬が言ってくれたから私は言うことない。」

「そうか。それじゃ、別に言うことないけど、勝手に恨まれている僕から言わせてもらう。」


 ここで初めて、委員長は吹っ切れたように僕に言う。


「……フッ、別にいいわよ。あんたは正義。私は悪。それだけで十分じゃない。」

「………興醒めだな。」

「え?」

「僕を正義に値するのは早すぎるし、僕たちはあんたのやったことは許すことはないと思う。だけどな、悪なんて誰も言ってないぞ。」

「どういうことよ?」

「んー、何と言ったらいいのかな。お前さ、計画がすべて成功した時、どう思った?嬉しかっただろう?それと同じだ。僕だって、許せないと思ったことだって何度もある。自分の活躍で変わってくれれば嬉しかったと思うし、勝てばよかった。と思う。ことだってある。そう考えることができるだけ、あんたはまだマシだ。世の中にはそれを拒絶し、向き合うことを覚えないで自分の殻に閉じこもっている奴が五万といるんだ。その分だけ、あんたは成長していると思ったほうがいい。何事もポジティブに考えてみたら世界は変わると思う。僕はそうやっているから嫌なこともいい方向へと変えていくことができると僕は思う。」

「……私でもできるかな?」

「もちろん。だってあんたは人間だろ?人間がほかの動物より最も優れていることは考える能力、思考を変える能力が高いことなのだ。それをしようとするかしようとしないかであんたの世界観は変わってくると思う。」

「すごい自信ね。そんな自信はどこから出てくるのかしら。」


 別に答えるつもりはなかった。でも、委員長の腐り切った態度に僕はどうしようもなかった。


「なに、別に難しく考える必要はないさ。誰かを守りたい。この人に好かれるにはどうしたらいいだろう。注目を浴びるならどうすればいいだろう。何でもいい。考えることが大切だ。今のあんたは考えないで本能のままに動いているいわば、ただの獣でしかない。委員長。あんたはまだチャンスがある。」


 僕は委員長と同じ目線にたち、静かに続きを言う。


「だから頼む。僕の大切な人たちをこれ以上傷つけないでくれ。」


 それは、本心だった、僕がこの瞬間まで、思ってきたが誰にも言うことがなかった言葉でもあった。


「……はぁ。もういい、もういいわよ。私の負け。あんたの勝ちよ。石倉くん。」

「ありがとう。委員長。」


 僕がお時期をしてお礼を言うと、委員長は……それはそれで置いといてといい、僕に近づく。距離にして約一m以内、ほとんど密着状態になる。


「石倉くんにだけ教える。なんでこんなことをしたのか。」


 委員長はそう切り出すと僕にボソボソと言葉をつづけた。そして、すべてを知った僕は……。


「うっそぉ。」


 落胆の声を上げるしかなかった。


「本当よ。さてと、授業が始まるわ。こんな茶番は置いて、準備しましょう?」

「あ、ああ。」


 僕は少し強がって、返答をして授業の準備に移った。だが、授業中も僕は落ち着きのない態度をとっていた。


 ああ、クソ。なんでそういうことを平然と言えるかなぁ。それを知っていれば変わったかもしれないのに……。


『私、中学の時から君のことが好きだったのよ。』


 それは僕にとって最悪と言っていいほどの言葉だった。

委員長ーー

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