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ツンデレなメインヒロインとヤンデレな幼なじみはお好きですか?  作者: 芳香サクト
第一章『ツンデレな彼女はヤンデレな幼なじみに牙を剥かない…』
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ジョジョに最悪な物語(後編)

「は~る~ま~く~ん。これはどういう事かな?」


 さっきと同じ口調で美奈子が僕に迫ってくる。


「い、いや……これは……その、あのだな。」


 もはや何を言っているのかですら自分でもわからない状態だった。その後ろで賀陽先輩がロッカーから出てきて、手を一回パチンと叩くと、いまだに疑い深い美奈子に言った。


「幼なじみくん。私は彼に相談を受けていたのだよ。だから君の思っているようなやましいことは何もない。」

「相談を受けていただけでロッカーに入れるほどのことを晴馬くんは言ったのですか?」


 んー、そんなこと言ったか?

 そもそも、ロッカーに入れって言ったのは僕、美奈子はただ、図書館に来ただけ。

 あれ?あれれ?僕もしかしてどうでもいいことをしていた?自分で墓穴掘って美奈子を呼んだ?うそーん。


「いや、そんなことはないぞ。これはただの不可抗力だ。さっきも言ったがやましいことはしていないし、されてもいないぞ。」


 賀陽先輩は美奈子の事を幼なじみくん、そう呼ぶようになった。

 それはいいのだが……さすが賀陽先輩、無駄なこと一切言ってなくて、要点だけを美奈子に伝える。その精神力がすごいです。


「せんぱぁい……。」

「晴馬くん、そんな目で私を見ないでくれ。私は事実を言ったことだ。」


 美奈子は殺意の目線をやめ、口調を少しだけ高くして言った。


「ふーん、ま、分かりました。今回は先輩に免じてみなかったことにします。でも、晴馬くん、最近、ちょっと浮かれ過ぎじゃないかな。」


 美奈子は最後に刃だけ残して教室へと戻って行った。

 ふぅ……何とかなったようだ。というか僕が余計なことしすぎただけだよね、これ。


「賀陽先輩、さっきはどうもありがとうございました。おかげで助かりました。」

「いや、私もあのまま濡れ衣を着せられるのが嫌なだけであって。幼なじみくんには感謝はしているよ。理解が速くて助かる。ところで晴馬くん。」


 先輩は目線を低くして言う。


「別に私が隠れる必要なかったのではないだろうか?」

「ご、ごもっともです。」

「はぁ……いや、すまない。もっと簡単に言えばよかったなと思う。」

「いえ、こちらの不始末でこんなことになってしまったので。はい。本当に申し訳ないっす。」

「いや、こういうのには慣れている。だから、心配するな。」


 その言葉で、この人がどのくらい苦労をしているのかが分かってしまったような気がした。

 皮肉だが、わがままなお嬢様に無理難題を言い渡され続けている執事みたいな感じと思ったのは言わないでおこう……もしも、当たっていたら怖い。


「それじゃ、私はもう行くよ。お嬢様の用事もそろそろ終わっているころだろうしな。君も早く教室に戻りたまえ。」

「はい、ホントに色々ありがとうございました。」


 僕は賀陽先輩に一礼して教室へと戻り、その後ろで「何やってんや。賀陽。」という声が聞こえた。

 やれやれ、本当に当たっていないだろうな。


 教室に戻った僕を待っていたのはなぜか女子に囲まれて今にも泣きそうな表情をしている理恵の姿だった。

 今度は一体何なのだ?って、そう感心している場合じゃない。


「釘瀬さん、大丈夫?」

「あ、理恵ちゃん。来たよ。」

「石倉くん、釘瀬さんの彼氏なんでしょ?何とかしてよ。」


 女子どもよ、一つ訂正を言おう。彼氏だからって何とか出来るわけではない。僕はそんな万能な人間じゃないからだ。そして、美奈子を含めた女子たちが僕を待っていましたと言わんばかりに僕に詰め寄る。とたん、同じクラスの男子生徒の視線が光った。瞬間、本能的な感覚で僕は机を盾にした。


「ッ!!デスクストッパー!」

「チッ」「チッ」


 机の裏を見ると、シャーペン、ハサミ、鉛筆などが机にあたって跳ね返されていた。

 怖っ……お前らは餓えた狼か!そこ!第二弾としてコンパスを構えない!


「えっと、えー、コホン。理恵。何があったの?」

「うえっ、うえっ……。」


 僕が問いかけても理恵は何も答えない、ただ、泣きじゃくっているだけだ。さてと、どうしたものかな。


「美奈子!説明よろ!」


 僕は美奈子に視線を寄せた。心の中もすべて読み通せる優実ほどではないが美奈子も付き合いは長い。視線で会話するくらい他愛もないことだが、今回の出来事については例外だ。


「えっ。」

「早く!!」

「えっと、昼休みの時に起きたことだけど……。」


 そう言って、美奈子は語り始めたがはっきり言って色々ごちゃごちゃしているのでまとめるとこういうことらしい。


 一つ、僕が教室を出た直後、入れ違いに緋想さんが来た。

 二つ、緋想さんは僕の姿がないことを確認してから理恵に詰め寄った。

 三つ、緋想さんは理恵に『お前と石倉の関係はどうなのだ?』と聞いた。

 四つ、理恵はそのまっ平らな胸を張って『もちろん、良好よ。』と答えた。

 五つ、しかし、緋想さんは僕と賀陽先輩が相談をしていることを目撃していた。

 六つ、それについてもう一度問いただしたら理恵は泣いてしまい何も答えられなかった。


 そしてそれを心配に思った美奈子が僕の方へ来た。緋想さんは何をしに来たのか分からないまま教室を後にした。


 色々、矛盾点というかあり得ない点が起きすぎている。


 まず一つ、なぜ、緋想さんは僕の姿がないことを確認した?別に僕はいたところで変わりはないはず。二つ、なぜ、今更関係を聞く?こういっちゃなんだが、僕と理恵の関係は学校内で噂になるほどだ。それを分かっていれば聞く必要などないはず。三つ、なぜ、緋想さんは僕と賀陽先輩が話しているのを目撃している?僕はなるべく人目につかない。それも美奈子に出会うまでは誰も遭遇しなかったし、あの場には先輩以外いなかったはず。まぁ、どこかで見られたと考えるのが容易である。四つ、なぜ、問いただしただけで理恵が泣いた?別に問いただされただけだと反応に困るのは分かることだが、別に泣くほどのものではない。ただ、少し感情をあらわにするのは理解できると思うけどね。五つ、結果的に緋想さんは何をしに僕たちの教室まで来た?同じクラスだからという理由もあるが、朝のホームルームではいなかった。遅刻してきたという割には特別、先生に呼ばれているわけでもなかった。ただ、関係を邪魔しに来たということを仮定として踏まえるなら謎がもう一つ存在する。六つ、なぜ、緋想さんは関係を邪魔にわざわざ来た?これは二つ目と被ることになるのだが、僕たちの関係は理恵にラブレターを渡した人はもちろん、学校内でひそひそ話をされるほどには注目されている。だから、緋想さんも知らないとはいえ、耳には入っているはず。なぜ、それも今になって?七つ、以上を踏まえるとまあ、なんと言うことでしょうか、この状況を作り出した犯人が分かってしまうではないか。いや、分かっていたけども。


 さて、こうやって文章にするとかなり面倒なことになっている。

 まぁ、現在進行形で?起こりうる最低の出来事が起きているわけだし?周りの女子たちは何とかしてくれ。と軽蔑と期待が入り混じったまなざしを見つめているし?ああ、メンドクサイ。


「それで、泣いている理恵は現在進行形……と。」

「まあ、そんなところだね。それでどうするのさ、この状況を。」


 そうだな……経験者ならこんなのは簡単に解決できるのだろうが、僕は今までこんなことに遭遇する機会なんてなかったから正直なところどうしたらいいのか分からない。僕の方が泣いてしまいたいくらいだ、恥ずかしさというもので。


「しょうがない、理恵。立てるか?」

「えぅ……えぅ……。」


 だが、それでも泣きじゃくるだけでうまく、返答がない。僕は半ば強引に理恵の手を掴み、起き上がらせた。


「美奈子、僕たちは掃除には出られないと思う。明日代わりにやっておくから今日は見逃してくれ。」

「分かった。」


 多分、こうなってしまった理恵は原因となっている僕以外の人には救うことができない。相談にも乗れない。なら、手っ取り早く、原因の奴が相談に乗ればいい。

 だが、僕のこの行動はミスであった。相手が普通の友達、それも男子なら話ができるのだろう。今、この場で泣きじゃくっているのは誰だ?理恵だ。普通の対応では不可能だろう。ということを理解できていなかった。そして、僕の描いていた理想は世の中ではそう簡単にうまくはいかない。


 パチン!!


 えっ………………????????


 キッとした目をした理恵が僕の頬をはたいた。その衝撃に一瞬、何が起こったのか理解できていなかった。

 ウソ……。なぜ?


「晴馬のバカ!!晴馬なんてもう知らない!どっかに行っちゃえ!!」


 そう言った理恵は僕の手を振りほどき、教室を飛び出してしまった。


「理恵!ちっ、くそっ……。」


 飛び出した理恵の容姿がかつての遥と似ていたせいだろうか……僕は気が付いたら理恵の後を追いかけていた。そして、自分が封印したはずの心のカギは外れかかっていた。


 どこで間違えた?お前は分かっているだろう?感情にすべてを任せるのか?

 いいや、違う。

 なら、お前はなぜ走っている?

 決まっているだろう?理恵を救うためだ。

 お前がいって何になる?あいつを救うことができる。

 その方法は?根拠は?理論が叶っていないのに行く必要なんてあるのか?

 ああ、もう。うるさい!僕に質問するな。

 お前らしくない。

 いいから、黙っていろ!


 くそっ……くそっ……何で、なんでこうなるんだよ!僕はただ……ただ……ああもう!くっそぉ!!


 無我夢中で僕は理恵の後を追いかけた。


 それから三分の時間が過ぎた。僕にとっては死ぬほど長い時間だったように感じる。


「はぁはぁ……あいつ。どれだけ早いんだよ。学校とはいえ人混みがある中でよくあれだけ走り切れるな。」


 僕は走っていた、人混みなんか気にしない状態でただ、一心に走り続けていた。今なら、太宰治の『走れメロス』のメロスの気持ちが分かるような気がする。そのくらい、走っていたのだ。


「どけどけー!」


 今の僕を邪魔する奴は誰であっても許しはしない。後に聞いた話によると人がするような形相ではなかったらしいけど、正直そんなことはどうでもよかった。


「はぁはぁはぁ…くそっ、どこに行った。」


 お前なら、出来るだろう?

 ああそうだ。僕なら理恵を見つけることができる。理恵が一番悲しいときに向かう場所、それくらい僕にだって見つけることできるさ。

 その根拠は?

 簡単な質問だな。僕が理恵を好きだからに決まっているじゃないか。

 どうしてそう思う?お前は成り行きで付き合ったからだろう?

 そんなことはどうでも良い。大事なのは今、僕が理恵を好きかどうかだ。

 なるほど、それがお前の答えか。なら、出来るだろうな。

 ああ。


 途中で理恵を見失いそうになったときもあった。それでも僕は人に聞くことはしなかった。それをすれば、もっと早く見つけることができただろうか。いや、それは不可能だろう。聞いたところで僕の糧になるような答えは出てこない。というよりも、見つけることは簡単だろう。人が悲しんでいるとき、一番初めに行くべきところが決まっているからだ。でも、どうやって話しかけたらよいのだろうか。そこが分からずに僕はまた自分に問いかける。


 迷っている場合か?

 ……どうだろうな。

 また、あきらめるのか?

 いいや、それだけは絶対にしない。

 なら、お前が怖がっているだけだ。

 何だと?僕が…怖がっている?

 ああ、そうだとも。お前は怖がっている。正確に言えば、お前自身の心のなかさ。

 どういうこと?

 さあな、今のお前にはわかるはずがないことだ。


 そんな無駄話をしていると、屋上へとたどり着いた。

 はぁ……いた!よかった、僕の勘は正しかったようだ。


 時間にして、十分間の事だったが、僕にとっては一時間のように感じた。


「理恵!はぁはぁ……ようやく、見つけた。何やっているんだよ……。」


 屋上のその一角、人混みの少ない場所でうずくまって顔を見せたくない理恵は最初、僕が来たことすら気づいていなかった。


「理恵、大丈夫か?」


 さんざん悩んだ最初の言葉を僕はこう切り出すことにした。そして、僕が声をかけるまではうずくまっていた。


「は……るま。どうしてここが?」

「バカやろ!何やっているんだ。お前は!」


 理恵からの質問の返答をする前に僕は叱った。僕自身あんまり叱ることはないことで有名な僕だが今回ばかりはどうにも腹の怒りが収まらない状態だった。


「だって……緋想さんが私に嫌なことを言ってきたんだもん。」

「一体、何を言われた?」

「晴馬が私の彼氏にふさわしくないって。」

「は?」


 ????


「だからぁ、晴馬が私のこと嫌いって言っていたってことよ。」


 ???????????ちょっと待て、本気で理解できない。


「一体、いつ、そんなことを言われたんだよ。」

「昼間よ、晴馬が出て行ってすぐのこと。」


 つまり、美奈子が嘘をついているわけではない。と。


「それで、緋想さんが『さっき、晴馬がお前のこと嫌いって言っていたぞ。どういうことなんだ?』って。」

「待て、色々誤解がある。僕はお前のこと嫌いって本気で思って言っているのか?」

「だから、分かんないじゃない!私も心の中でぐちゃぐちゃになっているのよ。」

「……緋想さんがどういうつもりでこういうことをやったのかは知らないけど、僕は理恵のこと好きだし、嫌いになる理由がない。」


 ここまで言って、ようやく理恵は緋想さんの言っているウソに気付いた。そして、自分の行動がこの瞬間、全くもって意味がないことを知った。


「はぁ……何よ。またなの?」

「また?」

「また、私の勘違いで人を傷つけるの?」

「……理恵。」

「晴馬が悪いと思っていたのは謝るわ。ごめんなさい。だけど、しばらく話しかけないで頂戴。今は……今だけは、一人になりたいの。」


 僕は何も言えなかった、理恵の言っている私の勘違いで人を傷つけるという点はおそらく、僕以外の誰かだろう。そこについては僕が聞くべきところではないのは暗黙の了解で分かる。だから、僕は聞くことはしなかった。もちろん、聞きたかったさ。でも、聞いてはいけない雰囲気を理恵から感じたからだ。


「分かった。好きなだけそこにいろ。」


 その言葉で理恵はハッとしてこちらを向いたが、その時には僕はすでに屋上から去っていた。


「晴馬……どうしたらいいの?あんたならこういうことは得意じゃなかったの?天才って呼ばれたあんたはどこいったの?なんで人の気持ちに気付いて大切な人の気持ちに気付いてくれないのよ……鈍感!バカ!!分からずや!!!」


 その叫びは誰もいなくなった屋上へと響いた。

後編なのに…あれぇ…?

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