ある下水清掃員の退屈な日常
誤字、脱字、意味不明な文が内容に気を付け、投稿前にも数回確認していますが、発見した方はバンバン指摘してください。よろしくお願いします。
僕はボウ、物心ついた時から都市ビーシルの下水掃除員をやっている。両親はいないけど、上司のジョージさんがよくしてくれている。
集合住宅の一室で目を覚ました僕の一日は、野菜のごった煮スープ(前日に食べたものだ)の残りに穀物粉の団子を加えて温めたものを食べることから始まる。
穀物粉というのはいろいろな穀物をブレンドしてひいた粉で、市場で売られている穀物粉は商人ごとにいろいろなブレンドがあり、微妙に味が違う。ここ最近のお気に入りはグレンさんの穀物粉だ。
食事が終わると家から職場の水道局へ向かう。といっても、僕の住む集合住宅は水道局の隣だ。
水道局に入ると、いつも早く来ている受付のアリーお姉さんに元気な挨拶をして受付の脇にあるオフィスの扉へ向かう。
「おはようございます、アリーさん」
「おはよう、ボウくん」
オフィスに入る。ここで下水道の鍵と掃除セットを受け取ることから仕事は始まる。いつものとおり先にきていたジョージさんに挨拶と仕事の確認をする。
「おはようございます、ジョージさん! 今日は第七区画の掃除でよいですか?」
「ああ、よろしく頼むよ、ボウ」
「はい、頑張ります!」
第七区画用の鍵束を最初にとると、隙間が作られていて風通しの良いロッカーへ向かう。このロッカーにはランタン・バケツ・床用ブラシ・配管用ブラシ・長靴の掃除セットが入っている。七番ロッカーのカギを開けて掃除セットを持って地下への階段にいく。
階段の前で長靴に履き替える。脱いだ靴は七番の靴棚に入れておく。そして下水道を明るくするランタンに火をともすまでが準備だ。
準備が終わるとジョージさんに挨拶をして掃除へと向かう。
「じゃあジョージさん、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
地下に降りると、十二の分かれ道がある。僕は|入り口に七と書かれている長い通路≪ななばんつうろ》を歩いて第七区画への扉に向かう。
「うん、鍵はきちんとかかっている」
扉の施錠を確認するときに独りごとを言っているのは、声に出すことで確認を忘れないというルールだ。鍵束の中から扉の鍵を取り出し、鍵を開ける。
「うん、鍵も変わっていない」
扉を開けて入ったらそこは第七区画だ。この場所は、扉を角にした横方向の一本道になっていて壁はレンガ造り。正面の壁にはたくさんの溝と管があり、下を見れば正面の壁に沿った側溝がある。
側溝の幅はデッキブラシと同じくらいで、普通の床になっている部分はその倍くらいの幅。
横に目を向けて下水道の奥まで見ていくと床の終わりで川につながっている。
この川は上下流の村や街でも排水先になっているため、「下水運河」と呼ばれている。
うすぐぐらい明かりで見るいつも通りの風景を見ながら、第七区画の扉を閉める。
「扉は閉じた、さあ掃除を始めるぞ」
最初は浄水管の水をバケツにためる。浄水管は川からそのまま流れてきたきれいな水を運ぶ管で、各区画の入り口近くに一つ、そこから大体一定の間隔をあけて次の管という風に何本も配置されている。もちろん最初は一番近い入り口の管の水を入れていく。
バケツに水がたまると、バケツで床ブラシを水洗いしてで少しずつ掃除していく。一歩分を磨き終わるたびにブラシを水洗いして進んでいく。しばらくすると壁の溝部分に汚水の流れる下水管があるので配管用ブラシで掃除する。
下水管は半円筒の形になっていて、上から掃除できるので汚水をかぶってしまうことはあまりない(細かいことを言うと、半円筒になっていない部分は水道局ではなくそれぞれの家の責任で掃除することになっている)。
「一件目の配管掃除完了」
ここまでが床と下水管を掃除する基本的な手順だ。バケツの水が汚れたと思ったら排水溝に水を捨てて浄水管から汲みなおすけど、それ以外は同じことの繰り返しだ。
床と下水管を最後まで磨き終わると、一度バケツと長靴とブラシを洗う。
「床掃除完了、次は側溝の掃除を開始」
続いて側溝の掃除になる。
これは側溝をデッキブラシで軽く掃いて、何かこびりついているものがあればそれが流れるよう払い落とす。汚水が撥ねると逆に汚れてしまうので、不必要に力を入れ過ぎないのがコツだ。
床の終点、側溝につながっている川にたどり着くと、側溝の掃除のおわり。もう一度バケツと長靴とブラシを洗う。
「側溝掃除完了、仕上げ開始」
最後に軽くブラシをかけながら掃除セットをもって扉まで戻ると仕上げまで完了だ。扉を開けて第七区画を出ると、入った時と逆手順で閉扉、施錠、施錠確認を行う。
「閉扉確認よし」
「鍵確認よし」
「施錠確認よし」
長い通路を通ってオフィスに帰る。靴を自分のものに履き替え、掃除道具をロッカーにしまう。ロッカーの施錠を最後にして今日の僕の仕事は終わりだ。
「第七区画の清掃終わりました。他にすることはありませんか」
「ああ、大丈夫。お疲れさま、ボウ」
いつも僕より先に来ていて僕より遅く帰っているジョージさんは大変だと思うので何か手伝いたいけれど、いつも手伝う必要はないといわれてしまう。
「わかりました。お先に失礼します」
今日の仕事が終わると、夕食まであまり遠くない時間になっている。なので買い物のために町の中心近くにある市場へと向かう。
今の時間だとほとんど売れ残った保存食料しか残っていないので、慌てることもなくのんびりとビーシルの街を歩く。
人通りに対してやや広めの道。まっすぐ先に市場が見えているが、横の街並みを見ると、石造りの複数の家がくっつき長い壁を作っている。
窓から漏れ聞こえる子供の元気な声の騒がしさは、僕の心を不思議と和ませてくれる。
しばらく歩くと最初は小さく見えていた市場がだんだん大きく見えてきて、いつの間にか市場にたどり着く。
この時間まで残っている店は少ないからか大半はすでに見知った顔。いろいろな店を回った結果、煮詰めトマト、干しジャガイモ、チリパウダーを買うことにした。
「トーマさん、煮詰めアカナスをお願いします」
「ジャガさん、干し芋をお願いします」
「チリさん、チリパウダーをお願いします」
市場を出ようとしたところで羊飼いのカタリナさんに声をかけられた。
「ボウ君、今日はオットーさんがパンを作りすぎちゃったみたいよ。昼にニコラスさんが両手いっぱいにパンを抱えていたから聞いてみたんだけど」
買うつもりがなかったけど、情報を教えてもらったお礼に羊の干し肉と毛糸玉を買ってしまう。
「カタリナさん、ありがとうございます」
カタリナさん情報を頼りにオットーさんのパン屋に行くと、確かにたくさんパンがあった。
「オットーさん、パンを買いに来ました」
「ありがとう、ボウ君。今日は作りすぎちゃったから半額でいいよ」
「ありがとうございます。じゃあ2つお願いします」
「うーん、なら僕がスパイスと脱脂粉乳と小麦粉を混ぜて練ったオリジナルソースをあげよう。これは煮立った鍋に混ぜるとおいしいよ」
「ありがとうございます」
パン屋を出ると夕暮れが近くなっていた。夕食の準備のために家に帰った。
「ただいま」
誰もいない家に挨拶をして自宅に入る。今日の夕食は、買ってきた干し芋と残っている材料から適当に干しニンジン、干しタマネギ、羊肉を鍋で着込み、最後にオットーさんの固形ソースをまぜたごった煮鍋とパンに決めた。
ごった煮鍋は基本的に毎日材料が変わる具をいっぺんに煮るんだけど、今日はオットーさんのソースを使うので少し作り方を変えてみた。
鍋の具を粛々と煮込んだり、食事したりの間で薄暗くなってくるから暗くなる前に明かりをつける。
明かりを長時間つけるのはよくないから、今日は終わり。
食器の片付けなど必要なことだけをしてから、明かりを消してベッドに入る。
おやすみなさい。明日もいい日だといいなあ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この話は実は構想中の連載小説の前日譚(予定)ですが、これを連載の最初に持ってくるとブラウザバックされそうな気がして短編にしまっちゃいました。なので、連載版の設定次第では加筆修正などを行うかもしれません。
ストーリーは単純だけど魅力的な異世界っぽい雰囲気を出したいというテーマをもって書き上げましたが、うまく表現できていたでしょうか。
ご意見、ご感想、アドバイスなどあれば大歓迎、ご気軽に感想に記入ください。