{第五話}それは、人間でいう所の心臓だ。
「悪いな、こいつらをやらせるワケにはいかないんだ。」
そこに現れたのは
救世主、サルバドール──否、進であった。
「す、進君?何でここに・・・。」
だが、俺はまりちゃんの声を無視すると、こちらに迫りくるゴブリンと対峙した。
「ウガァァァ!!」
と言いながら、ゴブリンが持っている棍棒を俺に振り下ろす。
「進君!」
と、まりちゃんが俺を心配したような、そんな声を出す。
ズドォォォン
と、棍棒を振った時のあまりの強さで地面に少し、めり込んでいる。だが、そこに俺はいない。
「グガァ?」
ゴブリンがそう言いながら、辺りを見回す。
「フン、遅えんだよ。」
俺は、ゴブリンの頭の上でそう言う。そう、俺は一瞬のうちに、10mぐらいあるゴブリンの、頭上に移動していた。
「じゃあな。」
そう言うと、俺は体をフワッと浮かせ、滑るようにゴブリンの頭から離れる。そうすると、俺の体は重力に従い、地面に落下していく。そして、俺がスタッと、地面に軽く着地した。ステータスのおかげで、痛みは全然無い。すると、ゴブリンがドサッと、地面に倒れた。そう、俺は地面に落下するときに、青龍偃月刀で、何回もゴブリンを斬っていたのだ。
「進!」
と、俺に遅れてこちらにやってきた、凛が俺を呼ぶ。そして、凛が俺の乗っていた馬を引きながら、俺の近くで馬を止めた。
「進、私たちはどうすれば良い?」
と、凛が俺に聞く。
「凛は、万が一の為に、この穴に落ちている奴らを助け出していてくれ。それで、万が一俺が取り逃がしたゴブリンが来た場合、そのゴブリンを倒してくれ。」
「わかった。・・・・・・それで、進はどうするの?」
凛の不安げな問いに俺は、ゴブリンを見ながら答える。
「俺は、あいつらを殲滅してくる。」
そう言うと、生えている木に、飛び移った。
「えーと・・・。」
と、ゴブリンを操っている者を探す。
「あれか。」
俺は見つけた。魔女だ。
「うし、行くか。」
俺はそう言うと、忍者のように木々の枝に飛び移りながら、大量のゴブリンに迫った。
「ええい、あんた達!やっておしまい!!」
そう言いながら、魔女が持っている杖で、俺を指し示してくる。
「グォォォォォォ!!!」
と言いながら、大量のゴブリンが俺に迫ってくる。俺は、青龍偃月刀を構え、その群れに突進していった。まず、1体目を一突きで倒す。数少ない戦闘からでも俺は、ゴブリンの弱点を正確に押さえていた。それは、人間でいう所の心臓だ。
「次!」
と言い、次々と、ゴブリンを倒していく。
「あなたで最後ね。」
凛はそう言いながら、穴の中にいた女生徒を引っ張り上げる。
「ふぅ、これで何とか終わったわね。」
凛はそう、独り言を言った。そして、進の戦っているのを遠くから見る。まるで、鬼神のようであった。
「すごい。」
と、他の女生徒が漏らした。あまりの進のすさまじさに、日頃の事も忘れて、言葉が漏れたようだ。その時、衝撃的な言葉が聞こえる。
「別に、進にできるなら俺達にもできるんじゃね?」
凛が見ると、真崎であった。
「真崎君、それってどういうこと?」
「え?、イヤ、だからよ。どうせあんなの調子に乗って、適当にやってるだけだろ?」
「それに、話は変わるけどさ。お前だって、本当は嫌なんだろ?あんなヤツ。」
「・・・!」
あまりの事に、凛は絶句する。助けてもらったのに、それに対して感謝せずに、さらには、俺達にもできる?そして、真崎の次の一言が、凛を完全に怒らせる。
「お前、いつも進に話しかけてるけどさ。それって本当は、あいつが幼馴染だから、仕方なくって事だろ?」
その一言で、凛の理性が完全に吹っ切れた。凛は、手を振り上げると、全力で真崎に平手打ちをかます──。
──事はできなかった。誰かが、凛の腕を強くつかんでいたからだ。凛が見ると、まりちゃんであった。
「・・・・・・。」
まりちゃんは、ただ黙って凛を見つめたが、それだけで意図は凛に伝わったようだ。凛は、ゆっくりと手を下した。
そして、まりちゃんが真崎を見る。まりちゃんに見られて、やっと自分の失言に気が付いたのか気まずそうに眼を反らす真崎に、凛が追い打ちをかける。
「助けてもらったのに、感謝の気持ちが無いなんて・・・サイテー。」
凛はそう言うと、
「行ってきます、まりちゃん。あんなヤツ守ってるぐらいだったら、進を手伝ったほうがマシだと思います。」
「・・・・・・わかりました。」
まりちゃんの答えに満足したのか、凛は進の元へと向かった。
「進!」
と、凛が進を呼ぶ。
「ん?って、凛!どうしたんだ?」
と、何故こちらに来たのか疑問に思ったので、俺が聞くと、
「ん、イヤ別に。」
と、凛が答えた。何故俺の元へ来たのかは・・・・・・まぁ良いだろう。
「蹴散らすぞ!!」
俺がそう言うと、
「うん。」
と、凛が答えた。・・・全く、頼もしい限りだぜ。
もう、何匹のゴブリンを倒しただろうか。残りのゴブリンを見ると、あと2体であった。その時、胸騒ぎがした俺は、他のクラスメートたちの方を見てみた。すると、そこに行こうとしている、魔女の姿があった。
「何!?クソッ!」
俺はそう言うと、すぐさまそちらに向かった。
「え、ど、どうしたの!」
と、叫ぶ凛に、
「お前たちはゴブリンを頼む!」
と、振り返ることなく答える。やばい!あいつらが危険だ!間に合え!!
「ヒッヒッヒッヒ。」
生徒らの前で、魔女がそう言った。
「何をしようとしているかはわかりませんが、生徒たちは私が守ります!!」
先生は気力を振り絞り、何とか生徒たちの前に体を動かし、魔女の前に立ちはだかる。
「せ、先生。」
と、生徒が座りながら、立っている先生を不安そうに見上げる。
「なら、あんたから死にな!」
そう言うと、魔女は先生に向かって、手をかざす。エネルギーをチャージしているのだろうか。手が、段々とまぶしくなっていく。うぅ、誰か、助けて。と先生が、心の中で漏らす。先生が次に、助けてほしい人の名前を言うが、これは、神ではなかった。今、この場で一番頼りになる人間、
助けて!!進君!!
進であった。先生がそう祈る刹那、
「死になっ!!」
魔女は無情にも、ためたエネルギーを発射した。先生は迫りくる痛みに備え、目を閉じる。そして、数秒した後、先生が目を開けると、そこは死後の世界ではなかった。
「あ、れ?私、死んでない?」
そして、前を見る。そこに、いた。進が。
「あ、危ねえー!」
俺は、ギリギリのところ、間一髪で助けることができた。あと一秒でも遅れていたら、全員は救えなかっただろう。俺は、そうなるかもしれなかった未来にゾッとしながらも、意識を魔女に向ける。そして、青龍偃月刀を構え、魔女に向けた。
「ヒィッ!!」
と、魔女らしからぬ悲鳴を、この魔女が上げる。
「死ね。」
そう言うと俺は、魔女を青龍偃月刀で、一刀両断にした。
「大丈夫?進。」
と、凛が俺に話しかけてくる。こっちに来ると言うことは、どうやら、向こうのゴブリンは倒したみたいだ。見ると、凛にけがはない。凛がけがをしなくて良かったと、俺は心の底から思った。が、このままでは終われない。
「ダメだろ、凛。しっかり守ってなくちゃ。」
「・・・・・・ごめんなさい。」
俺が凛に注意すると、凛は素直に謝った。凛の悪いところは、俺の事になると夢中になってしまう所だ。
「でも・・・・・・。」
と、凛が俺に反論した。
「ゴブリンを倒した。・・・・・・いつもの。」
「えー・・・・・・、あれをやるのか?」
俺は、不満げに凛に聞いたが、
「うん。」
そう言って凛は、俺に頭を突き出すだけであった。・・・・・・全く。俺はそう思いながらも、渋々凛の頭を撫でてやる。すると、
「んっ。」
と凛は嬉しそうに声を出した。この光景を見て男子たちが俺を睨んでいるのは、・・・・・・、見なかったことにしよう。
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