{第三話}こんなの・・・チートと一緒じゃねえか。
「なら、単刀直入に言います。私たち、実は異世界転移してこちらの世界に来てしまったんです!!」
先生が、胸を張ってそう言った。
「・・・ホントじゃな?」
「えぇ、本当です!」
今、生徒たちはまたもや同じことを思っていた。あれ?このおじいさん、なんだかあっさりと信じてくれたぞ。
「なら、こっちに来てくれるかの?」
「・・・わかりました。」
そう言って、先生が付いていこうとする。
「おい、まりちゃん。良いのか?信用できるのか?」
と、真崎がおじいさんに聞こえないように言う。
「だって、悪い人には見えないし、それに、この人についていけばこの森から抜けられるでしょ?」
「・・・。」
そして、真崎は少し考える素振りを見せたが、
「・・・わかった。」
そう言って、渋々ついてきた。真崎が先生についていったのを皮切りに、他の生徒もぞろぞろとついていった。とにかく、彼らは誰かに頼りたい。恐らく、そんな気分なのだろう。
「そして、ワシが今からするのは提案じゃ。」
俺たちに、イラシュールがそう言った。俺は、一応確認をする。
「提案と言うことは、・・・俺たちは断ってもいいんだな?」
「そうじゃ。」
「そうか、ならば聞こう。」
俺はそう言って、イラシュールに続きを促した。
「ワシらは今、魔族の強大な力によって、恐怖におびえる生活をしている。」
「ここも平和に見えるが、いつ魔族の者が攻めてくるかわからないし、ここがいつ戦いの最前線になるかわからない、そんな状況じゃ。」
「だが、わしらには1つの希望がある。まずは、このギザリア文書を見てくれ。」
そう言って、イラシュールはボロボロの巻物を取り出した。
「これは?」
俺が聞くと、イラシュールが説明してくれた。どうやら、ギザリア、と言う昔は人間の領土だったが、今は魔族に支配されてしまっているところから、出土したものらしい。そして、これには予言が書かれていて、これまで、数々の災害を予言し、何度も人間はここに書かれた予言によって助けられてきたらしい。
「だが、これに魔族の出現は書かれていなかった。」
残念そうにイラシュールが、そう言った。
「そして、予知していなかった魔族に、今こうしておびえている、と・・・。」
俺がそういうと、後ろに控えているスパイルが気まずそうに、それまでこちらを見ていた目を、少しずらした。守れなかったことに、責任を感じているのだろうか。
「だが、これにはあと1つだけ、予言が書かれていた。」
「それは、救世主、サルバドールの出現じゃ。」
「この予言では、わかりやすく言うと、ある日異民族の30人が現れるが、真の救世主は空より舞い降りる。そして、この世を浄化し、悩みし民を救うだろう、と書いてあったのじゃ。」
「・・・。」
俺は黙り、ただ考えていた。その予言が正しければ、真の救世主は俺と凛の事になる。何故なら、空からこの世界に落ちたのは俺と凛だけだからだ。それは何故かというと、真の救世主が全員ではないのなら、空から落ちたのは俺と凛だけになるからだ。それに、俺たちが先生も含めて、クラス全員で異世界に来たのならば、それは俺も含めて30人だ。俺たちのクラスは生徒で29人で、担任が1人だからな。
「済まぬが、おぬしらのステータスを見せてもらってもよいかの?」
「ステータス?」
俺の頭の上には、クエスチョンマークが浮かんでいた。ゲームなどでよくある、あのステータスのことだろうか。
「あぁ、そうじゃ。ステータスは自分で言うと出てくるんじゃ。」
「わかった。ステータスオープン。」
俺がそう言うと、ステータス画面が俺の前に表れた。
「スマンが、わしらにも見せてくれるかの?」
「わかった。」
俺は答えると、ステータス画面の表示の仕方を設定から変え、全員に見えるようにした。
「どれどれ・・・。」
そう言って、イラシュールがのぞき込む。
「な、こ、これはっ!?」
「え!?進、嘘でしょ!?」
イラシュール、凛の順でそう言われた。ん?何か、ステータスがずば抜けていたりしたのだろうか。そして、俺も見てみた、すると、俺のステータスはとんでもないことになっていた。
「えーっと、どれどれ?」
俺がそう言いながら見ると、全てのステータスが計測不能を表していた。
「な、何とっ!!」
これには俺も驚いた。だって、こんなの・・・チートと一緒じゃねえか。よく、こういう展開はラノベでよく読んだことがあるが、まさか、あの事態が自分に降りかかるとは。
「これは、これなら、魔王を・・・。」
イラシュールがそうつぶやいた。だが、俺はそれに反論した。
「イラシュール、お前まさか、俺たちに戦わせようとしているのか?」
「あぁ、そうじゃが・・・。何じゃ、不服なのか?」
「不服も何も、俺たちは訳も分からずにこんなところに来たんだ。それに・・・。」
そう、言葉をつづけようとした俺に、凛が割り込む。
「何よ、良いじゃない。この世界を助けるぐらい。それとも何?これも面倒くさいって言って逃げるの?」
「イヤ、俺はだな。凛の事を思ってだな・・・。」
そう、俺は反論した。だが、これは俺の本音だ。こいつらには、たとえ相手が人間じゃなくて魔族でも、凛に戦いに身を投じて欲しくない。だが、そんな俺の考えは、凛の一言で打ち消される。
「あら、私はもう、覚悟はできてるわ。それに、私たちは進が行かないと言っても行くつもりよ。そして、進には劣っちゃうけど、ここの異世界の人と比べたら、私たちも十分ステータスは高いらしいし。」
俺は、大きく目を見開いた。・・・・・・そうか、凛にはもう、覚悟ができてるのか。
「で?進。行くの?行かないの?」
凛が聞いてくる。フッ。俺は、軽く笑みを漏らした。お前が行くのに、俺が、お前を置いて平和なところにいるなどありえない。そうだ、この俺が、
「行かないわけ・・・ないだろ。」
「そうか、では・・・。」
イラシュールが念を押すようにして、聞いてくる。俺はそれに答えた。
「えぇ、行きます。期待して、待っててください。」
「そうか。ではあなたたちに渡したいものがあります。付いて来てください。」
「わかりました。」
そして、俺達はイラシュールについていった。
「ここですじゃ。」
連れてこられたのは、鍛冶屋であった。
「ここで、あなた方の武器を作ります。お好きなだけご注文くだされ。」
「わかりました。」
そういうと、俺たちは自分に合う武器を考え、考え抜いた武器を注文した。
15分ぐらい待っただろうか。
「できましたじゃ。」
そう言って、イラシュールが俺たちのいる部屋の中に入ってきた。ふぅん、意外と作るのは早いんだな。そう思いながら、俺は立ち上がる。
「ありがとうございます。」
俺はそう言い、深く頭を下げる。こういう礼儀は大事だ。
「いえいえ。」
イラシュールはそう言うと、
「こちらです。」
と言い、武器を持ってこさせた。
「まず、凛さん。」
「はい。」
凛が元気に返事をした。
「こちらが、注文された2本のレイピアです。どうですか。」
「・・・素晴らしい出来です。」
俺から見ても、このレイピアはかなり素晴らしい出来だった。それに、良く斬れそうな感じがする。頼もしい武器だ。そして、凛はレイピアを専用の鞘に納め、腰に差した。
「そして、進。」
「おう。」
俺も元気に答えた。
「これらが、注文された品です。どうじゃ。」
「良いぜ、良すぎて逆に怖くなるぐらいだ。」
「それはそれは。」
と、イラシュールが喜んでいる。俺が注文したのは、三国志で出てくる、青龍偃月刀と、2本の黒い剣だ。そして俺は、青龍偃月刀を背中に、2本の剣を腰に差した。通常ならば、青龍偃月刀は重すぎて振るうことができないが、俺ならば簡単に使うことができる。これも、俺のステータスだからこそ成せる技だ。