未完成のメロディー
「あっ、真山先生。また女子に絡まれてるよ」
休み時間の教室、中庭が見下ろせる窓際が、現在の私の席だ。
「やっぱ、顔よし、身長高いし、あの物腰の柔らかさ、こりゃ、大人の男に憧れる女子高生が群がるのは、自然の摂理よ。ね、花菜子」
その私の前の席に腰掛け、よくわからない持論を語り、親友の葉月は同意を求める。
机に頬杖をつき、中庭の様子に視線だけ向けた。
端整な顔立ちに好青年の雰囲気をまとう男性の姿は、大人と子どもの真ん中にいる高校生から見れば、かっこよく見えるかも。
お近づきになりたいかといえば、私は遠慮したい。
憧れは遠くから眺めるからこそ、想像が広がり、楽しい気持ちになるのだ。
生身の人間として見ることが出来ないってのが、正直なとこあるし。
もし、いたずらに触れてしまえば、訳のわかんない痛みにのたうちまわりそう。
そんな気がすると言っても、恋愛経験のない私が感傷に浸ってもしかたないしね。
「でもさぁ、真山先生って、なんか、人当たり良いけど、みんなに平等だよね。そこらへん、シビアなクールマン? 公私分けてますって感じ?!」
とりとめのない考察を楽しそうに述べていく葉月の話を聞くのは、キライじゃない。
むしろ、こんな見方があるんだぁって、自分と違う価値観に触れて、発見や共鳴に心沸き立つ時がある。
こうやって、自分以外の人に興味を持って、知り合って繋がっていくのかなぁ。
ふと窓の外へ視線を向ける。
そこには、女子に囲まれ、柔らかい笑みを浮かべ話す、真山先生の姿があった。