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超短編シリーズ   作者: ネームレス・サマー
2章 800字以内で完結……?
12/12

向日葵の恋

一枚の写真を手に取る。

高校生の時、修学旅行で撮った集合写真。

自分の好きな子や親友が写っている。


「ふう……」


眼鏡を外し、目を擦る。

不便だ。


眼鏡を付け、また写真を見る。


向日葵さん。

自分が好きだった人の名前。

彼女はとても明るく、元気な人だった。

幼少時の感覚を持ったまま、成長したような人だ。

彼女の明るさは、周囲に元気を与え、皆を笑顔にさせた。

そんな彼女を好きな人は、多かった。

私もその一人だ。


太陽が降り注ぐ中、彼女に告白をした。

話したこともないのに。

今思うと我ながら馬鹿なことをしたと思う。


だが、結果はまさかの了承だった。

今だに了承してくれた理由はわからない。

親友が言うには、私の書いた絵が好きだったらしい。


私の書いた絵は、お世辞にも上手いとは言えない。

何より、とても暗い絵だった。根暗の書いた絵そのものだ。

彼女のような子が好むとは思えない。


結局、了承してくれた理由はわからないまま、交際は始まった。

おどおどしい、私。元気な彼女。

周りはすぐ別れると考えていた。私もそうだと思っていた。

泡末のような時間だと。


意外なことに私達の関係は、高校を卒業するまで続いた。


一度彼女に尋ねてみた。私のどこが好きなのかと。

女々しい私の言葉に、彼女はそっと呟いた。

あなたが一生気づけないところだよ、と。


高校を卒業した後の進路は違った。

彼女は東京の大学へ、頭のよくない私は地元の工場へ就職した。

この時点をもって、私達の関係はぷつりと切れた。互いに連絡を取り合うことはしなかった。

それでいいと思った。私と彼女では釣り合わない。彼女もそう思ったのだろう。



そこから、十年後。私が二十八の時か。

一度だけ彼女と会った。正確に言えば見たと言うべきか。

私が仕事の都合で東京に行ったとき、彼女を見た。

一人の賢そうな男と、小さな女の子、その二人と手を繋ぐ彼女。

街の中を楽しそうに歩いてた。


声は掛けられなかった。

結婚していて然るべき年だとは思っていた。理解していた。

それでも衝撃を受けた。そして気付いた、私はまだ彼女が好きだっことに。


私は、街を踊るように歩く彼女を長いあいだ見た。

荒れ狂う街と咲き乱れる向日葵の花、私の頭の中は、非現実的な映像で支配される。


私の視線に気付いたのか、小さな女の子が私を指差した。

彼女は、私を見た。

最初は気付かなかったのだろう。小さな女の子の指を下げたあと、私に頭を下げた。

私は走り出して、逃げ出したかった。惨めな存在であることを認めたくなかった。


私は工場一筋で働き続け、休みの日には親友と酒を喰らう。

女気はなかったが、それなりに満足していた。

だが、彼女を見た瞬間、そんな満足はかりそめだったことを教えられた。


彼女の今までの生活が頭の中を流れる。

こんなのは妄想だ。わかっている、けどそうとは思えない。

今の彼女を見ると……


何より彼女が結婚し、子供を作っていることが私を惨めにする。

彼女の中では、私との恋愛を“いい思い出だった”としてるのだろう。

私は、私は、まだ終わっていなかった。進行形だった。それに今気付いた。


彼女が頭を上げ、私の顔を見た。

その瞬間、昔と変わらない大きな瞳を更に開く。

私は、走り出した。彼女は何かを叫ぶ。

聞こえない! 聞こえない! 私は何も考えず我武者羅に走った。




私は地元に戻ったあと、筆を持った。

高校の時以来だ、絵を書くのは。

書く絵は決まっていた。向日葵の絵、それだけだ。


何百枚、何千枚と向日葵の絵を書いた頃、同僚が私の家に飲みに来た。

その時私の絵を見て、凄いな、賞に出してみろよ、と口にした。

始めは、拒否した。そういうための絵じゃないと。

同僚が、何度も凄い、賞に出したほうがいい、と口にする度に、私の心は揺れた。

終いには、酒の勢いもあり承諾してしまった。いや、違う。

酒の勢いなんかじゃない。世間に認めて欲しかった、私の絵を。

そして、惨めじゃないことを証明したかった。



私の絵は賞を取ることができた、そして、面白いほどに売れた。

何千枚とあった絵は、今では一枚しかない。

その一枚ももうじき燃やされるだろう。


「見送りの時間だ、行こう」


顔をしわくちゃにした親友が私に声を掛けてきた。

写真の彼とはまるで別人だ。

けれど、人の良さそうな顔立ちは何も変わっていない。


「ああ」


私は火葬場に設置された休憩所の椅子から立つ。

腰が軋む、目も疲れきっていた。

年を取ると不自由なことだらけだ。



柩の中に彼女がいる。蓋がされ、もう顔は見れない。

彼女は大腸ガンで死んだ。末期の段階で、発見されたらしく、大きな手術はしなかったらしい。

今日、その話を聞いた。


柩が動かされる、燃やすためにだ。

彼女は結婚をしたことがない。ただの一度もだ。

信じられなかったが、私は表情に出さなかった。

それが事実だとしたら、街で見た彼女は幻だったとでもいうのか。

わからない。


わからない。彼女が結婚しなかった理由が。彼女なら引く手数多だっただろう。

わからない。街の中で、彼女がなんと叫んでいたのかを。


一つだけわかることがある。

私の恋は終わったということだ、私が書いた絵と共に。

彼女の恋は終わっていたのだろうか、それともまだ――


煙がもくもくと空へ登っていく。

ああ、好きです、大好きです。

完結記念となります。

お読み頂きありがとうございました。

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