木の下で
女王は雨の中、城下町を歩き回っていた。
…どうやら無事に門をぬけられたらしい。
「…っもう!この辺、よく分からないのよ!ここどこよ!?」
が、道に迷ってしまったらしい。
「…陛下?随分遅いと思ったら…何をしているのですか?」
後ろからビルの声が聞こえてきて驚いた女王は
「わぁ!」
前を通り過ぎようとしていた人にぶつかってしまった。
その人は灰色のフードをかぶり、顔の表情は見えないが、女王は何かに気付いたらしく、声をあげた。
「まぁ!貴方は…!」
「…そうゆう君こそ…」
「?」
「で、陛下。この方はどなたなのですか?」
とりあえず、雨をしのげる場所に行こうと話合った三人は近くにあった木の木陰で雨宿りをしていた。
「…え。っと…」
「明日、この女王と結婚させられる筈だった者だよ。」
女王が答えるよりも先にその人が答えた。
「………。それはその…どうしてここに?」
「僕もそこの女王と結婚する気はなかったんでね。逃げて来たのさ。」
「まぁ!庶民のくせによく言うわよ!」
「…悪いけど、僕は君程頭が悪くないんでね。」
「まぁぁあ!」
「…陛下、落ち着いてください。…貴方のお名前は?私はビルです。」
「僕かい?僕はチェシャだよ。ビル、とりあえず忠告しておくけど、『陛下』と呼ぶのは控えておいた方がいいよ。城にバレてしまうからね。」
「…そうですね…では、何とお呼びしましょうか?」
「…………。」
名前を遠まわしに聞かれた女王は口をつぐんだ。
ちょっと間を置いてから、ゆっくりと言葉を発した。
「…名前は…ないの。」