壁
「また、ふりだしに戻っちゃったわね……」
二人は町外れの路地裏にいた。
薄暗いそこには何もなく、人のいる様な雰囲気はなかった。
「でも、後退はしていません。大丈夫ですよ」
「…でも、こんな事になるのなら…」
そこまで言って女王は足を止めた。
「…嘘……」
「…王様?」
その瞬間、女王は後ろから二人に腕を掴まれ、ビルは後ろ手にされ、捕まった。
二人の目線の先には赤いマントを身に纏った王様が立っていた。
「女王、探すのに苦労したよ。しかし無事でいてくれて何よりだよ」
そう女王に笑顔を向けて王様は言った。
「安心しなさい。全てなかった事にするから、何も心配する事はない」
それを聞いた女王は顔をしかめた。
「…なかった事……?だったらビルを放して!どうして捕まえるの!?」
女王は掴まれていた腕を振りほどいた。
「…女王、少し落ち着きなさい。そればかりはどうしても見逃す事はできないんだよ」
「どうしてよ!私の我が儘でこんな事になったっていうのに……これ以上どうしようって言うのよ!」
その場の空気が固まった。
王様は女王の肩に手を置き、ゆっくりっ語りかけた。
「女王、君は国民全ての命を賭けてまで、その者を助けたいかい?…私だってこんな事は望んでいない。でも、仕方ないんだ」
「……国民全ての命?」
その女王の問掛けに王様は頷いた。
「隣国の王子がお前との婚約を望んでいる。……断れば戦争を行うという圧力付きで」