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美人さん恋煩いだと思われる



「あの雨の日は、寺のご子息に送ってもらったようだね」

大福を食べ終えお茶を手に取られた美人さんがおっしゃった。

「 あら、どうしてご存知なんですか?」

振り向くと困っているような心配しているような、分かりにくい表情を浮かべたお顔があった。

「 うちの座の女衆が噂していてね。私は全く知らなかったけど、ご子息の方もご住職とは別の意味で名の知れた人のようだね」

「 まあ、そうなんですか。ああ、女性に人気があるということですね?清秋様は愛想はないけどお母様譲りで整ったお顔立ちだし、体格が良くて目立ちますからね。それにしても、この数日でお客様の耳まで届くなんて、噂ってすごいですね。清秋様がすごいのかしら?」

「相乗効果といったところかな。あの後すぐに店を閉めたのなら私が送って行ったら良かったと思ってね。またこういう事が有れば、私に言っておくれよ」

じっと見上げられそんな優しい言葉をかけられると、嬉しくて笑みがこぼれた。

「まあそんな。良いんですよ。清秋様が過保護なだけで、本当は一人で大丈夫なんですから」

「 そう・・・」

お優しい美人さんは残念そうなお顔をなさった。

送るって言われても、気を付けなければならないのは、むしろお綺麗な美人さんの方なのに。

私が転んで顔や身体を擦りむいたところで兄さんに笑われるだけだが、美人さんには人に見られるお仕事がおありになる。


「そうですよ。子供じゃないんですから雨の道なんて心配いりませんよ。一人じゃ歩けない程の天候なら大人しくお寺に泊めてもらいますし」

「 えっ!寺に泊まるの?」

美人さんが酷く驚いたお顔をなさった。

いつもの可愛らしいびっくりなさったお顔とはちがって、どちらかというと心配になってしまう様な様子だった。

「ええ、それが一番安全ですよね?」

「 ま、まあそうだね・・・」

今日の美人さんはなんだか様子が変だ。私の大好きな笑顔も少ないし。

どうかなさったのかしら。


「 それなら、何故、彼に送ってもらったの?」

美人さんはやはりいつになく硬いお顔でいらした。

「 それは、清秋様に会っちゃったんで・・・。それに、お客様も心配してくださってたところだったでしょう?清秋様と歩く姿を周りに見せておいたら防犯に役立つんじゃないかと思って、見かけた知り合いにわざわざ声をかけながら帰ったんですよ」

「 そんなことして、好い仲だと誤解されてもかまわないの?」

私としては、まだ清秋様の妹分だってことを皆に知らしめることが出来ればそれで良かったのだけど。

「 その可能性もありましたね。ええと、それはそれで防犯上は有効ですよね?誤解されて困るような相手も今のところおりませんし」

「 いないんだ・・・」

また、残念そうなお顔をなさった。 私に好いた人がいて欲しかったのかしら?


そうだ。きっと美人さんにはお好きな方がいらして、私に恋の悩みを打ち明けたいとお考えになっているのかもしれない。

「どうなさったんですか?元気がなくていらっしゃるみたいですけど。恋煩いですか?」

美人さんは口を小さく開いて愕然となさった。他の誰かだったらさぞ間抜けであろうこんな表情までお可愛らしい。

いや今はそんなことより、いや美人さんの可愛らしさも重要だが、とにかく、私はどうやらこの方のお心を読み間違えてしまったようだ。


「・・・・・君は、鈍いのか敏いのか・・・」

美人さんは呆然と呟かれた。 

「 ごめんなさい!違ったんですね?私ったらまた考えなしに失礼なことを」

「 いや良いんだよ。君が謝ることじゃない。気にしないで」

ふんわりと儚げに微笑まれた美人さんは明らかに元気がなかった。 

「 気になります!私で何か役に立てることがあったら、何でもおっしゃって下さい。お客様が元気に笑ってくださってないと私、寂しいです」

美人さんがかすかに息を吐かれた。

「 君はどうしてそんなに可愛いんだろうね・・・」 

驚いた。そんなことを考えていらっしゃったなんて。

「何おっしゃってるんです!お客様の方がお可愛らしいに決まってるじゃありませんか!好いたお方に何か言われたんですか?こんなにお可愛らしいお客様にひどいこと言うなんて冗談でも許せません。そんな人お止めになって下さい!」

「・・・・・・いや、もういいよ。そうじゃないんだ・・・・・。あながち間違ってもいない気もするけど、なんだか虚しくなってなってきたよ。この話はもうやめよう」 

自分の無力さが残念だったが、無理やり聞き出す訳にもいかない。


「 そうですか?ごめんなさい。私じゃあお役に立てそうにないですね。でも、元気を出されてくださいね?」 

なんとか元気になって欲しいという思いを伝えようと、美人さんの前にしゃがみこんで膝の上に置かれたその手に自分の手を重ね、ぎゅっと握った。 


美人さんは、よほど驚かれたのか息を飲まれ、しばらく重なった手を見つめていらっしゃった。

そして顔を上げ、私がもし男だったなら、確実に心臓を射貫かれていたであろう、とろけるような笑みを浮かべておっしゃった。

「 ありがとう・・・・・。君のおかげでとても元気が出たよ」 

うう、お元気になられたのなら嬉しいが、そのお顔は非常に心臓に悪いです。
















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