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美人さんお悩み相談



美人さんはちょこちょこと茶屋に顔を見せて下さるようになった。

出会ってからそう日は経っていないが、もはや立派な常連さんだ。

お座りになるのは短い時間ではあったが、私の緊張も徐々に薄れ、自然に楽しくお話できるようになってきていた。

美人さんも只の給仕に対するものとは思えない丁寧な言葉が取れ、心安くお話して下さるようになった。

美人さんの自然な口調はより彼女の男らしさを引き立てるものであり、穏やかでゆったりとした調子でありながら、お話の内容と共にさっぱりとしていて好感が持てた。



「 他人の口が気になるのは、自分に自信がない所為なのかもしれないな」

日の光を映しながらきらきらと流れる川面に視線をむけたまま、内容のわりに元気な声音でそんなことをおっしゃた。大きめの独り言かもしれない。

少しほつれてはいるものの今日も艶々の髪ごしにさりげなく様子を窺っていると、視線がこちらを向いた。

「 返事をしてはくれないの?」

どうやら返事を求められていたようだ。ただ聞いて欲しいだけというお客さんもいらっしゃるが、美人さんはそうではないらしい。

「 すみません。もしかしたら元気な独り言をおっしゃったのかもしれないと思って」

「 違うよ」

美人さんは綺麗に苦笑された。


「 何の自信がおありにならないのですか?」

美人さんは今度は軽くびっくり顔をされた。兄の話題以外では初めての驚かれたお顔かもしれない。

表情が豊かで、しかも全てお綺麗で可愛らしいので見ていられて幸せだ。

「 やっぱり君もまっすぐだね。そんなことはない、自信を持って、という風な返答を無意識に予想していたみたいだよ。ちょっとびっくりした」

美人さんのお顔が可愛らしかったのでにこにこしながら答えた。

「 持ってだなんて言えません。いつも堂々と毅然としていらっしゃるし、本当に自信を持っていらっしゃらないようには思えませんもの。それに、見るからに意気消沈している人にだったら尋ねません。・・・・と思います」

「 あやふやだね」


美人さんは微笑みながらも思案顔でおっしゃた。

「 うん、そうだね。自信は持っているつもりだったのだけれど、事実そうなら人が自分について話していたとしても気にならないのではないかと思ってね」

私たち兄妹との出会いの場面か、あるいは似たような場面を思い浮かべていらっしゃるのだろう。

「 うーん、そうでしょうか?確かに、自信過剰で他人が自分の噂をすることを喜ぶ人はいると思いますけれど、それは自信云々ではなくて、よっぽどのお馬鹿さんだからですよね」

美人さんは面白がる顔をなさった。やっぱり明るい表情のほうがお似合いだ。

「お馬鹿さんって、どうして?」

「 ええと、だって。例え欠点のひとつもない完璧な人がいたとしても、悪く言う人は必ずいるものでしょう?」

「 ああ、そうだね。それは間違いないね」

美人さんも頷いてくれた。

「 それがわからないから勘違いしていられるのでしょうから。そういう人はきっと、自分がどれほど自信満々でも実際はお馬鹿さんなのかなと、思いますけど」

「なるほどね。勘違い野郎ということか」

「 ああ!そういう事です 」

「 けれど、そういう輩が無駄に自信を持つのは、何かしら秀でる部分があって、崇める者がいるからこそだろう?」

「 そうですねー。うーんでも、勘違いしてる時点で性格は良くないの間違いないですよね?何で好く思う人たちがいるんだろう?すいませんわかりません」


しゃべりながらだとやはり考えがまとまらない。もっと頭の回転が速ければ気の利いたおしゃべりができるのに。

「いや、謝らなくていいよ。君は、例え姿が良かったり金持ちだったとしても、付け上がった人間を好む者の気持ちはわからない、ってことだろう?」

「 ああそっか、そういうことですね!私もそういう部分が秀でてる人だと、多少の難は目をつぶれるかもしれません!・・・・けどやっぱり、勘違いしてる人はやだなあ」

くすくす笑い出した美人さんは同調してくださった。

「 私もそんな人間は好きじゃないよ。君は正直でいいね」

馬鹿正直っていう意味で皮肉を言われることもあるのだけど、それでも美人さんの優しい声音からは心地好い響きしか感じられなかったので、心からお礼を言った。

「 ありがとうございます」


「お兄さんは付け上がった人間には全く見えないけれど、人の目や口は気にしないだろう?」

美人さんはまだ納得なさっていらっしゃらないようだ。

よっぽど気になっていらっしゃるのだろう。

こういうことで悩まれることが意外でもあり、それを私に打ち明けて下さるのが信用されているようで嬉しくもあった。


「 そうですねえ。兄は人からどう思われていようが頓着ないですね。得な性分なんですよ」

「 そうだよね。 君のお兄さんと話していたら、ひそひそ話に腹を立てる自分が情けないような気がしてね」

落ち込んでいらっしゃるような様子では全くないが、兄さんよりは余程ものを考えられる方なのだろう。

「 情けないだなんて。兄はそういう人の姿が全く目に入らないか、見ても自分のことを言われてるって気が付かないだけです」

「 そうなりたいよ」

美人さんがまた苦笑混じえ、あながち冗談でもない調子でおっしゃった。

「 だめです!そんなことおっしゃっては!天女さまが兄みたいになりたいだなんて!兄は勘違い野郎よりお馬鹿さんなだけです!あの人は人の機微に疎いんです。役者さんが人の心に疎くなろうだなんて無理にきまってます。そうだ!お客様は機微に敏くていらっしゃるから、悪意のあるひそひそ話が気になられるんです」

美人さんはにこっと笑いながらも自嘲気味におっしゃった。

「 どうだろう。気になるだけじゃない、 お兄さんみたいな悪意のない人につっかかっていくなんて、自意識過剰で卑屈じゃないかい?」

「 そんな、お客様が卑屈だなんて有り得ません!お客様の行為はどう見ても正義感からのことです。影でこそこそ人の悪口を言うような人達がお嫌いなんでしょう?私も嫌いです。でも注意しに行ったり出来ないもの。きっとお客様はこそこそ話の対象がご自分じゃなくて、ご家族やご友人でも、注意しにいらっしゃるわ」


必死で言い募って、一息つくと、美人さんが目を細めて私を見ていらっしゃた。

だんだんと興奮しすぎたことが恥ずかしくなってきて、美人さんの目を見ていられず、俯いてしまうしかなかった。

立っている私が俯いても美人さんから顔を隠すこともできないので、冷めてしまったお茶を引いて小屋の中へ下がろうとした。


後ろから、美人さんの落ち着いた穏やかな声が追いかけてきた。

「 ありがとう。そんな風に私を評価してくれて嬉しいよ。君のおかげで情けない自分で居続けなくてすんだよ。だけど、君にこんな話を聞かせていたこと自体が、取り返しのつかないほど情けないな。失敗したよ。今日の話は忘れてくれると有難いかな」

私は身体ごときちんと美人さんを振り返った。

美人さんの考えには共感できるし、お綺麗なだけではなく内面的にもとても好ましい方だ。お話していてもとても楽しいし、情けないなど感じたことはない。

もし、出会いがお客さまとしてではなく、年の頃も同じだったなら、大好きなお友達になっていただろうと思う。

私が美人さんに認めてもらえれば、の話だが・・・。

とにかく、私はこの時までに、人間らしい天女さまのことがかなり好きになっていたようだ。


「 そんなことおっしゃらないで下さい。お話し相手に選んでくださって嬉しいです。思ったことをすぐ口に出しちゃうので考えをまとめて話すのは苦手なんですけど、ご不快でないのならいくらでもお相手しますし、そうじゃなくてもお話を聞くだけでも」

美人さんは私の言葉を遮り、手を軽く振っておっしゃった。

「 そんなこと言わないで。一方的に話すだけなんて虚しいよ。君と話しているととても癒されるんだ」

にっこり微笑んでそんなことをおっしゃるので、一瞬性別を忘れ、心の臓をわしづかみにされてしまったような心地がした。

「 ・・・・・ありがとうございます」

お姫様の格好をした本来の性の美人さんを想像しながら、やっとの思いで答えた。




「 そういえば、人の機微には敏いはずなのに、お兄さんを悪意ある人間だと勘違いしたのはどういう訳だったのかな?」

美人さんがいたずらっ子の笑みで私を覗き込まれた。

さっきようやく耐えたと言うのに、ああまた、顔が赤くなっていく。

「 それは!・・・・・・兄が悪人面だからです!」

ふんわりと暖かい風の中を、美人さんの元気な笑い声が流れていった。












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