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漸くまとまるか



私のことをまだ好きだとおっしゃった矢野様は、両手の平にお顔を伏せられたままだった。

私は嬉しくて心が沸き立つ反面、腹が立っていた。

「 それならどうして、もう店に来ないなんておっしゃったんです?」 

「 それは・・・、君が清秋と・・・」 

「 私が清秋様とどうにかなったと思われてたんですね?」 

矢野様は何か考えられているのか、返事をなさらなかった。

矢野様はまだ私を好いてくださっている。私も矢野様が好き。

なのに話は一向に進まない。もどかしさも限界だった。


「 何!?どうしたの!?」

矢野様は驚かれていた。当然だ。

私が矢野様の身体をぎゅうっと抱きしめたのだ。

「 話が進まないからもう嫌です。このまましゃべりますからね」 

大きくて硬く引き締まった矢野様の身体に心地よい暖かさを感じながら、私は強引に宣言した。

「 このままって!困るよ」

「 どうしてですか!?私のこと好きっておっしゃったでしょう?」 

私は困られては困るので一先ず手を離した。

途端に矢野様は立ち上がり私から距離をとられた。

「私がいくら君のことを好きでも、困るよ!」

そうおっしゃった矢野様はわずかに目元を赤く染められていた。

私も立ち上がって、仁王立ちになった。

「 だからどうしてですか?もういい加減に為さらないと怒りますよ」

分かってしまった。矢野様はまだ私がお好きだ。絶対に。

「 怒るって。君ちょっと前からすでに怒っているよね」 

「 怒ってます。そんな可愛いお顔されたって許しませんからね」 

「 か、可愛いって何を」 

矢野様は私の勢いに後ずさり気味だ。

このままじゃやっぱり嫌われるんじゃないかしら?

「 どうして私にはっきりお聞きにならなかったんですか?」 

「 え?」 

「 どうして、私に、お聞きにならなかったんですか。清秋様のことも、私の気持ちも」

矢野様は私を見つめて驚いた顔で固まってしまわれた。

「 清秋様にはきちんとお答えしました。と、いうか、清秋様は私が清秋様のことを一番好きなお兄ちゃんだと思ってるって承知してらっしゃいました。清秋様とはどうもなってません。私を守ってくれるお兄ちゃんのままです」 


「 なんだって・・・。ということは君は?」 

「 なんですか?」 

矢野様のおっしゃられたいことは良く分かるが、ちょっとは意地悪しても許されるんじゃないだろうか。

「 誰のものでもないということ?」 

「 はい」 

期待に胸を高鳴らせながら、一方で酷く緊張もしながら、じっと矢野様を見つめた。もうひとつ言うことがあるんじゃないですか?

矢野様も緊張された面持ちでしばらく私を見つめていらっしゃったが、ようやく私の待つ言葉を声に出された。


「 私のものに、なってくれるということ?」 

「 なります。矢野様も私のものですからね」

矢野様が、そこらじゅうの花が一斉に咲き誇ったような、愛しくて堪らなくなるような、それはお綺麗な笑みを見せてくださった。




矢野様は少し落ち着きたいと、もう一度腰を下ろされた。

「 暗くなってきたけど大丈夫かい?勿論送っては行くけど、家の人が心配してるだろう?」 

「 送ってくださるなら大丈夫です。兄が矢野様と一緒だって知ってますし」 

私はにっこり答えた。矢野様は少し視線をそらされた。

「そうかい?君、さっきも思ったけど、無暗にこんな場所で男と二人になるもんじゃないよ。一人じゃなくても危ないだろう」

「 まあ、まだそんなことおっしゃるんですね。矢野様とだからこんなところに居るんです。他の人とは来ません」 

矢野様はちらりとだけ私を見ておっしゃった。

「 そう?清秋となら用事があれば来るんじゃないのかい?」

私は考えてみた。用事、清秋様。

「 ・・・来るかもしれませんね・・・」

「 ・・・・・。私が、君が清秋を好いていると考えたとしても仕方がないとは思わないかい?君にとっての清秋は特別すぎるよ。清秋の気持ちを知った今でもそんな風なんだから」

「 うーん。でも清秋様は絶対に私が嫌がることは為さらないですから。そうと分かってる人なら問題はないでしょう?」 

「 分かってるって・・・。清秋も男なのだから」 

矢野様はなおも疑わしそうにおっしゃったが、絶対に自信を持って言えた。

「 清秋様は、絶対に!私の嫌がることは為さいません!他の友達とは違います」 

「 分かったよ。清秋が気の毒になってきたな・・・。これだけ信じられていては何も出来ないな」 

「 でも、そうですね」 

「 え?」 

急な話題転換についていけず、矢野様がきょとんとなさった。可愛い。

「 私もやっぱり悪かったです。ごめんなさい。清秋様にすがって泣いたりしたから変な噂になっていたんじゃないですか?」 

「 ああ。正にその変な噂に惑わされてしまったよ。清秋を君が慕っているっていうことも前々から気になっていたし、君は気のない男に抱きしめられるような子ではないと思っていたからね。てっきり、清秋を好いていた自分の気持ちに君が気付いたのだと」 

「 今更ですか?」 

「 そうだね。でも、他の男に抱きしめられて泣いたりはしないだろう?」 

「 しませんね・・・」 

誤解されても仕方のない行動を私がとっていたようだ。しょんぼりする私に矢野様がおっしゃった。

「子供の頃からそうなんだね?」

清秋様に抱きついて泣いていたことだとわかったのですぐに頷いた。

「はい。そうなんです」

「 そう。分かった」

分かったとおっしゃった矢野様は、清秋様との誤解が解けた割りに浮かぬ顔をなさっていた。

「 君に辛い思いをさせて悪かったね。清秋と好き合っている君が、私に気を使って拒むことも出来ず苦しんでいるんだろうと思ったんだ」 

「 本当に矢野様のことを何とも思ってなかったなら、そうきちんと伝えたと思いますけど・・・。それで、もう来ないなんておっしゃったんですか?」 

「 ああ、本当は清秋と君の噂を聞いた日から、もう君のところには行くべきじゃないと思ってたんだよ」 

「 ではどうして・・・」

「 諦めきれなくてね。情けなかったよ。君に辛い顔をさせてまで、会いに行ってしまう自分がね」

そんなに思って下さっていたのかと嬉しくもあったが、矢野様のお顔が晴れないのが不安だった。 


「 どうなさったんですか?」 

矢野様は首を振り微笑まれた。

「 いや、何でもないよ。清秋と何でもないと分かって良かったよ」

「駄目ですよ。そうやって私が嫌な思いをしないようにって、我慢をされるから余計変なことになるんですよ」 

矢野様は目を見張られた。

「 敵わないな。良く分かったね」 

「 分からなかったから拗れたんです。今は矢野様がお気持ちを伝えて下さったから、疑心暗鬼にならず考えられるんです。矢野様が思ったことを言って下さらないと、私また分からなくなっちゃうんですよ。そして泣きますからね」 

矢野様は目を細めて微笑まれた。

「 いつかの私みたいだな。そうだね。でも君も思ったことを言ってくれてたら良かったんじゃないのかい?」 

「 聞けなかったんです、どうなさったんですかって。口に出したら私達の関係がおかしくなってるのを認めてしまうことになりそうで。・・・・お互い様でしたね」 

「 そうみたいだね」 


「 で、何ですか」 

「 え?」 

「 駄目です。ごまかされませんよ。今日はとことん聞きますからね。矢野様のお顔が晴れるまで頑張ります」

「 頑張るって・・」 

矢野様は苦笑いなさった。私が視線で促すと、しぶしぶというように話し出された。

「 君を気遣ってというより、情けない姿をこれ以上見せたくないんだよ」 

「 情けないなんて一度も思ってません。それに、なにか我慢されて思い悩まれてる方が情けないはずです」 

「 思ってるじゃないか・・・」 

「 まだ思ってませんたら。それに、もし情けなくても矢野様なら好きです」 

「 ・・・・・相変わらず可愛いね、君・・・」

可愛いとは言ってくださったが、まだ浮かぬ顔だ。

「 どうして好きだと言っているのに、いつもみたいに可愛らしいお顔でにっこりして下さらないのです?」 

「 また・・・可愛らしいって何なの?いくつ離れてると思ってるんだい・・・」 

「 いくつなんですか?まあそれは後で良いです。もしかして私の気持ちをまだ疑ってらっしゃるんですか?」 

矢野様は視線を彷徨わせられた。

「 疑ってるわけじゃない。君が本心から言ってくれてるってことは良く分かる」 

「 じゃあ、何です?」 

「 言いたくない」 

「 もう!どうしてです?子供じゃないんですから!私怒りますよ」

「 怒っても良いよ。折角君が好きだといってくれたのに、離れていかれるよりましだ。怒った顔も可愛いし」 

「 もおおお!私帰ります!」 

私は勢いよく立ち上がった。



いつの間にやら辺りは真っ暗になっており、白い三日月の頼りない明かりだけが道を照らしていた。

随分遅くなってしまったようだ。全く気付かなかった。

帰ると立ち上がったものの、ここまで暗くなっていては女の一人歩きは危険だ。

後ろで矢野様の立ち上がる気配がした。

「 送るよ 」 

穏やかな、先程までより少し明るい声だった。

「 話さなくてすんで良かったと思ってらっしゃるでしょう?」 

微妙な笑顔の矢野様に、出来る限りの意地悪な笑みをつくり言った。

「 私、こんなもやもやした状態じゃお付き合い出来ませんからね。夢屋まで送って下さい。後は兄さんと帰りますから」

矢野様が愕然となさったのが暗がりでもわかった。

「 念のため言っておきますけど、大好きですからね」 

矢野様がほっとしたような、寂しいような笑顔を浮かべられた。 

 








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