梅美人さんのことを考える
美人さんが帰ってしまわれた。
出会って以来、別れ際に美人さんが笑顔でいらっしゃらないことなど一度もなかった。
そのことが、私に酷く大きな衝撃を与えていた。
私が何かしてしまったのに違いない。
だって、美人さんは余所での嫌なことを引きずって八つ当たり為さる様な方ではないもの。
ちょっと前から様子も言動もおかしかった。
美人さんだって兄さんが言ってたように人間だ。
当然、怒ったり傷つかれたり悲しまれたりなさるはずだ。
前々から様子のおかしかった美人さんを、なんだって私は更に追い詰めてしまったんだろう。
きっと、美人さんなら私に腹を立てたりがっかりなさったりはされないと、どこかで甘えていたのだろう。
美人さんが私に腹を立てていらっしゃるかもしれない、失望なさっていらっしゃるかもしれないと気付いて、背筋が冷えるような思いがした。
もう来てくださらないかもしれない。
あんな哀しいお顔で別れたのが最後だなんて。
どうしよう。とんでもないことをしてしまったんだわ。
なのに、自分が何をしてしまったのかがわからないなんて。
髪を結われるのが嫌だとおっしゃった。
お姫さまみたいな髪を、笑えないとおっしゃった。
もしかして、ご自身の本来の性が女であることがお嫌なのだろうか。
お仕事の延長で男装をしていらっしゃるのだと思っていたが、そうではないのかもしれない。
女でありたくないということは、姿だけではなく心までも男でありたいと望まれているのかしら。
そう思ったとき、ひとつの可能性に思い当たり一気に血の気が引いた。
引いた血は心臓に集まったのか、次の瞬間には全身がばくばくと音を立てるほどに動悸が激しくなり、何も考えられなくなった。
考えなくては。
今まで自分がしてきたことを思い出さなければ。
少し前から違和感はあった。
無理に押し込めてきたが、あの違和感が気のせいでなかったとしたら。
最初に感じたのはいつだったろう。
ああ、仲良くなりたいとおっしゃってくださった時だ。
あの時、どちらの意味でも嬉しいよと、君だから言ったんだよと、そうおっしゃったのだ。
まるで口説かれているようだと混乱して・・・。
そして、なかったことにしてしまった。気付いていたのに、自分自身にも気付かぬ振りをして・・・。
ああ、なんてことだ。
美人さんは私に対して恋情を抱いていらっしゃるのだ。
私の縁談を気にされていた。清秋様のことも。
大好きだと言った私に、友人としてでも嬉しいと、切ないお顔をなさっていた。
私を見つめられる視線に、言葉に、ただならぬ好意や熱を感じたことがあったはずだ。
それなのに私は、美人さんが伝えようとしてくださっていたお気持ちに気付かずに、いや、気付いていたはずなのに無意識に否定してきたのだ。
私の考えなしの言葉や行為が、どれほどあの方を傷付けたのだろう。
気付かぬ振りなどせず、感じた違和感にきちんと向き合うべきだったのだ。
そうすれば、もう少し早くに。
もう少し早くに。
美人さんの本来の性のために、どれほど私があの方を好きでもそれは恋情ではなく、あの方の思いに応えることは出来ないのだと気付いて、愕然とした。




