美人さんを知っていたかどうかそして混乱友達になる
「 君は私のことを知っていたの?」
よく晴れた午後、不意に美人さんがそんなことをおっしゃった。
「 はい。友人から噂で。あの、ご不快でした?」
「 いや大丈夫だよ。目に入らないところではなんと噂されようが全く気にならないよ。それに、人の話題に上らないと商売にならないからね」
木漏れ日をきらきらと、少しだけほつれた艶髪に映しながら、美人さんはにっこり笑っておっしゃった。可愛い。
「 君の反応が、まるで私のことを知らないみたいだったから。それをちょっと思い出してね。聞いてみただけだよ」
初めて美人さんを見たときは、この世にこんなに美しい人がいるのかと、かなりの衝撃を受けたのだ。
「 だって、本当にお綺麗だったのでびっくりしちゃって、お噂の方だとはすぐに気付けなくて。兄に言われて思い出したんです」
「 そう。じゃあ、ここにたどり着いた時にはもう私のことはわかってたんだね?」
「 ええ。あれから、お客様が帰られた後は興奮しちゃって。まあ、誰も話を聞いてくれる人はいませんでしたから一人で、心の中でですけれど」
美人さんは意外そうな表情をされた。
「 そう?そんな風には見えなかったけどね。君も役者と聞いて興奮したりするの?」
「 それは私も女ですから・・・?うーん。役者さんって知ったから興奮した訳ではないですね。とにかくお綺麗だったから、お客様に興奮したと言うか」
美人さんのお可愛らしいびっくり顔を見て、自分が何を言ったかに気付いた。
「あ!いえ。違うんです。これじゃあ私変態だわ!あの、お客様のような綺麗な方とお話出来たことに対して興奮したって言いたかったんです!あ、興奮っていっても変な意味じゃなくて、嬉しかったってことで」
美人さんがくすくす笑い出した。
「 いいよ。どちらの意味でも嬉しいよ」
「 もう、可愛いお顔でそんなことおっしゃって。私喜んじゃいますからね」
「 可愛い?君この間もそう言ってたけど、私が可愛く見えるというの?可愛いのは君のほうだろう?」
「 いいえ私じゃありません。年下の私が生意気かもしれませんけど、お客様のお笑いになったお顔、お可愛らしくて大好きなんです。でもさっきみたいなこと、どちらの意味でも嬉しいだなんて殿方には絶対におっしゃっちゃ駄目ですよ?変な人が勘違いしちゃ危ないですからね」
美人さんはとろけるような笑顔でいらっしゃったのだが、私が言葉を続けるうちに何故かだんだんと怪訝な表情になっていらした。
「 なんなのそれ?どうして私が男にそんなこと言うと思うの?」
終いにはがっくりと肩を落とされてしまった。
失礼だったかもしれない。まさか、私が美人さんのことを尻の軽い女だと思っていると誤解なさったのではないだろうか。
あせって訂正しようと思ったが、美人さんが気を取り直したように顔をあげられた。
そして、しっかりと私に視線を合わせておっしゃった。
「・・・・他の女の子にだって言わないよ」
珍しく、笑みも苦さも混じらない真剣なお顔で、じっと私の目を見つめて続けられた。
「 君だから、嬉しいと言ったんだよ・・・・」
熱い何かを含むような眼差しと、まるで口説き文句のようなその台詞がもたらした衝撃たるや、物凄いものだった。
ぎゅうっと心臓をわしづかみにされたように苦しく、息が出来なくなった。
ああ天女様、お願いだから戻っていらして。近頃お姿が見えませんけれど、どこに行ってしまわれたの?
今の美人さんは男の方にしか見えません。それでは困るのです。
私に、女に惚れろとおっしゃるのですか?
混乱した私は、美人さんのお顔を見つめたまましばらくの間固まってしまっていたようだ。
美人さんが私のほうに傾いでいた体をすっと起こされる動作で我に返った。
穏やかな笑顔に戻っていらっしゃったので心底ほっとした。
私ったら何を混乱してたんだろう。
美人さんは真面目に、私に好意を持っているとおっしゃっただけだ。
何も変なことなんてないじゃないの。
「 君と仲良くなりたいんだ。友人になってくれるかい?」
ほら、そうおっしゃってるじゃないの。
私もこの方とお友達になることを望んでいたはずでしょう?
そうだ。仲良くなりたいというお言葉は純粋にとても嬉しかった。
胸にわだかまる何とは言えない違和感を心の奥底に押さえ込むことに成功し、ようやく笑顔で答えられた。
「 ええもちろんです!すごく嬉しいです!仲良くしてくださいね」




