最後の判断
数日後
意図瀬市
圧等駅前
大きい駅だった。とにかく見慣れた駅とは違うでかさがあった。人口密度が濃いし、トイレの数も段違いだ。
「うおー」
子供のように小さく叫ぶ。この時点で、正彦が住んでいた都市は本当に田舎に近いのだと思い知られた。駅が近いというメリットを除いたら、の話であるが。
「本当にここに居ればいいんだな?」
北のビルが見える所にーー小海が指定した待ち合わせ場所だーー正彦はそれを従い、待つ。
10分も掛からないうちに、小海は来た。
そう。立派な男が。同じ歳なのに、カッコいい服を着たり、髪が短めに切っているので、初見では分からなかった。
体操服を着た正彦とは真反対である。
「・・・変わったな」
「ああ。いろいろあってね。これに落ち着いたんだ。学校に通いながらは大変でね」
「ん? 通い?」
「詳しくは仕事の相手にきいてみな。そうそう、今回の仕事は力を要するからね」
小海から来た手紙の内容ーーそれは「お手伝いの依頼」だった。
「まぁ、手紙も書いてあったし、予想はついていたけど・・・・・」
「とりあえず、行こうよ」
10分後
「バスで移動か。まぁ悪くない」
「仕事場は山にあるんだ。ものすごく遠いよ。1時間はかかるからね」
「長いな」
「実を言うと僕も学校に通ってないんだ、フリースクールといって、引きこもりなどの人が行くところっていうか」
「ふんふん」
「暇があれば体を動かしたいと思って、仕事を探していたんだ。そしたら、親戚の会社で手伝う事になって。あと一人足りない時に、まさりを紹介する事になったんだ」
「へー」
小海もそれなりに頑張っているんだな。
内心感動しながら、小海の説明を聞く。
「ま。僕も問題を起こして、高校中退しちゃったから、強く言えないんだよね」
「ダメじゃん!!!」
「まさりも似たような事をしたくせに」
「俺の場合は、意中の人に水を入れた落とし穴に落としさせその姿をカメラで撮ったり、校長の髪を切る為に不法侵入したりしたから、少なくともお前よりは酷い」
「自覚はあるんだ・・・・・」
二人で笑い合い、いつしか話題は将来の進路についてとなった。
「俺、性転換はしないつもりだ」
「え。なんで・・・あんなに男になりがっていたのに」
「俺、思ったんだ。小さい頃に、暴れ回っていた時、いろんな人に出会った。自分のことしか考えてない人、お節介好きな人、偉いのにバカらしい考えを持つ人・・・本当に世話になった。でも、俺は「男」を演じていた」
「それでいいじゃないか。それこそまさりだよ」
「一時期はそう思った。でも理想を追い求めて、無理に犠牲を増やすよりもありのままに他人と喧嘩して、仲良くなって・・・そしたら、気づいたんだ。この姿でお前と結婚できることを」
「まさり・・・・・」
ーーーーーー
正彦は思い出していた。
母が「まさり」というあだ名を付けてくれた時の質問をしたことを。
「ねぇ、何でまさり?」
「あんたが「男勝り性格」をしているからよ。だから、勝りを取って、「まさり」! だって、これからの困難を打ち破っていく姿を思い浮かぶからよ・・・あんたの、ね」
ーーーーーー
同日
山の中の某事務所
小海に誘われて、事務所に入ると、社長らしき人物が居た。何故か、真っ黒な人であった。
「社長、お連れしました」
「今日かぎり、お手伝いをします、板野正彦と申します。よろしくお願いします」
「おお。君が板野くんかね? 武(小海の本名)くんからいろいろ聞いているよ。君の小さい頃とか」
「そ・・・・そうですか・・・・」
「特に、悪い事をした人を懲らしめる為に、数十発のロケット花火を発射た話が愉快だったよ」
「ぁあ・・・そんなこともありましたね・・・・・」
そんなことも喋ったのか。一瞬、男装の小海を睨み、作り笑顔でアピールする。
「過去の私よりも今の私を見てから評価を頂けませんか?」
「うむ。そのつもりだ。早速だが、パソコンは使えるかね? 新しいものだが、使う人は少なくてね、持て余っていた」
「はい。バイトの経験がありますから」
「さすが、武が選んだ人だ。期待はしているよ」
社長室から出て、仕事場に向かう。
「それじゃ、いろいろ教えるよ」
「ああ。よろしく頼む」
数日後
山の公園
小海から教えてもらった公園で正彦はベンチに座り、息を吐いた。
ポケットから取り出したのは、昔の正彦を撮った写真だ。
「あれから、3年経ったな」
まさりは目の前の写真に声を掛ける。
「俺、やっぱり女として生きることをしたんだ」
「そりゃ、男どして生きたいけど」
「それじゃダメだと思うんだ」
天に願っても、叶わない夢。
もし願ったら、どんな顔をして喜ぶのか?
あんなに手を伸ばして欲しかったことなのに
「わたしは、おれは」
いかなる犠牲を払いながら捜し求めたもの。
そして今答えを見つけた。
「ありのままに生きる」
無理して変わっても、周りは変わらない。
大いなる流れは1人ではできない。押しされて流れて、集団を作る。
「・・・・・やっぱり苦労は終わりそうにないよ。でもーー」
まさりは苦笑をして、
「自分の生き方は絶対に貫ぐ」
遠い目で虚空を見上げた。そこはどこまでも澄み切った青い空があった。
「だから」
「俺、頑張るから」
白いケースに写真を入れた後、適当な所に石を置いて、その下に埋めた。
事務所に戻ったら、武が居た。
「どこに行っていたの?」
「・・・少しお別れを言いに行った。でも見守ってくれと言った」
「そうか。・・・・仕事、しよう。今日新しくやることになったことがあってな」
「分かった。詳しく聞こう」
正彦は青空を見上げた後、仕事場に消えてゆく。




