青春の夜明け
「夢か・・・」
小4の記憶、久しぶりに見たなぁ。
正彦は寝転びながら、目覚まし時計を止める。
朝の光が窓のカーテンの隙間から差し込んでくる。
「ううん・・・・」
きつくなった胸の苦しさでやっと眠気を振り払った正彦は
立ち上がる。
「よし。アルバイト生活、今日も頑張るぞ!」
数年後
某都市の古いアパート
板野 正彦 16歳 中卒
朝は忙しい。洗濯に出していた体操服の回収。簡単な朝食。今日の予定を確認しながら、長くなった髪を整え、ポニーデールにする。
腕時計を見ると、時間が危うくなったので、手早く、メモ帳、ポールペン、判子などをバックを詰める。
今日も外出服は体操服だ。普通の服だと、どうしても女服になるので、着られない。着ると吐き気がするのだ。大きくなった胸が憎らしい。
借りた部屋は1階の104号室。建てた年代が古いのが欠点であるが、正彦は気に入っている。
部屋から出たら、アパートの正門で掃除している大家さんが居た。
「おはようございます!」
「おはよう。今日は夜に良いことがあるから、早く帰ってきてね」
「は・・・? ああいや、夜までアルバイト漬けなんで、無理っす!」
「・・・・・・・・・・・・・通告はしたからね?」
30代の女性の大家さんなのに、妙な寒気を感じた。
「デ、デキルダケ、ガンバリマス」
「うふふ。約束よ?」
大家さんとの挨拶を済ませたら、次は仕事場に向かうだけである。
出動時間に間に合うように疾走する。
同日
駅前のコンビニ
8時30分
コンビニの裏口から入り、ロッカーに自分のバックを放り込む。メモ帳などはポケットに入れてある。その後、配布された仕事服を着替える。
「おはようございます」
背後から音。普段は驚くが、いつものことなので、返事する。
「おはようございます。瑞瀬さん。いつも気配を消すのがうまいですね」
「そう? 何もしてないわ」
腰まで届く程の緩いカーブをかかった髪。お嬢様のような態度を取る女性。金はあんまりないのか、服の派手度が低い。
「それよりも、今日は何時終わる? その・・・一緒に・・・食事に・・・」
「ええと、コンビニは15時に早退して、次はファミリーレストランで働いて、20時から廃品回収店で書類の整理など・・・・・・」
「あっそう。頑張ってね」
あっさり会話が途切れたが、正彦にとっては仕方ない。これも自らの夢を掴むにはこうするしかなかった。
「今度時間が空いたら教えてね」
「アルバイト全部リストラされたら教えます」
「縁がない事はあまり言わない方がいいわよ」
同日
14時55分
「それじゃ、正彦さん、上がっていいよ」
黙々とレジの計算をしていると店長に言われた。
「ありがどうございます。明日もよろしくお願いします」
「ああ。良く頑張ってくれるから、期待しているよ。・・・・ところで、出世に興味があるかね?」
「あははははっ。まさかそんな」
「だろうね・・・嫌々な心は分かったよ。頑張って夢を掴んでね」
「はいっ」
店長との会話を終えて、着替えて裏口から飛び出す。次はファミリーレストランである。
ーーーーーー
正彦は叶えたい夢が2つあった。
一つは男になること。最近になって性転換があるということを知った。死を伴うリスクもあるが、それずらを乗り越える覚悟が正彦はあった。
もう一つは将来の嫁を貰うこと。
こちらは実現が難しそうだ。そもそも性転換が成功した後のことを思い描いたものであり、叶える日には遠い。
6年経った今、桜子と小海は居ない。
桜子はアメリカに渡り、いろいろと壮大な仕事をやっているという。
小海は・・・・・・・行方が分からない。なにしろ、長崎から帰ってきた後、様々なトラブルを(主に正彦が)引き起こした為、別れてしまった。進路先も違うので、連絡は取ってない。やろうと思えばやれるが。
中学を卒業したら、すぐにアルバイトを始めようと正彦は決めていた。すべては本物の男に成るために。
母、笹子は高校を進ませたかったが、白熱の討論の末、3年やってみたら、ということになった。
こうして、正彦は多くのアルバイトをすることになった。
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同日
22時30分
某都市の古いアパート
「疲れた・・・・」
正彦は部屋に入るなり、倒れ込む。体力が化け物レベルであっても、連日での18時間通しのアルバイトは流石に限界だった。
「そーいや、通帳あんまり見てないな」
体を伏せたまま棚へ這いよる。ここだけ端から観れば変人と思われる。だが、正彦にとってどうでもいい。
「30万・・・まだまだ足りねぇ」
かっくりと肩を落とすと、ドアから叩く音が聞こえた。
「正彦さん、起きている? 今、アイドルが近くに来ているのよ! 見に行きましょう!」
「行くもんか・・・」
「あらそう? あっ今朝言った事、現金付きの手紙が来ていたわ」
「てがみぃぃぃぃ~~~~~?」
「良く分からないけど、差出人が、武 であだ名、小海って描いてあるんだけど」
「こ・・・こうみ・・・・・? っ!!!!
小海!!!!!!!!」
くわっと立ち上がり、ドアを勢い良く開ける。
「それを見せろ!」




