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追う子供


                 某日 

                某時刻

                桜子家


母の日を譲り受けたとはいえ、読めないと意味がない。

解読するには、桜子の知識が必要だ。

というのは、建前で、好きな人に会う為に口実を作ったのも理由の一つである。


「ごめんなさい。桜子は彼氏とデートしに行ったのよ」

「今日もか・・・・休日だから仕方ないな・・・」


桜子の親に言われては、これ以上食い下がっても時間の無駄だ。


「桜子なら、予定では水族館に・・・」

「あっ、いいです。失礼しました」


嫌な予感をしたので、話を仕切り、その場から離れた。


「図書館で調べるか・・・」


結局、自力で調べるしかなかった。



                  同日

                 某時刻

             図書館の入り口


国語辞典を取り寄せ、静かな部屋で解読作業を始める。

知っている漢字が少なかった。

一つの漢字にたどり着くまで相当の時間が掛かった。


「これは・・・夜になりそうだな」


小4のまさりに地味な作業に耐えるばすがなく、あっさり放棄した。


そうなると桜子に聞くしかない。


「あいつはあいつで楽しんでいるし・・・・う~~~ん」

「あれ? まさちゃん?」


ふと、クラスメイトの姿が視界に映る。


「川島 由良。どうしたんだ」

「それは私の台詞だよ。本を読んでいたの?」


肩からはみ出す程の長髪が特徴の由良はそっけなく尋ねてくる。


「いや・・・・たまたま手に入れた本が難しくてな・・・」

「ふうん。どんな本?」


どうせ、読めないだろうと決めつけて、由良に母の手帳を渡した。

すると、平気そうに、


「あ。なんだ。これ知っているよ」


予想外の言葉に目を丸くする。


「マジか!?」

「でも、ほとんどは読めないね。・・・あ。ここ、雅彦の父親の住所が書いてあるよ。長崎・・」


長崎。飛行機に乗って1時間で着くところだ。

しかし、飛行機に乗るには金が圧倒的に足りない。


「・・・・母のを盗るか」

「何をやろうとしているの・・・・・」


呆れた顔でまさりを見る由良。


               1週間後                        長崎


細い道の曲がりくねった先にある小さな店。

「みとせ寿司」

看板にそう書いてあった。


「いやー。着いたな」


喜ぶまさり。


「ホントにね・・・・」


ため息を吐く桜子。

ここまで辿り着くのにどれだけ道を間違えてきたのか。

それを振り返っても、数え切れない。


「しかし、桜子が来てくれるとは思わなかったぜ」

「笹子さんが頼んできたからね」


笹子の言う通りだった。


先日、母の貯金を盗ろうとしたまさりは小海にバレ、密告されてしまう。おかげで半日説教を受けたまさりは罰として桜子が同行することになった。

好きな人が一緒に旅行する事が嬉しい反面、疑いもあった。

桜子は母の手帳の内容を解読していた。

それを知りながら、一切語ろうとしない桜子。強引に聞き出したいが、空回りに終わってしまった。


こうして、今に至る。



店内に客は居ない。台所に立つ男女2人だけだ。


「すいません。勝島さんは居ますか?」


最初はまさりが尋ねた。


「・・・・・・」


大将らしき男が反応を示す。

目が合う。


「・・・・何の用だ?」

「俺、勝島に会いたいんだ」

今度はまさりが言い出した。

「ここには居ない」

「何故?」

「営業に行っている。しばらくは戻らん」

「いつ帰ってくるんだ」

「坊主。そんなに会いたいのか? ならば理由を説明しろ」


仕方なく、母の手帳を取り出し、とあるページを開く。


「ここに勝島の名前がある。俺はこれが読めない。何が書いてあるのか知りたい」

「見せろ」


大将に手帳を渡す。その人が読み終わるまでの間は少し緊張する。

やがて、大将は歯切れ悪そうに、


「・・・・むぅ・・・そうだな、儂から伝えておこう。ガキが会いに来たとな」

「それじゃ、物足りねぇんだよ!」


すると、後ろの扉が開く。

振り返ってみると1人の男が立っていた。おおよそ30代か?

右手に白い箱があり、仕事服を着ていた。


「配達終わりましたぜ!」

「・・・勝島。お前さんの娘が呼んでいる」

「え? 何かしたのかな・・・?」


「おい。待て」


気づいたら勝島らしき人を呼び止めていた。


「何だい。君」

「俺は板野正彦。・・・母の手帳に出てきたのは、勝島、お前か?」

「は? ・・・・何のことだ?」


勝島は大将から手帳を受け取り、読み始める。

その直後、たちまち顔が青くなる。


「え・・・・・。あ。いや、その、自分じゃないんだ・・・勝島は」

「言い逃れはできませんよ。さっき、大将が貴方を呼んでいた筈」


桜子が反論し、追い詰める。

勝島は散々考えた結果、


「・・・・分かったよ。話す。ついでに娘にも紹介する。付いてこい」


その言葉を聞いた瞬間、カッツポーズをするまさりであった。

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