母の手帳
某日
某時刻
小学校内の図書室
「女服?」
まさりは嫌な顔をしながら、言葉を繰り返す。
「そ。まさりはどこかに行くとき、男のまんまじゃ困るでしょ」
「そんなに困らないと・・・・」
思うぞ、と言いかけて、心当たりがあった。
「そーいや、先生に、トイレに入る時、男と女どちらにするのか、はっきりしてくれ、と言われた事があったな」
「まぁ、まさりのことだから、堂々と男のトイレに入っていくよね。つーか、男にしか見えない・・・・」
「小海は?」
小海と言われた女装をしている人は遠い目で、
「ん、それなりに困っているかも・・・」
「かなり、だろ?」
「でも、黙っていれば、バレないし」
「そりゃ、お前が女に見えるくらい無駄に綺麗だからな・・・」
「ただ、母さんからは、女のは入るな、男のを使え、と」
「流石に困るな、それ」
まさりは苦笑した後、図書室の本棚に寄る。
会話が繋がらない。まさりはそう感じた。
テーマがあり得る問題だけに強く出る事ができなかった。
「・・・・久ぶりにまさりモードを解いてみるか。なあ、要らない服はあるか?」
「あるけど・・・髪はどうするの?」
「秘策がある。任せろ。後はメイクの仕方は」
「今はしなくていいよ。ノーメイクで良し。・・・あ。私も男になってみようかな。そうしたら、私たち、カップルに見られるかな」
「そうなるといいだが・・・不安が残るな」
問題はある。元々なりたい自分を演じてきた人がいきなり素に戻ってみたらどうなるのかは不透明だ。
それどころか、失敗もあるだろう。口調もやや曖昧なイメージになる。
特に問題なのは、小海の髪だ。
男になるならば、髪をさっぱり切った方がいいだろうが、本人は拒否するので、ポーニーデルになる。
「それが見た目にどう影響するのか・・・」
「とにかく挑戦!」
「そうだな・・・やるか!」
翌日
某時刻
板野家
珍しく母は居なかった。まさり曰く、「母は仕事で忙しい」のこと。
「まー。気にしない!」
まさりは自分の家に友達を誘ったことはあるが、「まさり」になりきった後はそういうことは無かった。
つまり、まさりは今日で初めて、意中の相手を誘ったことになる。
とはいえ、目的は変装なので、あんまりどきめいた雰囲気にならないが。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「下がスースーする」
「私、もの凄く格好悪くなった」
着替えが終わった2人はどのくらい変わったのかというと、
「「君、誰?」」
お互いの顔が分からない程、変貌しちゃったりする。
そこへ、政彦の母が帰宅。
「いやー。疲れたわ・・・・・・・・・・・・・・・・・って、誰!!!!!?????」
軽くパニック状態になる政彦の母に事情を説明する。
「わっはははは。そんな事だったの。いやー焦ったわ。あ。小海って言うのね。私は、板野 笹子。こんな娘ですが、よろしくお願いします」
「言っておくが、この人、柔道5年連続全国ベスト3入り経験者だ。今でも強ぇぞ」
「ベスト3!?」
「ええ。高校と中学の際ね。当時は弱いのがいっぱい居たから楽だったわ」
「と、こう言っているが、あの人に敵はなし、って数年前の雑誌に」
「うそん。・・・ん? あれ? 高校と中学・・・全部6年ですよね? 残りの1年は?」
「俺も思ったんだが・・・調べたところ、最後の1年は全国どころか、地方大会も出てない」
疑問に思った小海とまさりが問い詰める。
「・・・・それは秘密よ」
政彦の母こと、笹子はそう言ってこれ以上語らない。
同日
某時刻
板野家
小海が帰った後、まさりは宿題を済ませ、お風呂に入った。
その後、テレビを見た。この時、笹子は手帳に何やら書いているのを目撃した。
見せて、と要求する。当然断られた。強引に奪い取ろうとしたが、無理だった。
笹子がお風呂場に向い、まさりはテレビの前でのんびりしていると。
手帳がデープルの上に置かれているのを気づいた。
欲望に従い、手帳を開いてみる。
難しい漢字が並んでいた。
小4である政彦こと、まさりにとっては暗号と等しい。
「仕方ない。携帯電話で撮って、桜子に解読してもらおう」
桜子は難しい漢字が読める。桜子曰く、「これぐらい、当然よ」のこと。
手帳の内容は理解出来なかったが、最後の一行は読めた。
今日書いたものだ。
「もう10年も経った。時効は過ぎた。これからは忘れよう」
何だこりゃ、と呟いたら、笹子と目が合う。
すぐに手帳を取り上げられる。
まさりは見た。笹子の、困惑に包まれた顔を。
「・・・・10年前に、何が」
「今は知る必要は無いわ。でもーー」
笹子は何か思い直したのか、手帳をまさりに渡す。
「どうしても知りたかったら、1人でやりなさい。私は知りません」
「・・・いいのか?」
「あんたのことだから、何とかなりそうだし・・・・子供が1人で電車に乗れたって話は滅多に聞かないからね。本当にあったら驚くけど」
「ふ~~~~ん」




