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現世の魔法使い  作者: yuki
第二章
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回帰

 翌日から影人は鳴として学校に復帰した。

 学校中を騒がせていた物言いはすっかり身を潜め、今は完全に普通の人として生活に溶け込んでいる。

 周りはこじらせていた厨二病が突然治ったことに驚いていたが、好意的に解釈されているようだ。

 中にはそのままがよかったと公言する数奇な生徒も少人数いたが。

 

 時を同じくして香奈とも連絡が付くようになった。

 実家の父親が突然倒れ、意識不明に陥り一時期は生死の境を彷徨っていたが、幸いにして危険な状況からは抜け出せたと語った。

 1週間程度で学校にも復帰すると書かれたメールに4人はようやく安堵を覚える。

「これでまた5人揃うな」

 光輝の言葉に優衣も嬉しそうに頷いて見せる。

 オリエンテーションでたまたま組んだのが始まりだったけれど、全員が同じ魔法使いだったこともあって幼い頃からの友達のようだった。

「5、人……?」

 しかし、鳴だけはこの"5"と言う響きにどこか奇妙な違和感を抱いていた。

 一人一人に視線が向けられていく。

 朗らかな笑顔を浮かべている優衣。その隣で熱心に話し込んでいる光輝。それを邪険に扱いつつ優衣の傍に寄っている香澄。この場にはいないが毎度毎度変なネタで絡んでくる香奈。最後に自分を加えて5人。

 何も間違っていはいない筈だと思いつつも、靄は晴れない。

「俺たちの班は5人、だったよな」

 生まれた靄を晴らす為にも鳴はみんなに向かって疑問を投げかける。

「ああ。このクラスは41人だから5人の班が1個できちまうからな」

 何を今更、とばかりに光輝が言う。優衣も香澄も不思議そうに鳴を見ているだけで、質問の内容を疑問に思った様子はない。

「そうか。そうだったな」

 鳴も光輝にはっきりと言われたことでいつの間にか浮かんでいた靄は綺麗に消え去っていて、先ほどいったい何を疑問に思ったのかすら忘れていた。

(初めから5人だったじゃないか)

 オリエンテーションの自由時間に参加させられたメイド喫茶でのイベントも、5人全員で参加してそれぞれ入賞を果たした。

 あれからまだ大して時間は経っていないと言うのに酷く懐かしい気がする。

 まさか大衆の前であんな台詞を吐く羽目になるとは、と鳴は思い出しつつも、悪い気はしない。

 光輝は体力勝負を、香澄はクレームの対応を、優衣は香澄とツイスターゲームを。そして香奈は……。影人の思考が停止する。

(……香奈は、何をしたんだったか)

 確かに覚えているはずなのに思い出せない。空気を掴むような感覚に戸惑っていると教室のドアが開き教師が手を叩いて着席を促した。

(まぁ、いいか)

 授業が終わる頃には何を考えていたのかすら、綺麗さっぱりなくなっていた。それこそ、不自然なほどに。

 

 長い授業が終わると生徒たちは解放感に包まれ、誰しもがその日一番の明るい表情を作っていた。

 部活に勤しむ人、友達と寄り道して帰る人、さっさと帰って遊ぶ人。それぞれの予定に心躍らせて、暫くの間校舎は喧騒に包まれる。

 優衣達もそのまま帰る気はせず、かといってどこかに寄り道する気も起こらず、一人、また一人と帰っていく教室の中で丸くなって談笑していた。

 鳴が"影人"を辞めたことはその日の夜に伝えられている。反対する人は誰も居なかった。

 光輝も香澄も魔法使いになる選択を後悔していない。

 

 昨夜、電話で光輝にその事を告げた時、彼は優衣にこう言った。

「優衣も無理に付き合う必要なんてないんだぜ」

 彼からすれば理解者が得られるだけでも僥倖だったのだ。ずっと何かを一人で隠し続けるのは意外としんどい。

 優衣も魔法使いになったことは後悔していない。寧ろ感謝すらしている節がある。

 知らない所で兼ねてよりの親友に何かあったらそれこそ冷静でいられないだろうから。

 とはいえ、性別が変わってしまった事に関しては今でも元に戻る方法を諦めていなかったが。

「俺がアニメや漫画を好きになったのも影人と同じだよ。自分は同じことをしてるって酔ってた部分はあるからな。流石にキメポーズとかキメ台詞までは考えなかったけど」

 お話の中に出てくるヒーローと光輝がやっている事は同じだ。でも、決定的に一つだけ違う点がある。

 彼らの行いを知る人が居るかどうかだ。

 例え孤高のヒーローが描かれていたとしても、光輝は読者として、ヒーローがした事を知っている。

 光輝は自分の力を知られる事を恐れつつも、自分を知ってくれる人を欲していた。

 二律配分の欲求をお話の中に求めたとしても不思議はない。というより、そこしかなかったのだろう。

「初めは少年漫画的な物だったんだけどさ、ある日なんとなく魔法少女物を見た瞬間、俺は人生の9割を損してたと思ったね。敬遠してた過去の自分をぶん殴りたい気分だよ。敢えて言おう、萌えは世界を救うと」

 結果、今ではお気に入りとあらば深夜だろうが生で見て実況スレに出現するくらいどっぷりと浸かっている。

 

 香澄もまた突然ではあったが魔法使いになったことを後悔していない。

 契約するリスクはナムが一番丁寧に話した部分だ。

 香澄の事を気に入ったナムは契約を望みつつも、拒まれようと魔物からの脱出は手伝うつもりでいた。

 一方で香澄は日々の生活の裏にこんなファンタジーな世界があったこと、優衣や光輝がそんな世界に住んでいた事をしって少なくない衝撃を受けた。

 今のままではどうやっても光輝に勝てないことくらい香澄にも分かっている。

 優衣を追い続けてきた彼女は視線の先に誰が居るかを把握していた。抱いている感情が全幅の信頼や羨望、憧れの類であることも分かっていた。

 男同士ならこの感情を親友同士の熱い友情と称することもできよう。だがこれがもし男女間に変われば恋心以外の何物でもない。

 まだ"男"であろうとしている優衣は気付いていないし、光輝も優衣を"男"として見ているから表面上は何も変わっていないが、こと恋に限っては薄氷一枚の均衡がいつ崩れてもおかしくない。

 変わっていないのは2人の頭の中だけで、現実の2人は立派な男女なのだから。

 かつて、線を引いていた香澄が優衣を好きになったように、何がきっかけとなって関係が発展するかは神のみぞ知る世界だ。

 だからこそ香澄は優衣や光輝と同じ立場に立つことを望んだ。愛故に。

 自分に目を向けてもらう為、今よりもっと関係を進ませる為、これからの未来をチップに賭けに出た。

 

 彼らが魔法使いをやっているのは自分の都合なのだ。

 鳴が"影人"を続けても辞めても、友達でありさえしてくれれば不満などあろう筈もない。

 

「そうだ、昨日は言えなかったな。夕飯ありがとう」

 あろう筈もないのだが、全く別の所から不満は噴出した。

 

 そもそも優衣が鳴に夕食を作ろうとしたのは、前に鳴の家へ勉強しに行ったとき、冷凍食品のゴミが幾つか捨てられていたからだ。

 オリエンテーションで料理ができる人、という光輝の質問に手を上げなかったことからも分かる通り、鳴は料理が得意でない。

 簡単なインスタント食品であれば作れるが凝ったものは難しく、どうしてもお弁当や冷凍食品に頼った生活をしていた。

 学校に来れない程弱っているのは分かっていたから、なら少しでも栄養のつく物を、と思ってだ。

「どういたしまして」

「優衣は作るの上手いからなぁ。今度俺にもまた作ってくれ」

 光輝も優衣の手料理を食べたことがある。

 両親が留守の時や休日に遊びに来た光輝がご相伴に預かることは少なくない。

 つまり、この場で手料理を食べたことがなかったのは香澄だけ。

 ずるい、と香澄が小さく漏らす。

「私も食べてみたい」

 オリエンテーションで優衣は殆ど一人でカレーを作ってくれたが、あれはみんなの為に作ったのであって、香澄の為に作られたわけじゃない。


 朝起きて台所に行くとお味噌汁の香りが漂ってきて、エプロンをつけた優衣の後姿が見える。

 隣に立つと春の陽だまりの様なぽかぽかする笑顔でおはようと声を掛けられ目が合った。

 互いに視線が外せなくなってじっと見つめ合っていると優衣が恥らいながら目を閉じる。

 ほんのりと朱に染まった頬に手をかけると長い睫が緊張からか微かに震え、朝食の前にその唇を……。


「香澄は食い意地張って……ってぇ!」

 頭の中で再生されていた妄想が途中で断絶された事と食い意地が張ってる扱いされたことに、香澄は普段より容赦なく光輝の脛を蹴りあげた。

「あと少しだったのに!」

 1発では飽き足らず、続けて数発打ち込まれると光輝が慌てて距離を取る。

「何があと少しだったのかは分からんがさっきのは謝る! とりあえず落ち着け!」

 机を挟んで睨み合う2人に、優衣と鳴は平和を実感していた。

「なら香奈が戻ってきたら俺の家で何かするか?」

 鳴がそれならば、と出した提案に異論があろう筈もない。広い彼の家は集まって何かをするには最適と言えた。

「いいなそれ、じゃあ何するか」

 みんなで集まって騒げるのであればゲームでも宿題でも目的はなんだってよかった。

 けれど香澄は先ほどの妄想が抜けきらずに、ついうっかりと口を滑らせる。

「泊まり、とか」

 

□□□□□□□□□□

 

「心配かけちゃったかなー」

 1週間かかると言っていた香奈はそれより早く復帰することが出来た。

「お父さん、もうすっかり良くなってね、今は退院の日取りを決めてるんだー。学業に専念しなさいって言われちゃって、もう少し休めると思ったのになー」

 想定外だよ、と言う香奈の笑顔は普段と比べて元気がなく、どこか寂しそうですらある。親が倒れた事を未だ心配しているのは想像に難くない。

「あのね、今週末もしよかったらみんなで遊ぼうっていう話が出てて……」

 今週末、といっても今日は既に金曜日。となれば当然明日は土曜日なわけで、猶予は1日も残されていない。

「鳴の家で泊まりって話が出てるんだけど、どうする?」

 

 影人が鳴に"なった"ことは香奈にも伝わっている。

 普段から鳴の台詞を弄っている香奈は残念がるだろうかと優衣は思ったが、想像に反して香奈は驚くほど喜んでいた。

 魔法使いを辞める事に関してもどこか安心した素振りさえ見せている。

 力の大きさ故か、魔法使いは何かしらの代償を勝手に払わされている事が多い。

 危険な戦闘に参加する事自体も代償だが、それよりもっと直接的な、人の生き様に関係する様な何か。

 光輝は自分の願いを、影人は家族との関係性を。長く続ければ続けるだけ失う物は大きくなるのかもしれない。

 香奈が鳴の決断に安心したのだって、長く続けてきたなりに思う所があったのかな、と優衣は思った。

(だとすれば、ボクの代償は性別ってこと?)

 

「あたしも行こうかな」

 香奈の返事によって優衣の意識が強制的に現実へと引き戻される。

 今回の泊まりの趣旨はあれから少し変わって、沈んでいるであろう香奈を元気づけるという目的が出来ていた。

 隠れた主役が参加してくれたことに内心小躍りしながら当日は何をしようかと考えをめぐらす。

 その時、不意に香奈の笑顔に陰りを見つけた気がした。

 まるで老人が過去の輝ける写真を見た時のような諦めや寂寥感。

 時間にして瞬き1回分くらいのほんの短い時間が過ぎた頃にはいつも通りの表情に戻っていて、見た物が幻なのか現実なのか、優衣には判別がつかなかった。

「何かあったのか」

 けれど、鳴には判別がついたようだ。確信に満ちた声に香奈が珍しくも驚きの声を上げる。

「できる事なら手を貸そう」

 気遣うような物言いに香奈は少し考えるそぶりを見せた後、いつもより柔らかく告げた。

「なるくんのままでいてくれればそれでいいよー」

 その意味を正確に推し量れた者は、多分誰も居ない。

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