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Act 1 Scene 3

霧散していた意識が徐々に集い、自分という存在を確立していく。最初に感じ取ったのは夜の空気の冷たさ。次に、夜の静けさ。これらの条件立てから、彼はここが自分の部屋で、あの頭痛で気絶してからあまり時間がたっていないだろうと考えた。しかし、その考えはすぐに否定された。なぜなら、今自分がいる場所に、自分の部屋としてきた場所に…






−光など無かった−






何も無く、触れた物だけを認識し、空白の時間を過ごしてきた。何もない事から、闇に閉ざされているからこそ、そこが自分の居場所と捉えていた。だが今は違った。そこに在るのは月明かりに照らされた、殺風景な空間だった。白い壁、自分の寝床としているベット、夜明けともなれば日差しの射し込むであろう窓。いきなり『闇の中』という世界から引きずり出され、狭いながらも初めて知った『自分の部屋』。そして、その世界とちっぽけなガラスを隔てて広がる『本当の世界』。それは、彼にとって衝撃的なことであった。脳になだれ込んでくる莫大な情報を理解しようとするだけで、脳内の神経が残らず焼き切れそうになる。

「…生き、てる…」

それでも、こんな言葉が出たのは初めて自分という存在を認識したからであろう。

自分の思い通りに動く四肢を見るだけで、生きているという実感が湧いた。そして自分の周りにあるモノを認識できたおかげで、空白だった心が急速に満たされていった。それは恐怖心でもなく疑問でもなく、純粋な好奇心だった。人間としての純粋な欲求の衝動に駆られたカイトは、すぐにベッドから跳ね起きた。そして、自分の部屋と外の世界を区切るドアに手を掛け、小さな世界から跳びだした。




夜の外は、無情にもただ風が吹くばかりだった。谷間から吹き抜ける風は、微かながら霊子エーテルを纏っていた。そして、その風を今なお浴び続ける人がいた。金色の長髪を風の流れに委ねて、ただそこに佇んでいた。何も無い場所を見据える双眸は、全てを見通してしまうかの様だった。射抜くように、見えない『何か』を必死に見ようとしていた。瞬間、微かな『形』を認識した。それは、先程まで見据えていた場所に現れた。

目標を認識すると、彼女は、静かに夜の空を駆けていった‥‥‥。




広がった世界は、明るい闇に覆われていた。夜の暗闇を照らすのは、窓から差し込む月の光だけであった。だがその光が、彼にとって喜ばしいことだった。今は、暗いと思える事が何より嬉しかった。以前までの何もない世界とは違い、『暗い』という世界の色を認識できる。自分のすぐ右にある窓から見える月が、薄明かりながらも自分の世界を照らしていた。左に見えたのは薄暗い廊下だった。廊下の奥に見えた向かい合った二つの扉が、他の部屋が有ることを表していた。その手前で十字に交差した廊下によって、更なる広がりを理解した。交差した廊下の右側には、上階へと続く階段があった。そして、一歩踏み出したその時‥




‥‥カツン‥‥




木製の床を打ち鳴らす甲高い音が響き渡った




‥‥カツン‥‥




確実に近づいてくる足音




‥‥カツン‥‥




―それは―




‥‥カツン‥‥




−彼を−




‥‥カツ、ン‥‥




目の前に現れた金色の長髪の女性は、

「こんばんは‥‥」

深い慈愛の笑みを浮かべて、

「‥‥さようなら」

そう告げた




−殺しに来た、天使だった−

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