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act.9山と危機はいつも紙一重

 はい、山籠りです。でも濃縮しすぎた感が……あれぇ?

act.9山と危機はいつも背中合わせ

 一週間の期間はあっという間に過ぎた。彼らの成長はかなりいい。羨ましい位だ。投げる時に武器を弾きつつ関節を決める事を覚えたり、まわりが虚無の空間に感じる程精神を統一できるようになったり、至近距離でのナイフを全てかわせるようになったり、ありとあらゆる戦闘パターンを経験したり。

 俺に関しても、筋肉がついて来たらしくスクワットが十回で限界だったのをこの一週間で六十はできるようになったし、二時間走っても以前より息が切れなくなったし休憩も少なくなった。いやまこと有意義な一週間でした。

 で、一週間の後、俺達はお楽しみ……かは分からないが、とにかく山籠りに出かけることになった。持っていったものといえば、各々の軍服や装備品、それと俺が丹精込めて一枚一枚手書きで書いてやった―――あとから色々誤字脱字が指摘された―――愛情こもったしおりだ。食料品? 持って行ってないよそんなもん。ちなみに俺の服装は迷彩服。昼はデザートタイガー、夜はナイトデザートという迷彩だ。ナイトデザートは本来夜間の砂漠、岩地用のものだが、思うより高い迷彩効果を森林でも得られたのでこちらを採用した。黒単色より効果たけえよ。フェイスペイント? 流石に今回はしていない。てかいらない。潜入はしないもん。

「先生? なぜに迷彩服なので?」

「いや、これしか持ってないから……あとタキシード位だぞ? それに万が一敵さんの襲撃が無いとも限らん。備えあればなんとやら、だ」

「何故にタキシード!? まあいいや、それで、今後の予定は如何します?」

「基本はしおり通り。あと訓練ったって走りこみと俺との組み手だから」

 えー、という各隊長の心の声が聞こえてきそうだ。

「それ山の中でやる意味はあるのか?」

「当り前だろう」

「じゃあ何故です?」

 さっきから質問攻めだな―俺。

「俺の国では昔っから修行は山と決まっているんだよ……何て答えじゃあお前達は納得しないよな。

 詳しく言うと、山というのはとんでもなく高いのは分かるな。で、高い所は酸素が薄い。つまり体に負荷がかかりやすくなる訳だが――――――」

 ここまで言って、皆の顔が理解できていない事を示していると気付いた。

「どうした?」

「さんそ?」

「へ?」

「さんそ……って何ですか?」

 ま、まてこいつら酸素を知らんのか!?


 あー……思い出した。この世界に科学は無いんだったか。

「簡単に言えば俺らが呼吸するときに体内に取り込む空気中の物だ。で、高い所ってのはこの酸素っていうのが少なくなっていて、その分体を動かしにくくなる。

 まあそういうの無しに言うと、とにかく体に負荷をかけるから体がより強くなる。それとこの環境に慣れると体はより少ない呼吸で今までと同じ運動ができる」

 おお、という声と共に納得してくれたという意思が伝わった。一件落着。

「よーしじゃあ走るぞ~。まずは頂上目指して一直線! 行くぞおらぁ!」

 俺が先頭になり、六人の前を走っていく。ここから頂上まではおよそ2km、そして現在地標高が300m、頂上は2350mだ。俺持つかなぁ。あと傾斜はそこまできつくない。

「あと俺は一定のペースで走る。俺が頂上に到着して一五分以上遅れた奴はもう一往復な!」

 この言葉を聞いた途端、ほぼ全員が俺を追い抜いて行った。頑張るなぁ。そんなに飛ばして持つか?


 案の定、1kmほど進んだ先では早速第六隊隊長のデフィアがくたばっていた。まあ何という事でしょう。

「ホラホラーどうしたデフィア。置いてくぞー」

「ぐ……! くそっ!」

「よーしその意気だ! ほれ頑張れ! あと今日の夕食は山籠り初めての日だから多分豪華だぞー」

「な、何ぃ!」

「でも遅れたら食う前に無くなるかもなー」

 その言葉を聞いた瞬間、デフィアが再加速した。だからそんなに飛ばしたら持たないんじゃね? あ、ちなみにデフィアは結構食いしん坊さんだ。この前も昼食に一人前であるはずの定食的セットを二つペロリと平らげていた。

で、1kmと500mほど行ったら今度はレムがくたばってる。おいおい情けない……

「全く……近距離戦闘がスタミナ不足だとすぐくたばるぞ―!? もう一往復したいかー?」

「う……そうだ、先程イゼフが吐いていましたが大丈夫でしょうか?」

「何?」

「すぐ復帰していましたが……結構ハデに吐いていましたよ」

 そうか、さっき見かけた黄色い液体はそれか。触診しなくてよかった。

「そうか、後で見かけ次第……ってアイツは自己治療できるだろう」

「それもそうでした。では、お先に失礼します」

「おう、がんばれー」

 レムの赤いロングの髪の毛が去っていくのを見届け、俺はペースを保ち続ける。うむ、この世界は意外に酸素が薄いらしい。まだ少ししか走っていないが、山籠り経験のある俺でも呼吸が辛くなってきた。やばい結構キツイ……まあ走るけど。



 後はくたばっていた者もなく、皆無事に頂上にたどり着いていた。一人を残して。

「おう、お疲れさん。で、ゼルキスは?」

「あれ? そう言えばいない……」

 アクトは何か一番最初に着いたらしい。息切れももうほとんどしていない。流石ビーストの中でもオセロット種なだけある。あ、そうそうビーストってのはこの世界で最も多い種族で、中でもオセロット種やライオン種、ラビット種など様々に分かれる。いわばビーストというのは○○色人種、といった括りでさらに○○人、という括りが存在するようなものだ。

 で、アクトはオセロット。まさに山猫部隊。ゼルキスはタイガー種、デフィアはウルフ種らしい。

 で、ゼルキスは結局迷子になったらしい。まったく面倒な。この森林地帯では空を飛べる能力がある俺やイゼフでも捜索は困難。しかし予めこういったことは想定して、全員は魔力を使い上げる事ができる狼煙を持っているはずだ。後十分で指定されたタイムリミット。それを過ぎたら狼煙を上げることにしよう。もしコース内にいればもれなくもう一往復付きだ。



 十分経過。俺はその旨を伝えると、セシアが狼煙を上げる。しばらくして、コースから少し外れたところに狼煙が上がる。よし、迎えに行って来るか。

 皆に言い残し、俺は風を使い一直線にゼルキスが狼煙を上げたポイントへ飛んだ。おーいたいた。おーい生きてるか―?

「助かった……!」

「お前タイガー種だろ!? 何故道に迷う!?」

「いやぁ……タイガー種の頭は基本的に残念なんだって」

 自分で種族否定しちゃったよコイツ。まあいいや、俺は彼をコースに誘導しゴールへと向かった。着いた時には皆心配していたようでゼルキスに声をかけていた。

「さて……ゼルキスも到着して皆集合したな。じゃ、組み手いくぞー」




 そんでもって俺達は基本、動植物を山から直接頂いてその日の食料にする日々を過ごしていた。何故現地調達かって? その方が籠ってる感あるじゃん。

 まあ流石に蛇を食った時には何故か引かれたが。あれ? なんでヴァンパイアのイゼフちゃんまで引くのかな?




 山籠りも折り返しを過ぎて6日目。その深夜だ。皆慣れてきたのか、最初の方は疲れで逆に眠れていなかったのが今は普通に眠っている。うむ、良い傾向だ。

 何故自分は起きてるかって? 単に火の番をしてるだけだよ。暇つぶしにCQCの練習もしてるけど。あと蒼鬼で素振り。俺も毎日こいつらと鍛えているおかげか、だいぶ体力がついてきた。やっぱ健康には運動が一番ね!

 と、その時枝が折れる音が微かに聞こえた。俺は気付かない振りをして素振りを続ける。さり気なく居合のフリをして音をよく聞く。集中するフリしているためか気付かれていることに気付いていない。愚かな。

 ヒュッ、っと風を切る音と共に炎が飛んできた。あぶね―じゃねえか。俺は風を使い炎を掻き消す。

「おい皆……って起きてるよな」

 ニヤリ、と俺は笑った。アクトが寝ている体勢から先程の位置へ魔法具で氷を乱射した。ぎゃあ、という悲鳴が聞こえたのだから恐らく当たったのだろう。

 すると、七人の巨人っぽいのが出てくる。といっても2m位の身長だが。それでも大分強そうだ。

「ふむ、七人か。よし、お前ら。一人一体な」

 俺はそう言うや否や蒼鬼を手に突っ込む。

「また……そんな無茶を……」

「ま、先生の無茶は今に始まった事ではない」

「そう言う事。オラオラオラァ!」

「ふう……しかたない、全力で行かせてもらいましょう!」

「はわわ……ええと……えいっ!」

「修行の成果を試すと思えば苦じゃあないな。行くぞ!」

 俺は蒼鬼に高圧電流を纏わせ牙○を胸部に見舞う。装甲部分だった為、吹き飛んで気絶で済んだようだ。といっても少なくとも朝までは目覚めまい。

 アクトは氷の弾丸を先程と同じく撃ちこんでいく。体温低下が目的のそれは、あっという間に巨人を氷漬けする。

 レムは炎を纏わせた双刃で五回程切り刻む。意外に深く切り裂いた為、巨人は致命傷ではないもののもう動けそうにない。

 ゼルキスは身体強化で素早さを上げ、一気に脇下を殴って動きを止め、延髄に蹴りを喰らわせた。無論抵抗虚しく気絶した。

 セシアは地面を割り、下半身を土に埋める。その上から思い切り岩を落として気絶させたようだ。

 イゼフは剣に援護用の特殊魔法を纏わせ、叩く。見た目は軽く叩いた程度だが、魔法は衝撃を何倍にも増加させて容易く気絶させる。

 デフィアは遠距離から圧縮した風を撃ち込み、動きを止めたところを槍の柄で思い切り殴り、気絶させる。


 全ての巨人が沈んだのは登場からものの一分とかかっていない程の短い時間。一応、アクトに頼み全て足首と手首を凍らせて気絶が回復してもしばらく動けない様に拘束する。

「さあ、最後はアナタの番です」

 セシアが弓で狙いをつけ、撃った。木の葉の影に隠れていたようだが、見事に的中。鳩尾に尖っていない矢をぶつけたらしく、悶絶しているところに冷気の追撃。

「やるなぁ。よし、お前らよくやった。なんだ、思ったより修行の成果が出てるじゃないか」

「自分でもびっくりだ……あの巨人は俺達部隊が全員かかってももっと時間がかかっていたのに……」

 それぞれが先程まで寝ていた中央の多少開けたスペースに帰ってきた。しかし……

「くっ!?」

 レムの左肩を何かが掠めた。それでレムはバランスを崩す。レムの後ろの地面には一本の炎を纏った矢が突き刺さっている。もっとも、その炎も地面に刺さりすぐに消えたが。しかし、無情にも再び弓を引く音が聞こえる。

「まず……ッ!」

 考えるより自分の体が先に動いていた。この中で間に合う範囲にいるのは俺だけ……!

 反射的に雷で速度を強化した俺はレムに背を向けるように立ちふさがる。

 ドスッ!

「が……ッ!!」

 俺の右肩に矢が刺さる。炎を纏ってはいない。慌てて第二射を放ったらしい。激痛が体中に走り、声が漏れる。

 続いて右、左と太腿に矢が突き刺さり、左右の脇腹にも矢が飛んでくる。

「ぐう……ッ!!」

 そんな俺の目の前に深緑色の服を着た何者かが飛んでくる。それと同時に俺を両刃の刀で腹部を突き刺す。貫通こそしなかったがかなり深く突き刺さった。また、魔力の矢だったのか先程地面に突き刺さった矢と体に突き刺さった矢は消え去っている。

「か……ハァッ!」

「せ、先生!!」

「貴様ァ! よくも!!」

 視界に僅かに吹き飛ぶ新緑色の服を着た男が見えた。どうもゼルキスが吹き飛ばしたらしい。だが、俺はそれをハッキリと認識する前に倒れてしまったらしい。

 はい、何やら「先生ーーーー!」な感じで終わってしまいました。拓海は無事なのか? それともなにかしら後遺症を抱えるのか? その結果は次回のお楽しみに……あ、やめて失望したまなざしを向けないで!

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