act.8訓練は好調なり
次話、やっと話が前進します。
act.8訓練は好調なり
あの歓迎会は、はっきり言って俺は委縮しきってほとんど覚えてない。椅子に座った瞬間記憶が記録されなくなった感じ。言われたことといえばあんま覚えてないし食ったものも覚えてない。もったいない……
だが、少しは覚えている事もある。ある会話だ。この会話の時だけは皆真剣な顔をしていた。どんな話かといえば、やっぱり魔王軍や今後の日程に関して。俺が聞いた限りだが、魔王軍というのは俺達で言うところのチンピラ共が酷くなった感じ。元は落ちこぼれだった奴らが集まり、非道の限りを尽くしているらしい。更生の余地もないような輩の集まりで、強盗や殺人、誘拐などを重ねているそうだ。
今後の日程については、主に訓練云々について。彼らがいままでどんな訓練を行ってきたか、各隊の特徴はどんなものかなどだ。そうそう、国王直属部隊はそれぞれ得意分野ごとに集まった隊で、上下関係などはないらしい。第一は銃撃戦、第二は魔法での近接戦闘、第三は単純な近接戦闘、第四は遊撃、第五は援護、第六は遠距離魔法、がそれぞれの得意分野になっている。それぞれが補い合うような関係らしい。
翌日、俺達は早速訓練に精を出していた。主な方針としては基礎訓練をメインにし、あとはそれぞれ別々の訓練を行わせる。
「よーし、じゃあ各隊そこを……そうだな、十周特定タイム以内にクリアして。それが終わったら各隊毎に俺の指示を仰ぐように! じゃ、特定タイムの発表だ、心して聞けよー」
各隊の隊長とその隊員が唾を飲む。ここは一周約200mであり、合計走行距離は2kmになる。
「十周五分以内だ! 一周30秒位で走れば基本的には大丈夫だが……ま、お前たちならやれるだろう。では、よーいスタート!」
俺はストップウォッチをスタートさせた。同時に走りだす36人。国王直属部隊は各隊隊長一人、隊員五人の六人編成。勿論隊長にも走らせている。
「おう第一部隊! ペース落ちてるぞ大丈夫かー? おし、ただいま3分! 後2分だぞー」
ペースが落ちたと言っても誤差程度。だけどこの差は後に大きくなる。
「よし後30秒! ホラホラ後少しだ頑張れ―!」
全ての隊はあと少しでゴールする距離にいる。流石軍隊、体力あるなあ。
全ての隊がゴールした。最後の第五隊は4分42秒。なかなか好タイムだ。
「よしお前ら良くやった。あ、これは毎回やるからそのつもりでな。基礎体力は走りこみが一番だ、精神力もつくぞー」
皆の顔が一瞬蒼くなった気がする。まあこれ位で音を上げる彼らではあるまい。
「よし、三分休憩後、各々の隊長が俺に指示を貰いに来い。では解散!」
三分後、六人共俺のもとに集合する。第一と第六には緊急用の近接戦闘、第二第五は魔力増強の為の座禅。第三は攻撃回避手段、第四は対応出来る場面を増やす。
第一と第六は近付かれたら終わる。となると、護身程度でも近接戦闘はマスターせねばならない。俺は柔道の要領で、敵の攻撃をかわしつつ投げる方法を教える。うむ、なかなかの見
込みが良い。組み手を中心にやらせるが、今日のところは及第点。よし、明日は投げて気絶させる術を教えておこう。気絶させて行動を奪えばこちらがイニシアチブを握る事ができる。
第二と第五は主に魔力に頼る戦い方を行う。ならば根本的な魔力およびチャンスを待つ精神力が必要になる。となるとやっぱ座禅一番! 他の隊が行う訓練を気にしない程まで集中させることが今日の課題。それをずっと維持させることができれば及第点。
第三は近接戦闘での回避を徹底的に叩き込む。彼らは最初の内こそ俺の攻撃を面白いように喰らっていたが段々とかわせるようになってくる。うむ、次からはカウンターをさせてもいいか。俺がしばらく見本を見せた後は二人一組で組み手をさせる。全てかわす事が今日の課題だ。
第四は遊撃故に様々な場面に対応する必要がある。三対三で交互に攻守を行わせ、組み手の要領で教えていく。お互いが二回ずつ攻守を行ったらメンバーをチェンジさせ、繰り返す。お互いに様々な攻め方をさせればいいはずなので、今後もいくらか繰り返すだろう。
今日の訓練を終えた頃には全員がグッタリしていた。ああ、ちなみに俺は基本走ってた。これでも体力は持久力のみ自身がある。いや他は全く駄目だが。まあほら、上に立つものがししっかり何かやってないと示しがつかないからな。だが流石に二時間、休憩をはさみつつとはいえずっと走っていると流石に俺もクタクタ。うむ青春!!
「よしお前たちよくやった。今日のとこはこれで終了だが……まあ今日は皆及第点だった。明日からはまた別な課題を用意する隊もあれば更に発展させる隊、継続する隊もある。だがしばらくは基本を徹底的にやるつもりだ。そう考えておいてくれ。じゃ、解散!」
あいさつを済ませ、各々バラバラに分かれていく。ただ、隊長だけ何故か残っていた。
「先生、なんで今日、先生まで走ってたんです?」
「確かに。しかもずっと走っててなんでピンピンしてんだ……」
「先生は監督しているだけでもよかったんじゃないか?」
顧問になると決定して以来、俺は先生という呼び名が定着している。ああ先生って呼ばれるのは嬉しくもあるがなんかこう……恥ずかしいという感覚もあるな。
「愚か者どもめ。上に立つものがグウタラしていたら示しがつかんだろうが。それにピンピンしてるのは気のせいだ。二時間走って平気な奴はマラソンやっててもそうはいない」
俺は内心今すぐにでも座り込みたい位だ。だがまあ変なとこで律儀な俺はそうできない。だがそれは逆に尊敬を集めたようだ。
「流石だな。しかし今疲れていると言っているが……そもそもよくそんなに走れたな」
「持久走とサバイバルは得意分野だからな」
「サバイバル?」
「おう。食い物も好き嫌い少ないしな。応急処置以外はなんとかなるぞ」
あ、しまった。また尊敬の眼差しが……俺はそんな大した人間じゃないぞ?
「さて、一週間後は森にでも籠ってみるか……」
「え!」
「大丈夫。期間は一週間だし、あと隊長限定ね。隊員達も隊長がいない中での訓練になる。まあ良い訓練になるさ」
そう言い残し、俺は部屋を去った。今考えれば、このときの判断は俺の最大の失態だったのかもしれない。
これ以降も、訓練は概ね好調だった。攻撃よりも基礎での回避。元より技術は高い彼らなので、基礎をしっかりさせていけば技術もついてきた。おお、ロープレやるよりよっぽど楽しいし考えさせられるな。国王からも以前より警護が上手くなったと言われ、彼らのモチベーションも良いようだ。おお人間の荒んだ心と違い癒される! ビバ異世界!
俺は俺で毎回走りこみを行っている。部屋に帰れば基本筋トレもするようにしているし、蒼鬼などの装備を調整したりしている。人間界にいる時より有意義だなぁ。うんいいことだ。
森での特訓だが、どの森にするか迷っていたら国王直々にこの城の北西にあるアリフェレフォス・アリエを薦められた。国王の了承を得たも同然だ。あ、そうそう。この国ではアリエ、
というのは地帯、とか地域という意味らしい。アリフェレフォス、というのは「妖精の森」という意味らしく、その名には相応しくない気候の急変などがあり修行には適切という。
国王に出発予定の日時と期間を改めて伝え、趣旨とその間の警護に関する事を話した結果、快諾してくれた。物わかりが良い国王だ。
この正式決定を各隊長と隊員に伝え、出発の日時を告げる。隊員達は最初こそ不安があったものの、隊長がいない間の警護は良い訓練になると告げ、納得して貰った。
ちなみに、今回の森籠りはかなりハードになる。いやもう地獄が如く。ウヒヒヒ、ちょっとSな自分が出そうで怖いぜ。とりあえず参加者全員には全体的な計画を記したしおり的な物でも作ってやらねばなるまい。夕食の後、俺は一人でせっせとしおり作りに励むのであった。
そうそう、ここで出てくる地名は、基本的に英語をカタカナに直し、そっからアナグラムみたいにやってます。
と、蛇足はさておき。今後、まあちょっと忙しいので毎日は更新できるか分かりません。それでもいい、という方。是非今後ともよろしくお願い致します。