act.12殺すことと生きること
今回シリアスかつ短いっす
Act.12殺すことと生きること
愕然とした。あの兵器破壊のデブリーフィングの際だ。ある部隊が確認に行ったところ、見事に兵器研究所ごと吹き飛んだらしい。
しかし、そんなことどうでもいい。問題は、その時の敵への被害だ。
あの研究所は、当時約二百の兵士や研究員がいたらしい。つまり、それが全員死んでいた。そう報告をうけた。それもそうだろう、かなりの爆発だったのだ、死者がでないほうがおかしいのだ。あの兵器は、もしうちこまれたら数千の死者が出てしまうという。しかし、止めるだけ、というならお互いに死者は出さずに済んだのではないだろうか? つくづく、自分の軽はずみな行動に嫌気がさす。
「どうした?」
「え……?」
「いやなに、何か気が滅入ったような顔をしていたものだから、何かあったのかと……」
どうやら、それは顔に出ていたらしい。もっとも、隠すつもりでもなかったのだが。
「いえ……流石に少し疲れてしまいまして。ちょっと大掛かりな技を使いまして……」
我ながら、少し苦しいかもと思う。証拠に、国王直属部隊の第一、二、五隊隊長はこちらをみつめつめている。
「そうか……では、明日以降は少し休んでおきなさい。訓練の方も、顧問に頼りっぱなしではだめですからな」
国王は、素直にこちらを心配してくれた。嘘をついたことに罪悪感を覚えるが、心配してくれたことがとても嬉しかった。
「はい……ありがとうございます」
その後、俺は部屋に戻りベッドに倒れこんだ。
俺は葉巻に火をつけ、吸い始める。そういえば最近デフィアに、俺はその時の心情が葉巻の吸いかたでわかると言っていたな。落ち込んだりしているときはうつむき気味にゆっくりと、らしい。今まさにその吸いかたをしている。
その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
誰だ……? だが、誰であろうと今は帰ってもらおう。
「誰だか知らんが……すまんが帰ってくれ」
「……先生……」
アクトにレム、それとイゼフか……ま、あいつらは気付いているだろう。だが、それは関係ない。
「帰ってくれ……今の俺をお前達には見せたくない……」
本音だった。今までも落ち込んだことはあったが、ここまでのものではない。
「先生、先生は……今まで誰かを殺すことはなかった……そうですね?」
「……」
「そして、昨夜……」
そうだ。俺は昨日、初めて誰かを殺めた。
誰とも知らなかったし、見過ごせばもっとたくさんの死者が出たかもしれない。だが、俺が誰かを殺したのに変わりはない。
それは、日本で暮らしていた俺に重くのしかかった。
「……俺の国の原則の一つにな、平和主義ってのがある」
俺は静かに語りだした。
「ある戦争をきっかけに出来たものでな、そのとき国は壊滅しかけていた。
それ以来俺の国は戦争の破棄、軍隊の不保持を法で定めた」
三人も相づちすらうたず静かに聞いてくれている。
「その戦争終結は五十年近くも前。俺は戦争を知らない。
いかなる理由があろうと、俺の国では殺しは犯罪だ。それに好き好んで殺したりはしないしさせられることもない。そんな国で育った俺もまた、だ……」
俺はここで初めて彼らの方を向く。
「俺はもう、戦いに赴く自信もないしいきたくもない……」
俺は彼らに本音を打ち明けた。生きるとは、何かを奪うことである。それは重々承知しているからこそ、無駄に命を散らしたくはない。
「先生……」
「いや、すまん。君たちにこんなことを話しても辛気くさいだけだな」
無理矢理に笑顔をつくる。
「先生、その……」
「いや、この話はもう終わりにしよう。さ、すまんがもう寝させてもらうよ」
そういって三人には部屋を出てもらった。彼らに……俺の泣き顔はみせたくないのだ。
俺はこの日、この世界で初めて誰かを殺めた、
俺はこの日、この世界で初めて涙を流した。
そして、いつ自分が殺される側になるか分からないという世界だと実感した。
「ぐ……ぐすっ……う、うぁぁぁぁぁ……!」
だがそれから幾日、世界は残酷な程に動いていた。
実際の軍隊でもPTSDの心配をしています。人を殺すという行為は、案外簡単に人を飲み込んでしまうようです。