Possibility! 皇子の思考は加速する。【中】
「嘘だろ、オイ・・・。」
部屋に入ったオレを迎えたのは、一本の大きな杖。
講義の最中に見た例のアレだ。
こんな無雑作に置いてあるなんて、オレの兄上以上だぞ。
これが本当に本物の神器ならば、だけれども。
「近くの椅子にでもかけてください。」
けていてと言われてもな。
この杖の近くにはいたいと一片も思えないんだが・・・。
「いやいや、立って待たせてもらいますよ。」
もう次からは絶対、少なくても剣の一本は腰から下げておこう。
お守り感覚だ。
「?あぁ、持ってみますか?」
「はぃ?」
オレの視線を理解したのか、物凄い事を笑顔で提案された。
「何を馬鹿な事を・・・。」
どう考えてもわかりきったうえで言っている。
「拒絶されるのが怖いですか?」
ほらな?
しかも、楽しげに言ってくるし。
ここは正直に言っておくべきだな。
「拒絶された人間を見た事があるので、痛いのは嫌です。」
だいの大人が悲鳴をあげるくらいなんだぞ?
と、言っても、これはディーンの剣の場合だ。
「大体、持つまでも無く拒絶されるに決まってるじゃないですか?」
一応、使いこなせてはいないが、ディーンの剣を使っている時点で。
それとも大丈夫なもんなのか?浮気可?
いやいや、世の中そんな甘くないだろう普通。
「あら、そうとは限りませんよ?この杖は意外と社交性ありますから。」
嘘だ。
絶対、嘘。
大体、杖の社交性ってどんなんだ?
「嘘じゃないですよ?直系でなくとも持てるんですから、他のに比べたら格段に。」
・・・顔に出てたか?
確かにセイブラムは直系が治めているわけじゃないから、そうなのかも知れないが・・・本当はあるのか?
そういう性格みたいなもの。
「うふふ。そぉれっ♪」
「うわっ?!」
こともあろうに、杖をこっちに向かって投げてきやがった!!
「とっ、とと・・・。」
流石に落とすわけにもいかず、投げられた杖を心の中で泣きながら受け止めるしかない。
「・・・・・・嘘。」
掴んだ。
落としても壊れるようなモノではないが、しっかりと掴んだ・・・よ、オレ。
「なんで?」
なんともない・・・?
「て、あてて・・・。」
じんじんと伝わってくる痛み。
だよな。
しかし、ディーンの剣とは違って、その痛みはほんの僅かだ。
耐えられない程度じゃないし、悲鳴をあげる程でもなく。
「やっぱり思った通り。」
思った通り?
アレか?
ここまでの流れは、確信を持っていたと?
「何故に?」
本当に色んな意味で。
「講義の時に視た魂の質で。一般に知られていないけれど、こういったモノには何というのかしら、意志というか性情の様なものがあるの。」
意志や性情。
ディーンの剣はどうだっただろう?
オレの想いや考えに反して、オレに痛みを与えたり治したり・・・勝手に発動したり。
それがあの剣の性情のようなものだと言われればそうなもかも知れない。
意外と我が侭?ディーンの剣ってば。
「ちょっと待って下さい。そういう傾向があるのと、オレがこの杖からの拒絶が軽いのと、どういう関係が?」
魂の質を視てと言ったよな?
「術使いの資質がある事が前提条件?魂に刻まれた資質・形質で全てが決まる・・・?」
関係性があるとしたら、そういう事になる。
「つまり、オレの二系統の資質のどちらかが適応しているという事か・・・いや、そうなると・・・。」
トウマの魂がディーンの剣に対応する資質で、オレがセイブラムの?
おかしいだろ。
それは絶対におかしい。
"ヴァンハイト"の魂と血は何処にも出ていない事になるぞ?
神器を操るには魂が関係しているという仮説は、トウマとディーンの剣の時には既にあったが。
「しかし、理論がここまで酷似していると、神器の製作や使用者は術使いという事なのか・・・。」
思い当たる節もある。
ディーンの剣は、術使いが生み出した炎も、その原理を応用したスクラトニーの炎も切り捨てる事が出来た。
・・・困った。
しっくりきてしまった。
ここまでしっくりきてしまうと、オレが本気でヴァンハイトから大きく外れてしまっているのも。
抜け道的な仮説と立てるとしたら、トオマとオレの魂が融合しかているという辺りか?
「意外と文官型なのね。」
・・・考え込むと集中力が増す反面、他が何も頭に入らなくなるのは悪いクセだよな、ホント。
しかも、オレの場合、口に出して確認しながら考えるからなぁ。
「やっぱり、先生もオレが武官だと思っているですね?」
「だって、ヴァンハイトの近衛第一師団所属なんでしょう?」
・・・そうか、そうだよ、先生なんだからオレがどの国の誰の推薦で、何処に所属しているのか知っている。
設定上ので。
下手したら、本当の事を知っている、或いは気づきかけているのかも知れない。
「そうですね。ところで先生。術の形質変換が魂の質に基づいて決定されると言ってましたよね?」
「えぇ、そうね。」
オレとの会話というより、オレから発せられる言葉に興味があるかのように、にっこりと微笑んだまま次の句を待っている。
何やら笑顔がとても楽しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
「形質が二つある場合、単一の形質二種類ではなく、こぅ掛け合わせるように第三的な形質を生み出す事は可能ですか?」
脳内の青写真はこうだ。
ヴァンハイトの魂の本来のオレが双剣。
トウマの魂が長剣。
この二つを掛け合わせた現在のオレの魂の在り方が、セイブラムの杖を持てる程度の資質に近い。
この理論なら、さっきの仮説の筋が通る。
三つの内、一番弱い瀕死のオレの魂が双剣を使えないだけ。
「面白い質問ね。」
オレに渡した杖を手元に引き寄せた彼女は、上機嫌だ。
「理論上は可能よ。ただ三つ目が必ず成立するかはわからないわ。だって、水と炎を掛け合わせるって想像できる?」
性質だけ見れば噛み合わない気もするが、密閉された状態で高温を浴びせれば爆発しそうだが、そういう事じゃないんだろう。
性質の話だかならな、言いたい事はわかる。
「難しいですね。」
オレは神器で考えていたからこの仮説に辿り着いたが、酷似した理論の術の場合で考えたら至難の技だ。
「それに・・・。」
「それに?」
「人間って、そんなに器用な生き物かしら。」
真理だな、まさに。
反論のしようもない。
「うぅむ・・・では、もう一つ。」
「なぁに?」
「魂の形質が合えば、操作したり、掛け合わせたり、人を操ったりも出来ますか?」
オレは自身の存在への核心の一つ、そして取り戻すべき相手にかけられているかも知れない術への質問を挙げた。




