Neither! 皇子は愛惜に慟哭す。【前】
次から次へ・・・。
「何がいけなかったんだ?」
街に着くまでは悪くはなかったんだ、うん。
オリエを買った形にはなったが、助けた事に関しては後悔は無い。
やはり手段がいけなかったか?
「ズルズルとこうなってるしな。」
後頭部が痛い。
オレ、身の危険があるかも。
視線で人を殺せるのなら、既に身体中に穴が空いて絶命しているだろう。
ようは・・・オレは熱い視線で見られている。
見ているのは、例のラスロー王子を呼びに来た侍女だ。
さっきからすっごい見られている。
あぁ、睨まれている。
「よりにもよって同じ講義を受けるとは・・・。」
いくつか興味のあった講義のうち、二つ程選び抜いて受ける事にしてみたのだが、まさかの遭遇。
「第一、断るか受けるかしか選択肢がないんだから・・・はぁ。」
何というか、恋する乙女ってのは凄いんだなぁ。
いくらオレが女心が全く理解出来ないからといって、コレはオレでも理解できる。
主が侮辱されたとか思ったんだろうな。
「いいなぁ・・・。」
オレの周りにいる者達も、これ程までとは言わないが怒ってくれるかなぁ?
ダメかな。
オレ自身が認めちゃってるもんな、ダメ皇子って。
案外、怒ってくれないかも・・・。
これは、アレだ、何というかさ。
「不徳の致すところです。」
「そう、ソレ。ん?」
声を投げかけられた方を見上げると、一人の女性が傍らに立っていた。
「あれ?」
きょろきょろと周りを見回してみる。
「私の講義がそこまでつまらないとは、私の教え方がいけないのでしょうか。」
どうやら、この講義の講師の方のようで・・・。
「真に申し訳ない・・・です。」
平謝りしかないだろう!
しかし、この人、あれだよな?
昨日、図書館で会った・・・。
「そうですね。では、貴方にじっけ・・・ご協力をお願い致しましょう。」
今、実験って言いそうになったよな?
ここに来てから速攻で怪我するような事の連続だったからなぁ。
死ぬような事意外で五体満足ならいいか。
いや、よくないだろ。
どんだけ慣れたんだよ、オレ。
「では、こちらにどうぞ。」
講師台にぐいぐいと押されながら・・・って転んだらどうすんだよ、本当に。
「では、先程説明した、共鳴による粒子の選定を行います。」
オレが今回選択した講義の一つは、考古学(旧戦史)だ。
エルフの森の炎術使い相手の時も、シルビアを連れて行った誰かの時も、オレは何も出来なかった。
そういう意味で、何か対策とまではいかなくても、見出せたならいいなと。
「あの、先生。もう少し詳しくご説明願います。特に失敗した時の事などを。」
自分が術に向いているとは思わないから、聞いているだけでいいやと思っていたのが、気を抜く致命的な原因になったな。
「術の成否は、空間中の粒子を如何に効率良く操れるかにあります。」
大気中の粒子は、現在限りなく少ない。
と、いう事は、術者同士の戦いってのは燃料を奪い合うってコトになるのか。
「ですが、例え粒子を操れたとしても、自分に合った状態に変換しなければならないのです。」
あぁ、その辺りはもう既にリッヒニドスに居た時に学習した。
"指向性"ってヤツだったかな。
スクラトニーはあの筒状にする事で指向性を高めた。
それはオレが作った爆裂球も同じだ。
アレに指向性を持たせれば、カーライルが提案した岩盤破砕作業とかに使う事も"理論上は"可能だ。
理論上な、今は。
「で、変換というのは?」
ここまではオレの脳内の知識と経験で理解出来る。
「粒子の形の形質変換と考えて下さい。簡単に言えば、炎の球にするとか氷の刃にするとかという事ですね。」
粒子ってやっぱり万能なんだな。
だから、次元の穴なんざ開けるのに使えたワケだ。
奥が深いな。
「問題なのは粒子を操るにも、形質変換の資質によるところが大きいのです。戦前のように大気に粒子が豊富ならば別でしょうが。」
実用性には確かに乏しい。
軍隊に組み込むにしても大変だ。
だから、余計に人数が少なくて、人間はこの技術を手放したのか。
うむ、一つ、しっかりと知識の補填が出来たな。
「その資質とは、一般的に魂によるというのが定説で、特に形質変換は・・・。」
ごそごそと大きな鞄を取り出しつつ説明してくれるのはいいんだが・・・腰を折った講師のお尻が目の前に・・・。
ヒルダとどっちが大きいだろう・・・いかんいかん。
「魂にある・・・私達は"色"と呼んでいますが、その色以外の形質変換は出来ません。」
初耳だ。
つまり、炎術使いは基本的には炎以外生み出せないのか?
「そこで、その魂の色を視るのが、この実験なのです!」
うぉっ、実験と言い切ったよ!
「で、失敗するとどうなるのでしょうかね?」
実験は・・・受けるしかないな、これは。
「特に何もないですよ。この方法は、私の国で昔からやっている方法なので。」
なんだよ、なら実験じゃないじゃないか、驚かせやがって。
「ただ、今回の様な手段でやるのは初めてなもので。」
ヲイ。
そう言うと講師は自分の身長程もある大きな鞄を開き、中から一本の棒を取り出した。