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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Mean! 皇子と王子の考え方。

 ・・・情けない。

もう、その一言。

情けなさ過ぎるオレ。

ミリィにああまで言わせるなんて・・・。

元々、ミリィは皆の前でそこまで何かを主張する性格じゃないのに。

常に罪悪感を持ち続けて生きているオレでも、くるものがある。

「うぅ・・・ミラの説教の時にあんだけ反省したのに・・・。」

 がっくり。

結局、心配をかけまくっているこの現状。

それでもミリィが深く突っ込んで聞いてくる事をしないでくれた事は嬉しくもあった。

「つまるとこ、オレはもっと強くなんなきゃって事にすりかえよう。」

 オレみたいな人間は、後ろ向きになったらとことん暗くなる要因が、吐いて捨てる程あるんだからな。

「ふぅ・・・。」

 早朝、双剣一対を持ち出しての瞑想。

右手で剣を抜き、次に左。

基本しか学ぶ必要のなかった型を何度も何度も繰り返す。

一応、基本武器って設定だしな。

「しかし・・・筋肉つかないなぁ・・・。」

 オレは速度で戦う方が向いているから、筋肉がついて重くならなくて良いという考え方もあるんだが、それでは勝てない事もある。

だってそうだろ?

オレより速い相手がいたら負けるんだぜ?

そういう意味では力のある斬撃を出せるように筋肉がもうちょいあってもいい。

オレの剣の重さの大半は、速度ある振りによっての重みと言っても過言じゃないしな。

「そういえば、アイシャ姫は・・・。」

 彼女も細かったな、そこそこに。

で、あの馬鹿力か・・・なんか、コツでもあるのか?

気になる。

どういう原理なんだ?

流石に直接聞くとアレだが。

「それとなく今度聞いてみるか。」

「誰にだ?」

 肩口で切り揃えられた藍色のおかっぱ頭。

「えと、ラスロー王子。」

 頷く男の動作の後にさらさらと流れていく髪。

なんだ?

良い血統の男は必ず髪はさらさらなのか?

黒くて直毛なオレの髪とは大違いだ。

「君とこうしてきちんと面と向かって話すのは初めてだな。トウマ殿。」

 "殿"ときましたか・・・。

その呼び方に警戒心を持たざるを得ない。

何か、引っかかるんだよ、彼は。

二度も無礼を働いたオレを許す根拠は何だ?

それに街で剣を抜くとは思えない程の知的な雰囲気が彼にはある。

そこそこに腕があるのは、オレも見たから解る。

「まぁ、そうですね。水差してばかりの出会いですが。」

「ふふっ、それは私は一切気にしていないよ。イイモノが見られた。」

 不敵に笑われたよ。

この余裕は、兄上に通じるモノがあるな。

というか、オレは見世物か?

「いや、他意はない。人を見るのが趣味だと思ってくれたかまえ。」

 他意あるじゃねぇか。

「随分と高尚なご趣味で。」

 大体だ、今のオレにどの目線でこの人と話せというんだ?

「君だって、随分とあのアイシャ姫にご執心じゃないかい?」

 ぐぬっ。

「どうにも女性の頼みに弱いだけですよ。男なら誰でも大なり小なりそうでしょう?」

 悪いが嫌味に対しては、嫌味でしか返さないからな、オレは。

「それに興味があったものでね。クロアートの槍斧使いというものに。」

「成る程。」

 一瞬の沈黙。

オレには元々、この人に話しはないから仕方がない。

「君は遠回しに言おうとすると、さっさと逃げられてしまいそうだから、単刀直入に言おう。我が国に来ないか?」

 ・・・はぃ?

またまた変な展開に巻き込まれた・・・んだよな?

「はぁ・・・で、それは互いに何か利益はあるのですかねぇ?」

 これってアレだよな?

「そうだな。流石に"グランツ"の名は高いからね。」

 グランツ?

あぁ、そういう事か・・・オレは今、トウマ・グランツだったな。

ヴァンハイトでの"グランツ姓"には特別な意味がある。

この姓は基本、一代限りの特別な貴族姓といったところか。

我が国でのグランツは、剣一本のみで地位を昇っていった"バルド・グランツ"の一門だ。

そう、今のオレはヴァンハイト唯一の例外、バルドの剣技の手ほどきを受けた人間として見られているワケだ。

しかも、バルドの弟子でグランツ姓は3人いるかいないかだ。

「あんな巨大熊と同列にするなナヨ。」

 身近にいる人間で、一番使い勝手が良くて許可がいらないので拝借させていただいたんだが・・・完全に裏目に・・・。

「私が王位を継いだら、相当な利があると思うが?」

 ・・・何、この人。

もしかして、もしかしなくても国王になるつもり?

あんな面倒で孤独で退屈極まりないモノに?

「成る程。で、何故わざわざオレを?」

 引き抜きの理由をまだ聞いていない。

「君が世界の現実をきちんと把握しているからだよ。」

 例の街での言動か?

だって、所詮、そんなもんだろ?

「結局。偽善だけで世界は回らない。民というモノも誰かに管理されねば、導かれねばならないと思われないか?」

 まさか、それが自分だと?

「でなければ、王族や貴族など、とうに廃れているはずだろう?」

 ん~、なぁ、な。

否定はしきれない。

「それは民が優れた者に支配されたいと望んでいる事と変わりはない。」

 オレは相互契約だと思っているんだが・・・つか、ちょっと危険な思想に入ってないか?

「だとすれば、より優れた者を求め集めるのも、王族たる者の責務だ。」

 ちょっと変則的な選民主義にも聞こえるな。

それは王族が常に優れ続けているのが前提だろ?

王族の質が低下したらどうするんだ?

禅譲でもしてくれるのか?

その資質はどうやって計る?

まさか神器が使えるか否かとか言わないよな。

悪いが、オレの国には例外がいるんだぜ?【文治の星皇エルリオット・ディス・ヴァンハイト】がな。

「それで引き抜きたいと?」

 言いたい事をぐっと堪えて、話を進める。

「そうだ。」

「んじゃ、ま、お断りしますわ。」

「ほぅ。理由を聞いても良いかな?」

 ピクリと眉を動かして理由を聞いてくるラスロー王子、未だオレへの興味は失われていないらしい。

「オレを高評価して頂けたのは光栄で、魅力的ですが・・・。」

 方向性が違うんだよなぁ。

「困った事にオレの部下、優秀じゃないんですよ、失敗ばかりで。」 

 でもな、とても温かい人間なんだよ。

それは昨日も沢山味わった。

「だから、王子の考え方だとその部下も見捨てなきゃなんないんでね。」

 王子はどうしようもない現実というモノを受け入れた。

そして出来るならば、それを操る側にいたいと思った。

それは現実的で悪い事じゃない。

でも、オレは現実を受け入れて抵抗して、平らな世界を作りたい。

これは幻想だ。

でも、幻想を現実に近づける努力は出来る。

"良き方向に変える"という点では共通だが、手段も結果も違う。

だから従えない。

「更に困った事に可愛いんですよね、オレの周りにいる奴等は。」

 王子はオレが優秀だと言うが、それはオレがそいつ等の誇れる存在になりたいからだ。

じゃないと、オレの存在意義は限りなく薄っぺらなもんになっていく。

「ますます君が欲しくなったよ。」

 ヲイヲイ。

勘弁してくれ。

「ラスロー様、朝食のお時間です。」

 オレ達の間に割り込んでくる声。

気づくとラスロー王子の後ろに一人の少女が立っている。

茶色の長い髪を後ろに流し、三つ編みに編みこんだ少女。

「そうか。では、トウマ殿、また後程。」

 いや、本当に勘弁。

げんなりしていると、ラスロー王子の後ろにいた女性にがっつりと睨まれる。

やべぇ。

「では、また。」

 完全に敵視されたな。

一礼してさっさと退散。

うひゃぁ・・・変な汗かいた。

オレも部屋に戻って、朝食を摂って・・・。

「オリエを可愛がろう・・・。」

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