Lack! 皇子は完璧じゃなくていい。【後】(ミリィ視点)
久々の女性(別)視点。
・・・いや、忘れてたワケじゃないですよ、ホントだよっっ。
夕食が終わり、後片付けをして就寝するまでに何回二人を見比べただろう。
でも、やっぱり変わらない。
慈しむようにオリエちゃんの頭を微笑みながら撫でて。
その首にかけられてるのは、確か・・・ううん、絶対そう。
「今日もお疲れ様、ミリィ。」
「あ、はい。」
会話が続かないよぉ。
「お、オリエちゃん、寝ちゃいましたね。」
って、こんなコトが言いたいんじゃなくて!
ちゃんと聞かないと!
「ねぇ、ミリィ?ついて来てくれて、ありがとう。」
こんな時に言わなくても・・・。
「今日だけじゃなくてさ、リッヒニドスにも・・・さ。」
それは私の台詞なのに。
片田舎から出てきて、城で大失敗ばかりして、周りからも孤立し始めてた私を連れ出してくれたアルム様。
今回だって、一人では絶対に来られないような遠出で、勉強だってさせてもらえてる。
感謝してもしきれないのに・・・。
「オレはさ、本当に弱っちくてさ、周りが言うようにダメな皇子なんだよな。」
「そんな事・・・。」
そんな事はない。
長い間、皇子と一緒にいたワケじゃないけど、少なくてもリッヒニドスにいた時の、あの時のアルム様の周りにいた人間で、そんな事を思った人なんかいない。
「本当にダメでどうしようもなかったオレの周りに人がいてくれる。それが今、結構気に入ってるんだ・・・だから・・・。」
横で寝息を立てているオリエちゃんの髪を一撫でして、私を見る。
その瞳は何処までも真っ直ぐで、リッヒニドスに居た時と変わらない。
弱さなんて、何処にも感じない。
「絶対にこの手に取り戻すから・・・。」
どうして・・・。
「どうして、アルム様は何時も・・・。」
「ん?」
わかってない。
「全っ然ダメですっ。」
私はオリエちゃんが起きない程度に声を張り上げる。
「ダメ?」
「そうです!本っっっ当にダメ皇子です!」
ぎゅっと力一杯に自分の拳を握る。
「いっつも誰にも言わない!しかも一番危ない事だけを自分で抱え込んで!」
私が小さい頃、お姉ちゃんが言ってた。
『人は独りで生きられないから歴史があるのよ』って。
その時は壮大過ぎて何も言えなかったけど、今はわかる。
"書く人間"と"書かれる人間"がいなきゃなんない。
戦争だって喧嘩だって、相手がいなきゃ出来ない。
"人は独り"じゃダメなんだ。
「だから、私達がいるんじゃないんですか?」
「・・・ごめん。」「許さないです。」
だから、私は今のこの時にここに居られれて良かったなって思う。
こんな私が、今誰かの役に立てそうなんだもん。
しかも、私を必要としてくれて、こんなにも優しくて。大好きな人の役に。
「わかるまで許さないです。」
私はアルム様を思いっきり抱き締めた。
「わかるまで離さないんだから。」
私にしては、すごく大胆だと思うけど・・・かなり大胆かな。
顔も熱くなってるし。
アルム様が私達が笑顔でいられる為に危険な目に合うなら、私達はアルム様が笑顔でいられる様にしなきゃ。
「聞いてますか?」
「・・・うん。」
私はリッヒニドスの夜にしたように、アルム様の肩に近い背中辺りをぽんぽんって。
お姉ちゃんが昔、泣いていた私にすいてくれたみたいに。
アルム様にだって、効果覿面なのは証明済みだし。
そのまま寝台の中央、オリエちゃんの横に倒れこむ。
「何時か・・・一度、私の故郷にも行ってみません?私、今回の旅行で味しめちゃいました。」
他愛のない会話。
少しでも、現実逃避だろうとなんだろうと、気が紛れるなら。
「何も無い所なんですケド、自然があって、湖とかで泳げて。あ、果物も美味しいんです!」
「うん。」
「"皆"で一度行きましょう?」
我ながらいい案。
「皆でね・・・いいかも知れない。」
「そう皆でですよ。」
皆がいる事に意味がある。
皆の中心にアルム様がいて・・・。
「・・・大好きですよ、皆。"私達の皇子様"が。」
目の前の皇子は、子供の頃に読んでもらった童話の完璧な王子様ではないけれど。
名前のわからない王子様なんて存在よりも、精一杯、私達の為に頑張っているってわかる。
そんな皇子様のが絶対ステキだと思うもん。
だから・・・。
「アルム様は独りじゃないですよ。」
今はそれだけ言えれば充分だよね?
私、ここに居ない皆の分も頑張れてるよね?