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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅰ章:黒の皇子は決意する。
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偶因と鳥籠と十人十色。【後】

 最後に近衛兵だ。

皇族警護の兵だが、実際オレを害そうなどという人間は少ない。

国内の最有力は、兄上と親しい貴族なんだが・・・

その、基本、弟スキーな兄上なので、皇位争い相手になりそうなオレでも害そうという動きはない。

例え兄上派の貴族が独断専行したとしても、まず兄上がその貴族を切り捨てる。

よって実は一番有り得ない。

ある意味、それはそれで国の安定という側面から見たら困る気もするが。

兄上に反発する貴族は、当然オレを担ぐのが一番手っ取り早いからこれまた有り得ない。

寧ろ、一番少数派の独立・中立派のが可能性があるという始末。

まさかこんなトコでオレの不人気っぷりが役立つとは思わなかった。

これは旅に出る時に楽でいいかも知れない。

つまり、近衛兵は基本的に必要ないんだ。

向こうの州を治める役人とかのが、まだ危ない。

「近衛兵に志願したレイアです。」

「ザッシュっス。」

「ヨアヒムと申します。」

 レイアは薄紫の髪にスミレ色の瞳。

髪の毛をまとめて後頭部でお団子にしている。

梳いたら結構長いんじゃないか、アレ。

 ザッシュは細身で筋肉があまりあるようには見えない。

これで近衛兵なら、意外とスピードで戦う型なんじゃないのかな。

短く刈り上げた金の髪が立っていて、芝生のようだ。

人懐っこい笑みを浮かべている。

 ヨアヒムは正統な騎士って感じ。

茶色い髪に鋭い瞳。

だけど、何処となく気品というのが感じられる。

「レイアはいいね、長剣使い?双剣は?」

 レイアは腰から剣を一振りしか下げていない。

何度も言うけれど、この国は双剣術が正統。

それ以外は、一つの例外を除いて異端・邪道。

ましてや男社会の兵士で女性というのは、不利。

だが、その勢いをオレは買う。

「双剣より長剣のが好きで、得意なので下げているのですから、見ての通りです。」

うっわ、すげぇ睨まれた。

傷つけたかな?

「ザッシュは双剣か。」

「はい、あ、田舎は森の都市ですから左遷に異存はないっス。」

 聞かれる前に言われた・・・まぁ、楽で良いが。

睨まれてレイアに聞くのを忘れてたが、彼女は何となくわかる。

女で長剣使いなんだ、精々オレの所で箔が付くといいな。

「ヨアヒムは・・・。」

 あれ?

・・・オレ、コイツ見たことあるな。

誰かに紹介された事も・・・。

記憶を辿って、溜め息を一つ。

「あー、君は来なくていいや。叔父上に宜しく。」

 ヨアヒムの叔父は貴族だ。

しかも独立派の。

兄上の派閥なら監視役という意味で、お兄様連絡網として使うのもアリかも知れんが、

少数派のヤツを懐に入れてあらぬ疑いをかけられても嫌だ。

少人数の移動だし、泳がせて情報を掴むとか器用な事はオレには出来んし、

そこまで気を回す余裕は(手数的にも)ない。

「向こう行っても大人しく余生を過ごすだけだから、気にするなとでも言っておいてくれ。」

 建前上はな。

おーおー、睨んでる睨んでる。

今にもブチギレて襲ってきそうな。

オレを呪い殺しそうな形相だわ。

まぁ、それはそれで公に彼の叔父上殿を断罪するいい切っ掛けになるからいいけれど。

恨むなら、面が割れている人材を寄こした叔父上を恨めよー。

オレはそういう貴族の傀儡になりたくないから、頑張って顔覚えてんだぞー。

影の努力の勝利だな。

「ミランダ、あとでお仕置きね。」

「・・・・・・はい。」

 って、何で彼女は顔を赤らめてモジモジしてるのかね?

"お仕置き"って何を考えてるの?

「あの、アルム様?」

「ん?」

 口を開いたのはレイアだ。

「私達の隊長がいないようなのですが。」

 あぁ、そうか、レイアの目的はそれか。

「あぁ、あのジジィね。大丈夫大丈夫。」

「はぁ?」

 何が?と突っ込みを眼差しで表現してくるレイア。

「あのジジィの行動パターンは、もう理解してるから。」

 タイミング的にはそろそろなんだよな。

「ぶぅるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!」

 来た!

「どりゃぁぁッ!」

 雄叫びと共にドアが開かれ、飛び込んできた物体に向かって、

オレは全身全霊をかけて渾身の飛び蹴りを浴びせる。

物体はそのまま花瓶が乗っている台に激突して、花瓶の割れる盛大な音が鳴り響く。

「いい加減、もうそういうのヤメロ、ヒゲオヤジ。」

「何を言うておる!若!何時如何なる時に何があるかもわからぬのですゾ!」

 むくりと起き上がった塊。

ツルッパゲの頭に口髭と顎髭が一体となった毛むくじゃらな大男。

「それと、所構わず修行の場にするのは別の話だ!」

 頭に乗った花と被った水を拭いながら、大男は笑う。

「レイア、このハゲジジィが前剣術指南役にして隊長のバルドだ。」

 もう指差してやる。

「若は相変わらず不真面目だのォ。」

「オレが真面目になる方が困る輩のが、この国には多いの!」

一応、これでもオレを気にかけているので、嬉しいには嬉しいのだが、

如何せんこの人も兄上とある意味で同じ方向性というか、

人としての方向性が間違っているというか・・・。

レイアも呆然としている。

「君もこのジジィに付いて修行すれば、一段階は強くなれるのを保証するけど、

 性格まで似ないようにね。折角、美人なんだから。」

 そう言えば、レイアも美人の部類だ。

男も。

レーダもザッシュも顔は悪くはないし、大柄のホビィも人が良さそうな顔していて愛嬌がある。

さっき出て行ったヨアヒムだって、整った顔をしていた。

どうした、ミランダ。

顔基準で選んだか?

「と、まぁ・・・各自準備を頼む。レイアとザッシュは馬の手配を。

 クリス達3人は食料の一切と保存食の作成・確保。

 ミリィ・ホリン・シルビアは、クリス達の手伝いをしながら旅装品の細かい物の用意を

 ミランダと一緒にしてくれ。」

 人徳がないないと嘆いてた割りには、マトモそうな(少なくとも顔は)メンバーが揃って良かった。

「ワシは?」

 バルドが自分を指差す。

「ジジィは自分用の酒と少しでも使えそうな剣を用意してくれ。

 オレのと、ザッシュの双剣。レイアは自前の良い剣だが、

 ザッシュのは一般兵の支給品だから。

 あと侍女達の護身用のも一応。」

「フム。若はどっちで?」

 白々しくさらりと聞いてきやがったよ、このジジィ。

つまり、双剣か長剣か。

大っぴらには聞けんけどな。

「オマエに頼んでいる時点で察しろ、タコ頭。」

 全員笑いを堪えている。

ホリンなんか、肩までぷるぷると震えてるし。

ツボだったらしい"タコ頭"

「という事で、解散!」

 オレの号令後、ぞろぞろと部屋の外へ出て行く9人

9人という事は、1人残ってて、つまりミランダが残っているんだが・・・。

「ミラ、どうしたの?」

「あの、お仕置きは?」

 顔を赤らめ、瞳を潤ませたままの姿勢で、モジモジしているミランダがそこに居た。

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