Kindness! 皇子は時に大人気なく。【前】
「従者に舞い降りた奇跡、それは"予言の力"・・・か。」
図書館で聞いた話を脳内で反芻しながら、部屋への岐路を取っていた。
「まぁ、神器を創るという半端ない存在がいるくらいなんだから、予言者ぐらいいてもいいよな。」
第一、ラミア姫達の祖母も予言の力は持っていたみたいだし。
・・・精度は高くないみただけれど。
血が濃かった何代も前の世代なら、もっと強い力だったのかも知れない。
「かくて真実を視し者は、実像を視る必要はなく、映るモノ全てが世界也か・・・。」
代償があっても、そんな力が欲しかったのかね。
・・・それくらい切羽詰まってたのか。
額面通りに受け取れば、主の役に立ちたかったのだろうけれど。
視力を失うんじゃな・・・。
例えば、オレとの関係上、一番近いレイアが主であるオレの為に視力を失う。
つまりはそういう事で、そんな事がもしあったとしたら?
「ヤベ、耐えられんな、ゾっとする。」
しかし、その従者とやらは、本当に存在していたのだろうか?
居ればディーンとヴァンハイトの結末も予言出来たんじゃないのだろうか?
そもそも誰の従者で、あの戦いの最中にどうなったのだろう。
誰の従者だったのかという事に限れば、セイブラムという確率が一番高い。
でなければ、セイブラム方面でのみ伝わるという形で残らなかったはずだ。
もし、能力を持っていなかったとしてもだ。
従者がいたという事実だったり、従者すらいなくても何かそれを連想させる出来事があったのか知れない。
「しかし・・・世の中、広くて知らない事ばかりだな。」
当分は図書館通いでも良い気がしてきたよ。
ここに来る途中、馬車から外の風景を見たけれど・・・。
「本当、オレの存在なんてちっぽけだなぁ。」
なんて。
自然や歴史って凄いよな。
だからこそ小さな人間同士、種族同士で差別とか、いがみ合ったりとか本当に馬鹿らしい。
断然、皆が笑い合える方がいいじゃないか。
少なくともオレは、オレの周りの者達の為に最低限の世界をつくらなければならない。
今はそう思える。
「ディーンやトウマの事を棚に上げるワケじゃないよ・・・。」
出来る事があるなら、やっておきたいんだよ。
「どうせ、後で罰を受けるなら、最後には笑って受けたいじゃないか、なぁ?」
思わず、オレは気配のした方にくるりと向いて同意を求めてしまった。
流れだ。
「何だ、君か。」
殺気とか無かったしな。
「こんな所にいらっしゃいましたか。探したんですのよ?」
にっこりと笑顔でオレを迎えたのは、アイシャ姫だった。
正直、彼女に会う度に戦いに巻き込まれているオレとしては、現在最もお会いしたくない相手だ。
「えぇと、探しておられたという事は、何か用事が私めにあるという事ですよね?」
思わず敬語に・・・しかも慇懃無礼。
ちなみに当然、オレは彼女に用事などない。
ないのだよ。
それにしても、一応両手に包帯巻いたままで良かった。
じゃなきゃ、完全に変人扱いが待っていただろう。
いや、この姫だったら多分、そういう体質なんだとアテにされ、様々な厄介事を言い渡されそうだ。
「そんな他人行儀になさらなくても・・・。」
眉をハの字にさせてションボリする姫に、オレは思わず『他人だろうが。』と言い放ちたくなるのをぐっと堪える。
貴族相手に事を荒立てると面倒だ。
今のオレはただの平民、ただの平民、ただの平民・・・。
「初めてくちづけをした仲ですのに。」
「ぶっふぅっっっ!?」
だっ、誰かっっ、オレに空気を・・・窒息する!
初めてって・・・まぁ、オレもキスは・・・いや、それは置いといて、だ。
「あ、あの、姫?まさか、それを誰かにおっしゃったりとか・・・してませんよね?」
声が上ずってしまった。
「どうだったかしら?」
記憶を確認しているのかっ!
首を捻るな!
答えを待つ間、冷や汗しか出ないじゃないか!
「・・・・・・・・・基本的に。」
例外はどのようなので、どうしてそうなるのですかね?
脱力。
最悪、この施設からの脱走の準備でも始めるかな、こりゃ。
「と、いうのは置いておきまして。」
置いておかれても困る問題なんだが。
「今回は一つお願いがございまして。」
「・・・またですか?次はどなたと戦うんですか?」
クロアート人って、戦闘狂なんじゃないか?ぐらいの勢いで聞き返す。
「いえ、そうではなくて、今回は私の国の者・・・部下みたいなものに会って欲しいのです。」
・・・最初からオレが戦う展開か?こりゃ。
「なにゆえに?」
もしかして例外ってのはその部下達じゃないだろうな?
んでもって、我が主になんて事を許すまじ!とかいう・・・。
「この間の戦いの事を見聞きした者達の稽古を見て頂きたいと思いまして。」
それはそれで、話が大きくなっているんじゃないだろうか?
「見るって、この両手の通り、オレは戦えないし弱いんだけど?」
ふふふ、実は中身は完治しているとは思うまい。
大体、あんな大斧の槍を振るう怪力の奴等の武器なんざ、オレは受けたくもない。
「大丈夫ですわ、トウマさんに見て頂けるだけで。」
「本当でしょうね?」
正直、他国の武器を使った戦術を見るのは、オレの戦いの得になる。
どうせ断れないくらいの身分差だしな。
外交問題とかに発展しても御免だ。
「えぇ、ご迷惑はおかけしませんわ。」
はぁ・・・。
姫様、前回もそんな事言ってませんでしたかねぇ?