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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Jackpot! 皇子は宝の山に狂喜する?【後】

 どっさりとオレの横に塔のように積まれたブ厚い本達。

枕にするにも、きっと硬過ぎて使い様もないだろう存在感の本。

というか、絶対魘される。

その本達を片っ端から読み漁っているところ。

まず挑戦したのは戯曲集だ。

それも古いものばかりで、それでいて古典と言われている正統派ではないもの。

大衆演劇用に書かれたものや、それこそお伽話と呼ばれる範疇のものまで。

戯曲集の横には、それに合わせた年代以前の歴史書。

これも国とかで編纂された由緒あるものでなく、民間伝承や偽典と呼ばれるものが主体だ。

「これにも特にそれらしきものはないか・・・。」

 調べたかったものは、あの場に居た人間達の物語の結末ではなく、そこに至る前の彼等を見た者達等で綴られた物語。

そうだ、オレがあの時。

"剣を初めて持った時に視た光景の"

彼等の出身の手掛かりになるようなものだ。

少しでも、ディーン達の話。

彼の事をどうしても知りたかった。

物語や歴史書は、残念ながら改竄されたり、載ってない事が沢山ある事をオレは既に知っている。

オレはあの光景が嘘や幻とは思っていない。

だから、それを裏付けるような何かが欲しい。

「うぅ・・・流石に疲れた・・・。」

 単語のみで斜め読みの検索状態とはいえ、本自体がデカかったり厚かったりと読むのですら四苦八苦だ。

しかも、読んだ物のほとんどが、何処の国の国民でも"最低一つは言える神器"の話ばかり。

"クロアートの天斧槍" "セルブの流細剣"とか。

「"ヴァンハイトの双星剣"・・・で、"セイブラムの王錫"か・・・。」

 他にもあるがな、"地樹槍"とか。

どの説が正しいのかわからないが、一般的に神器を持つ英雄と呼ばれる存在は六、七人はいたという事くらいか。

当の神器の名称も持ち主の名前部分以外は、通称とか後世につけられたものであるらしく、本によってまちまちだったりする。

その名の由来となる物語も色んな地で上演されていた様で、解釈も様々。

斧と槍の持ち主は姉弟だったとか、誰と誰が恋愛関係だとかの悲恋物語とか・・・中には同性同士の禁断の・・・多岐に渡る。

最後の辺りは突っ込むな。

「着眼点は悪くなかったと思ったんだけどなぁ・・・。」

 大体、神器はどうやって生まれたのかもわからん。

ただ、わかった事は、セイブラムの英雄が女性だってのは確定。

神器は結局は相性だし、人を選ぶというのは周知の事実だから全く驚きはしないけどな。

着眼点は本当に良かった。

「着地地点が悪かっただけだ、うん。」

 本を読んで拾えた単語の使える部分だけでも、脳みそに入れておこう。

「物凄い速度ねぇ。」

 あ、完全に忘れてた。

「流して読んでるだけですから。」

 実際のところ速い方なのかも知れない。

城の外に出でから、自分の能力が世間の他の人間と比べて、どれくらいの位置になるのか少しずつ把握しようとは考えてはいる。

だって、今までの比較対象は兄上とバルドくらいしかいなかったから。

ここに来て、オレの戦い方は一般的な貴族階級と比べて、全然綺麗じゃないのは完全に理解した。

寧ろ、余りにも皇族としては激しいってコトも。

オレの人生の大半は机上の空論みたいに、実地というか基準というか・・・まぁ、わかって欲しい。

「それでも速いと思うのだけれど?」

 本を読む為に視線を落としているせいか、女性の口元辺りまでしか視界に入ってないので表情は全く読めない。

あ、下唇の辺りにホクロがあるのは見えるな。

こういうのって、妙に色っぽく見えるのはなんでだろうね。

「さぁ?他人と比べた事がないんで。」

 本当に。

「今まではどんな本を?」

 何だ?質問時間か?質疑応答か?

他に話し相手になるようなヤツがいないから、仕方がないと言えば仕方がないが。

「本と見れば何でも。興味のある内容なら更に深く。」

 だって他には、バルド相手に剣の練習くらいしかやる事なかったし。

皇室長官くらいか?

他に話し相手と言えば。

あぁ、長官か・・・ついでに嫁探しも此処でしてやろうか、こんちくしょう。

オリエの母親役ってのもアリだなぁ・・・って、シルビアやミランダに任せればいいじゃん。

置いてきた人間、探している人気の顔が次々と浮かんで来た。

意外と増えてきたじゃねぇか、アルム。

「じゃあ、博識なのかしら?博識な貴方にちょっと質問。というか、意見を聞いていいかしら?」

「面どっ・・・あぁ、どうぞ。」

 今迄、面倒とか思ってロクな事がなかったから、いっそ発想を逆転して進んで聞いてみよう、うん。

「貴方は、宗教国家をどう思う?」

「は?」

 前言撤回。

前向きだろうが、後ろ向きだろうが、面倒なモノは面倒。

「それはセイブラム法皇国をってコトで?」

 思わず、本から顔を上げ、女性の顔を見る。

整った顔立ちの余裕の笑み。

何か、何処かで見たような感じがする。

「むむぅ・・・素晴らしい法を持つ国としては良いと思う。」

 国を治めて動かすにあたって良い法と、民という人間達を治める良い法は別な場合がある。

それが欠点だと思うんだよ、オレ。

「宗教というか、思想?そういうのは人の心の安寧をもたらす為には良いと思うし・・・。」

 だから、この世界の人々は神器を受け継ぐ英雄を王に求める。

「ただ、政治は善だけでは行われず、人もまた善だけでは成り立っていないから。悲しい事だと思うけれど。」

 だから戦があり、英雄が必要で王がいる。

だから人が集まって国ができ、法がある。

だからって、貴族主義に諸手を上げて賛成だけはしないが。

「人がそういうのを超えた先に行く為には、何段階かの試練があって、それには気の遠くなる時間が必要か、或いは・・・。」

 或いは・・・。

「それを待たずして滅ぶかだと思う。」

 ヴァンハイトを見ればわかるだろう?

「少なくとも滅ぶ時間を遅らせる、防止する要因としては宗教国家、法皇国という存在は悪くないと思う。」

 あくまでも延命だと・・・人の欲は限りないから。

だって、まさに今のオレがそうじゃないか?

こんな所まで来て、シルビアを探したり、オリエを保護したりさ。

最初はミランダくらしか居なかったんだぜ?

「未だ試行錯誤、模索が必要というコトね。」

 つか、そういう思考を停止したら、それこそ人間自体が種としてお終いなんじゃないかな。

「かな。あ、次、この本を片付けたら、法に関する本と建築関係の本てありますか?」

「まだ読むの?よっぽど本好きなのね。でも・・・建築?」

 あはは、やっぱりオレ、文官人間に見えないんですね。

武官向きに見えると。

昨日の事を見た人間の前じゃ、たとえ文官だと強く主張したところで誰も信じちゃくれないだろうから、今更どうでもいいっちゃいいけど。

「他国との法の比較をしてみて良い点を持ち帰って報告したいし、建築は・・・。」

「建築は?」

「・・・・・・実家の職業が大工なもんで。」

 ちょっと苦しいか?苦しいよな?

法に関する勉強は元々ずっと学んでいた。

流石に国全体の法には組み込めないが、リッヒニドスの条例で良い制度があったら、是非カーライルと相談したいところだ。

建築は、この施設に入ってから学ぼうと考え始めた。

きっかけは・・・アイシャ姫の所のお風呂。

アレがさ、もし州府にあったら。

いや、城にはあるよ?

そうじゃなくて、皆で入浴。

民も気軽に入れるような公衆浴場。

そんなのがあったら良くないか?

リッヒニドスには長旅をしてくる行商人もいるし、天領で働く労働者もいる。

そんな者達を癒す施設。

アリだろ?アリだと思うんだ。

ミリィとオリエの喜びを見て、そう思った。

技術的に大変だったら、蒸し風呂と水風呂だけでもいい。

その為には水に強い建築物の造りや水を川から効率的に引き込める方法など色々と覚えたい。

我ながら安直だと思うが、折角こういう施設に来たんだ。

新しい事を始めたり、学んだりしてもいいんじゃないかと思う。

「自分の出身地が辺境なもので、良い建築法を学びたいと。」

 あぁ、オレ、一応、リッヒニドス出身な。

またもや設定上だけど、ヴァンハイトの皇族は元々リッヒニドスから遷都したんだから、ある意味で嘘じゃない。

「す・・・。」

「す?」

「素晴らしいですわ!自らが学びたいモノを見つけ、学びたいだけ学び血肉にする!これぞ理想の学び舎です!」

 はぁ・・・て、この発言・・・て?

「あ、施設長?」

 そりゃ、何処かで見た事あるよ!

オレ、自分に関係ない人間と一度思うとダメだな。

「・・・ちょっぴり、今の傷つきました・・・。」

 ですよね!

自分でも酷いと思いました。

「では、今の本を片付けて、次の本をご用意致しましょう~。」

「あ、オレもやります。」

 開いたままの本と閉じて、本の塔の最上階に積も・・・。

「ん?」

 今、見慣れない単語が・・・飛び込んだ。

「"従者に舞い降りた奇跡"?」

 新単語発見。

「あぁ、それは我がセイブラムの北方辺りに伝わるお話ですねぇ。」

「お話?」

「英雄譚の中のちょっとしたオマケ話ですね。」

 オマケ。

・・・オマケは多い方がいいよな?今は。

「ちなみにどんなオマケで?」

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