Jackpot! 皇子は宝の山に狂喜する?【前】
翌朝。
身体の重さに驚きつつ、瞳を開く。
「そうだった・・・。」
昨夜、半刻以上かけて口論、討論した結果、一つの大きな寝台で三人で寝たのだ。
何故かは聞くな。
ミリィはオレの胸辺りに頭を乗せたまま、未だにすぅすぅと寝息を立てている。
オリエは・・・。
「おはよう、オリエ。」
既に目を覚ましていた。
朝の挨拶をすると、もぞもぞと布団の中を移動してオレの顔の横までせり上がって来る。
「よく眠れた?」
じっとオレを見詰めたまま頷く。
「良かった。今日からは沢山、一緒に勉強とか頑張ろうな?」
ミリィが乗っている右腕と反対の腕で彼女の頭を撫でる。
「あれ?」
切り傷の怪我をした左腕でオリエを撫でて・・・・・・痛みは?
何で?
「ちょっとオリエ。悪いけど、一回、こっちの腕の包帯解いてくれる?」
・・・前にも一度あったよなぁ。
恐る恐るオレの包帯を解いていくオリエ。
果たして、そこには?!
「と、怪我が治ってるワケね。」
さて、この原因は何だろね。
近くにディーンの剣があるのか?
いや、でもアレはディーンの剣につけられた傷を、剣自身が治したという理屈であって、今回とは違う。
ましてやオレ自身の能力なんかでもない。
その証拠に前にエルフの森で傷つけられた傷は、一晩で完治なんざしなかった。
「今回はどういう原理なんだろね?」
思わずオリエに聞いてしまったが、わかるハズもなく。
無傷になり、包帯を解かれてさっぱりした腕で彼女の頬を撫でる。
とてもくすぐったそうに目を細めるオリエ。
「可愛いよ、オリエ。」
これからはこれを口癖にでもするかな。
それもいいかも知れん。
「勿論、ミリィ、君もね。」
「あ、ありがとうございます。」
何時の間にやら起きていたミリィにも同様に告げる。
「さて、ミリィの涎を拭いて、今日の学習内容を決めないとね。」
「えっ?!」
さっと袖口で自分の口元を隠すミリィを横目に笑う。
「あ!騙しましたね!!」
とりあえず、剣術・体術の類はやめておかないとな。
昨日あんだけ目立ってしまったし・・・他国の剣術とか見学したかったのに。
「はぁ・・・。」
昨日の出来事を思い出すと、朝からぐったりと疲れてしまいそうなので早々に思考から切り捨てる。
朝食を済ませてミリィとオリエを送り出すと、今日のオレは実は暇なんだよ。
よくよく考えたら、オレ、大衆環視の前で怪我をしたワケだろう?
出血もしたし。
それが一晩で完治するとかって、どう考えてもおかしい、怪しいと気づいた。
ので、本日はお留守番。
部屋でじっとしているつもりは、全くないので一路"図書館"とやらに。
「先入観とかにとらわれなければ、知識はいくらあっても困らないからな。」
本を読んで、ついでに昨日の事やこれから何を学ぶとか、色々と考える事は盛り沢山ある。
我がなら前向きになったなぁ・・・という事にしておいて欲しい。
昨日の剣の毒の事は、恐らく第三者少なくとも戦った本人同士は関与していないと思っている。
曰く、動機がない。
いや、確かに二人は面識も因縁もあるが、あるとしてもどう考えても二人が真っ先に疑われる以上、可能性は限りなく低い。
二人の因縁のようなモノは知っている人間はオレがいるし、今後の事を考えたら疑惑を持たれたまま行動するのは大変だ。
「お陰でオレが目立ったと。」
溜め息一つ。
さて、考えながら迷わず目的地に着いたのはいいが。
「広ぇな、こりゃ。」
本棚で迷路が造れそうだ。
「万単位は・・・あるか?」
何を調べるにしてもだ、さてどこをどう手をつければ良いのやら・・・。
「まいったな。」
管理している人間はいないのか?
吹き抜けの階層の壁という壁にびっしりと備え付けられている棚の前で途方に暮れる。
三階層くらいの高さはある。
「うぅむ。」
恐らく、分類くらいはされているだろう。
「あたりをつけて、片端から背表紙の題字を見て周るか・・・。」
どうかきちんと分類されてますよーに。
「ふぅ。普通こういうのは知的な美人のお姉さんが、管理しているのが相場だろうに。」
もしくは、ひげもぢゃのおぢぃさん。
あぁ、偏見だ。
「美人かどうかは、自信ないですねぇ。」
ん?あれですな、この展開は・・・。
「見なくてもわかります、きっと美人です、えぇ。」
展開的に飽きてくるよな、うん。
「あら、まぁ、大した自信なんですね。」
本棚の影から出てきた女性。
長い金髪に紫の瞳。
肌は白く、身長はオレより上でスラリとした知的な女性。
とがった顎にぷるるんとした唇。
なだらかな身体の曲線。
太過ぎず、細過ぎず。
どこをどうとっても美人です。
「褒めても何も出ませんよ?」
今・・・。
「気のせいか?」
オレ、今、美人て口に出てたか?
出てたか。
「どうしました?」
にっこりと微笑む知的美人。
何処かで見たような・・・。
いかんな、もっと人に関心を持たねば。
何時、出会い頭にヤラれるかわからん。
それはもうラミア姫でもアイシャ姫でも懲りてる。
「オレの独り言は、何処まで聞こえてました?幾つか読みたい本があるんですけれど・・・管理人さんですよね?」
確信はない。
ただ、ここで出てきたんだから流れ的にそうだといいなぁという程度。
主にオレが楽でいい。
「えぇ、そんなカンジですかねぇ。」
万歳。
「あのこれから言うようなのが題材の本ってありますかね?」
早々に協力をお願いしてみた。