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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Inability! 皇子は一日で二度遭遇する。【後】

ハッピバースデー自分(爆笑)

「帰ってしまわれるのですか?」

 兄上を退散させた後に、自分達も部屋に戻ろうとしたオレ達にそうアイシャ姫が声をかける。

どいつもこいつも自重しろよ。

あ、オレもか。

「元々、オレ達は別の部屋だし、ほら、用事も済んだしねぇ?」

 その結果が左手が使えず、右手は完全固定という有様なんだがね。

「でも、そのお怪我じゃ不自由ですし・・・。」

 心配そうにうるるとオレの両手を眺める。

何か、本当にコレ、さっきまであんな長くて重い武器を振り回してた人と同一人物?

「その為にミリィ達もいるし。」

 ね?と語りかけたミリィが力強く頷く。

違う意味で心配だが。

ここにいて怪我の治りが早くなるワケじゃないし。

「何か最近、怪我とか倒れるのに慣れ始めてるし。」

 自分の現状の弱さも把握出来たし。

「それに夕飯を取りに行かないと。今日はオリエの好きなモノを食べる約束したし。ね?」

 オリエに微笑みかけると、コックリと無言で頷く。

沢山栄養のあるものを食べてもらって、少しでもその軽い身体を健康的なものにしてもらねば。

最早、それはオレの使命の一つだ。

「それでしたら、ここで・・・。」

「結構です。」

 これは即答でお断りする。

何やら宮廷料理とか出てきそうで怖い。

オレ、意外と貧乏性。

「何度も言うけど、目立ちたくないんだ。夜分に貴族のお姫様の居る所から、男が出てきただけでも大変だ。」

 首をすくめるオレに、不思議そうに首を傾げるアイシャ姫。

これだから、箱入りは・・・。

「ま、荷物の整理もあるし、今回は遠慮しておくよ。」

 なんて社交辞令。

ミリィとオリエを大きなお風呂に入れてあげたいから、来てもいいんだろうけれどな。

「それでは次の機会に。」 

 あぁ、やっぱりこの笑顔は、"社交辞令"という単語が脳に無いらしい。

困ったな。

次は何か別の理由を考えなくては。

会わない様に常に逃げ続けてやろうか・・・。

「あぁっ!忘れてましたわ。」

 今度はナニさ。

「どうかなさいましたかねぇ・・・。」

 どうせロクなコトじゃないだろうが、設定上はかなり身分が上なので無視するわけにもいかない。

思い出した様にその場を去ろうとしていたオレに近づくアイシャ姫は、その笑顔のままでオレにくちづけした。

「な、何を?!」

 呆気にとられるオレ以上に、驚いているミリィとオリエ。

何て子供の情操教育の宜しくない事を!

「お約束していた見返りですわ。」

「・・・はい?」

 何時そんな見返りを頼んだ?

「古来より女性を助けた殿方には、祝福のくちづけと決まっておりますもの。」

 何処のお伽噺の世界じゃぁっ!!

「お伽噺の王子と姫じゃないんだから・・・。」

 あぁ、オレは皇子だったな、一応。

立場的には変ではないのか。

「お約束かと?」

 全く以て悪気皆無のアイシャ姫。

「オリエの教育上よろしくないので、自重して下さい。」

 脱力しきった精神では、その一言を返すのがやっとだった。

どうせ意味なんて理解してくれないんだろうな、この姫は。

結局、初日から流血沙汰で怪我をして、夕飯を食べるという流れは我ながら何とも言えない。

でも、三人で食べた夕食は楽しかったんだ。

例えオリエが喋れなかったとしても。

 夕飯を終えて、ミリィが片付けの為に部屋を出たのを確認するとオレはオリエを手招きした。

椅子代わりに寝台に座る(行儀悪い)オレの横にちょこんと座るオリエ。

「ごめんね、オリエ。」

 ただ楽になりたいだけだと言われたとしたとしても。

「オリエの今までの境遇の何割かは、きっとオレのせいだ。」

 ヴァンハイト、皇族、大人、男・・・このどれを取ったとしても。

「だから、オリエを可哀想だと思うのと、自分が楽になりたいと思うのと半々だった。」

 世界の一端にいる人間としても。

「きっとオレは善人のフリをしていたいだけなんだとも思う。」

 だから、きちんと言わないとな。

「何時かきっと、オリエみたいな人間達をなくす様にするから・・・努力するから・・・。」

 誓わないとオレが耐えられない。

声に出して言わないと崩れていきそうだ・・・その困難さに。

それでも誓わなきゃなんない。

やらなければならないから。

オレは必ず。

現実は何もしなくても待ってはくれないし、やって来るんだ。

「どうした?」

 オレの横に座っていたオリエが、おもむろに寝台の上に立ち上がる。

彼女の小さくて可愛い唇が、オレの頬に触れる。

「ほへ?」

 一体?

というか、どういう意味?

オリエはそんな混乱しているオレに応えるように、手を取り指で字を書いていく。

「・・・お礼?」

 オレの手の平に描かれたその文字を読んで、コクリと頷く。

・・・早速表れてしまったアイシャ姫の影響にオレはただただ頭を抱えた。

つまり、だ。

"オリエ(女性)を助けたオレ(殿方)には、祝福のくちづけを"

ただ・・・オリエはオリエで考えて、感謝の意を表したかったんだ。

例え、オレのした事がオレの自己満足的な偽善的な行為だったとしても。

にこりと微笑むオリエに、オレは自然と微笑み返せていた。

なんだ、意外とオレはまだ頑張れるじゃないか。

オレの笑顔を確認すると、オリエの指は再び文字を描いていく。

一文字一文字をゆっくりと。

「ありがとう。」

 綴られていく文字コトバにオレは心からそう述べた。

彼女の気持ち。

"妹でも娘でも。なれるなら、どっちでもいい。"

そんな想いに、オレは全力で応えようと再度心に誓った。

何に遭遇したのかは、そういう事で(苦笑)


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