Inability! 皇子は一日で二度遭遇する。【前】
「あぁ・・・酷ひメにあっら。」
完全には痺れの取れない身体で呻く。
酷いメというのは、どちらかいうとありったけの種類の薬を混乱するミリィに飲まされたという方だったりもする。
一応、痺れ薬に効くとされている物だけを口の中に放り込まれただけでも、良しとするべきなんだろうか?
左手には包帯が巻かれ、綺麗な蝶々結びで留めてある。
「流石、ミリィ。」
手当て慣れ過ぎだ。
右手は一応、手首から固定されてはいるが、骨は大丈夫のようだった。
「もー、いい加減自重して下さい。怪我をするなら、すると予め教えて下さい、トウマ様。」
涙目がようやく治まったミリィが、少し怒り出す。
「かなり・・・難易度の高ひコトを・・・。」
そうは言っても、好き好んで怪我をしているわけじゃなくて、ただ単にオレが弱っちぃだけ。
泣けてくる現実だ。
「困ったもんだねぇ、オレも。」
「自分で言わないで下さい!」
バンバンと寝台を叩くミリィ。
埃がたつじゃないか。
というか、オレ達のと違って大いにフカフカだな、ヲイ。
ここまで扱いに差が出ると、いっそ清々しくて反貴族派になりそうだぜ。
「と、馬鹿な考えはおいといて。」
ようやく痺れも引き、痛みだけが残った身体を起こすとオリエが寄って来る。
「オリエ?」
一通り、オレとミリィのやりとりが終ってから、行動するのがオリエらしい。
オレの傍らに来たオリエは、おもむろにオレの頭を撫で撫でと・・・。
「あうぅ・・・オリエ、ありがとーっ!」
オレ、感激。
「意外というか、やっぱり元気じゃないか。」
「ん?」
部屋の扉に立つ人物。
・・・見なかった事にしよう。
「オリエ、今日の夕飯は何にしようか?オリエの好きな物にしよう、そうしよう。」
「私は"建前上"の上司にあたる人間なのだが?」
だって、面倒なんだもん。
「上司というか、皇太子がたかが一兵卒の怪我如きで、しかもこれ見よがしに神器をブラ下げて。」
弟馬鹿にもほとほと呆れるよ。
オレは、完全には貴方の味方にはなれないというのに・・・。
「そうだな。何かと物騒だからな。模擬戦用の武器類が全て真剣にすり換えられるくらい。」
返す言葉も御座いませんよ、えぇ。
「んで、何時、誰が、何の為に?」
そっちの方が大事。
「武器は備え付けだが定期的に確認しているから、何時かは直前だな。誰がはどちら側も有り得る。勿論、第三者も。」
ラスロー王子側はあからさま過ぎるなぁ。
「ラスロー王子の武器をすり換えたのは、アイシャ姫側のがまだしっくり来ますね。」
それでも動機からすれば、犯人は広範囲に及ぶ。
「愉快犯、謀略、暗殺、選り取りみどりだな。」
「暗殺はどうかと思いますね。」
だったら、痺れ薬なんか使わずに毒にすればいい。
人を殺せるような。
それに互いの実力は拮抗していた。
そんな他人任せ過ぎる手段は、温過ぎる。
「ところで。」
「はい?」
急に険しい表情になり、声音も真剣なモノになる。
「その子は見ない子だが?誰だい?」
兄上はオリエを見る。
確かに紹介すらしてないな。
「この子は、オリエと言います。」
あー、どう説明するかな・・・面倒。
「ん~、オリエ、オレの娘になるのと妹になるのとどっちがいい?」
小声でオリエに囁く。
「アル、聞こえてるぞ。」
耳が良い兄上だな、もう。
「ま、そんな感じの子です。少し障害はありますが、優しくて優秀な子ですよ。」
何せ、きちんと読み書きが出来て、それなりの歴史書を与えると次々と読破していったくらいだ。
ちゃんと後で筆記で聞いたが、本の内容もしっかり理解していた。
「そうか。そう言うならそうなんだろう。私の自己紹介は、国に帰った時にさせてもらうよ?」
・・・どうしてもオレの兄上の皇太子だと、自己紹介したらしいな。
余計に面倒だ。
「用が済んだら、さっさとお帰り下さい。オレももうすぐ出ますから。理由は察して下さい。」
だって、ここは他国のお貴族様の屋敷の一室ですよ?
そこに他国の男がいるのも問題なのに、目の前の人間は皇太子ですからねぇ。
変な噂が流れたりしたら、互いに大変だ。
「わかった。あと数日は施設にいるぞ。」
「はいはい。何かあったら連絡しますよ。」
基本的には絶対しませんが。
とにかく、さっさと兄上を部屋から追い出す事に成功はしたのだった。




