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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Hurry! 皇子は最中に躍り出る。【前】

まだ何処に何があるのかすら把握しきっていないオレを案内してくれるのは、アイシャ姫の従者の一人だった。

オレを部屋まで迎えに来てくれた、男の子だった。

「悪いね、オレの従者でも何でもないのに世話かけて。」

「いいえ、コレもボクの勤めですから。」

 にっこりと微笑む低身長の彼の頭にある円形の耳がピコピコ揺れる。

彼・・・あぁ、"マール"君と言うのだそうだが、亜人種だそうだ。

亜人種というのは、獣人と人間の混血で時に獣人を超える力を持っていたり、人間やエルフ以上の知能と持っていたりする人種だ。

そんな優秀な種族を部下に持ってるなんて、貴族の姫は違うなぁ・・・。

ウチにも"巨大熊"ならいるんだが・・・多分、純粋な人間だけれど。

「マール君は、武官なの?文官なの?」

 その優秀さ故に、人種差別の対象では全く無く、寧ろ高待遇。

しかも、世界で一番出生率や人口が少ない。

「悩むところです。ボクはまだ"未分化"なので、得意分野がはっきりしなくて。」

 "未分化"というのは、獣人の血と人間の血のどちらが濃く出ているか判明してない事をさす言葉だ。

どちらに寄るかによって、能力が違う。

「じゃあ、この施設はうってつけだねぇ。」

 そういう意味で彼は、至極真っ当なあるべき施設の役割の恩恵を受けられそうな対象だ。

「あ、この奥です。」

 茶色の丸い瞳と丸い耳をくりくりと動かす様は、リスを彷彿させる。

「意外と広いね。見物人も少なくないし。」

 練武場は円形で、その広さは四、五百人と同時に入れるくらいだ。

更に観客席も同じくらいの人数は入るだろう。

野次馬半分、自国の応援半分と・・・まぁ、百人はいない。

「それじゃあ、ボクはアイシャ様の準備を手伝ってきます。」

「ん。頑張って。」

「あはっ、ボクが頑張る事は特にないんですけどね。」

 そりゃ、そうか。

トコトコトコっと駆けていくマール君の後ろ姿もリスだな、アレは。

「さてと・・・。」

 向かって右側がアイシャ姫の応援する側という事は、左側が対戦相手側か。

「ここで、オレが左側へ行って応援したら、面白いかな?」

 言ってみただけだぞ?そこまで意地悪ではない。

中央に陣取っているのは、それこそ完全な野次馬達。

ミリィとオリエを連れて来なくて正解だったわ。

二人共、争いごとの全てが嫌いだしな。

「おかしいなぁ・・・オレも嫌いなんだが・・・。」

 誰も聞いてくれないんだよなぁ。

「これより、クロアート帝国代表アイシャ姫とセルブ王国代表ラスロー王子の対決を行う!」

 練武場に響く声。

へぇ、あの優男、王子だったんだ・・・と、思ったより何の感慨も湧かないのは何故だろう?

同じ王子と皇子なのに。

「オレの自覚が薄いのか?」

 セルブ王国はクロアートの北西にある国で、国境間にマール君のような獣人の血を引く種族の自治領がある。

「なぁんか、国同士のいざこざが透けて見えるね、ヤダヤダ。」

 代理戦争じゃねぇんだぞ、アホか。

名を呼ばれた二人が、向かい合い同時に礼をする。

真紅の重装鎧に長い柄の戦斧を持つアイシャ姫。

対するは、白い上半身鎧と細剣を掲げるラスロー王子。

得物を単純に比較したら、細剣のがひ弱いで不利に感じるが・・・。

「構えっ!」

 腰だめに槍斧を構えるアイシャ姫。

ラスロー王子は体勢を低くし、こめかみ辺りに水平に剣を構える。

「かったいなぁ。」

 中央の野次馬席(?)で一人呟く。

相手の大振りをかいぐぐって、間合いを殺し突きを多用して、間隙を縫うのが堅い。

鎧の更に隙間を縫うのは、至難の技だが彼には自信があるのだろう。

「始めっ!」

 合図と共に圧倒的な速さで間合いを詰めに行くのは、当然ラスロー王子。

お約束通りの突きは、アイシャ姫の槍斧で叩き落とされたが。

弾かれた反動を使って距離を取ると、その場所にすぐさま槍斧が叩きつけられる。

「鍵は速さと・・・体力か。」

「間合いの広さの問題もあるかと・・・。」

「ん?」

 オレの胸辺り、顎の下からマール君の声が。

「速さがあれば間合いは削り取れるよ。あの程度なら。」

 オレだってかい潜れない事はない。

速さはオレの剣術の主体でもある。

ただそこからの攻撃手段は、一考しなければならない。

「マール君、ところでこんなに早く戻ってきていいのかい?」

 主が戦っているのに何とも暢気な。

「始まってしまったら、終るまでボクには何も出来ないですよ。」

 まぁ、そうなんだが・・・意外と大雑把でもあるな彼。

こういうして会話している間にも当然戦いは進んでいる。

予想通り、二人が得物同士を打ち合う事はない。

柄で弾く光景は何度かあるが、軽量の細剣だから耐久度的な問題だ。

今回は真剣じゃなくて刃も潰してあるし、先も多少丸くなっている分だけ耐久度が高い程度。

「ん?」

「どうしました?」

「・・・マール君。従者として、きちんと主の身の回りの物の確認はしているかい?」

 当然の仕事なんだが・・・。

「はい?そりゃ、一応は。」

 う~ん。

やっぱり、彼は大雑把なんだな。

「マール君・・・一つ貸しね。」

 オレはヤレヤレと大きな溜め息をついた。

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