Gathering! 皇子が潜入した先は。【後】
「いやぁ、悪いね。彼女達に良い待遇を与えてやりたくてさぁ。」
二百歩譲った結果、そのアイシャ姫の部屋のだたっ広くて無駄に豪華な浴場を使わせてもらうのと引き換えに招待されてやる事にした。
「流石は"クロアート帝国"の地位ある人間は凄いなぁ。」
施設に入る時に見えた、あのでっかい建物群の一つの屋敷だ。
天井は高いし、中は白や金・銀しているし明るさは煌々としてるし・・・。
「帝国と言っても、私の一族はその端の"アクヴィウム領"を治めているだけですから。」
クロアート帝国は、ヴァンハイトから北西に位置する隣国で、神器を祭っているのはウチと同じだ。
確か・・・"アクヴィウム"はその国の南西の端にある城塞都市だ。
カーライルから借りた地図に載っていたので、何とか覚えた地名の一つ。
「まぁ、お風呂を借りられて良かったよ。」
「それくらいでしたら、何時でもお貸ししますわ。」
にっこりと微笑む決闘女、アイシャ姫。
お貴族様は違うね、どうも。
「ありがとう。ところで、オレを呼びつけたのは、その格好と何か関係あるのかな?」
優雅に微笑む彼女は、以前のレイアも真っ青な全身鎧。
しかも、盾なんざ取り付ける必要のないくらいの重装甲。
盾の代わりに肩の部分の鎧が、上と横に張り出ている。
そして、何よりその色。
全身、真紅。
「そんな重装機甲兵師団みたいな物騒な格好で・・・。」
呆れつつも、その異様な圧迫感を前にどうやったら、的確に制圧出来るかを考えてしまうのは、きっとバルドの教育のせいだ。
「あら、例の各国の技術交流の一環ですわ。」
「乗ったのかよ・・・。」
決闘の時といい、困った姫さんだ。
「乗ったというより、言い出しっぺですので・・・。」
・・・全く困ったもんだ。
赤い服を着ていたから嫌な気はしていたが、あのオッサンやっぱりクロアート人だったのか。
「ま、頑張れ。と言っても、そんな重装甲相手に勝つなんて・・・。」
「なんて?」
「いなくはないな。」
やりようはある。
バルドだったら、余裕だろうし・・・オレも攻め方によれば或いは。
「あら。やっぱり世の中は広いんですのね。」
何故か感動したらしく、ぽんっと両手を合わせて叩く。
「トウマさ・・・トウマは参加なさらないの?」
今、言い直したな?
あれほど身分の差を考えろと言ったのに。
この場所の今の時間は、オレと姫しかいないみたいだからいいけれど。
人払いしてあるようだし。
「なんで?しないよ。」
「残念・・・。」
何が残念なんだよ。
「オレ、負けるの嫌だもん。落ち込むし。」
それ以前にくだらないというのもあるんだが。
多分、相手が強ければ強い程、手加減とか余裕が無くなっていくのが嫌だ。
バルドに教えられた剣は、剣術というより死なない負けない方法。
そして効率の良い相手の制圧の仕方だから、相手を殺す事ばかり考えてしまう。
貴族のお綺麗な剣術では一切ない。
あとな、自分がどの程度の強さの位置にいるか、今ひとつピンと来ないってのも大きい。
「それに出るなら、双剣使わなきゃなんないし。」
好きな武器を使っていいと言われたとしても、お断りだがな。
「で、ヴァンハイトは不参加。宗教国家は・・・えぇと。」
国名ド忘れした。
「当然、"セイブラム法皇国"は不参加ですね。元来、あの国の神器は王錫ですし。」
セイブラム法皇国ねぇ・・・位置はウチの国の北辺りだったかな。
「じゃあ、お相手は?」
何処の国ですかね、こんなアホな事に乗ってしまった残念な国は。
「それが・・・。」
ん?
表情が曇る彼女を下から、思わず見上げる。
「これも縁と申しましょうか・・・。」
どうした?急に歯切れ悪いな。
「あの時の決闘の相手でして・・・。」
「さぁて、帰ろうかなーっ。」
やってられん。
折角止めたオレが、バカみたいじゃないか。
いや、あの時は真剣使ってたから、止めなきゃどっちが死んでてもおかしくなかったから割り込んだんだけれど。
「あっ、あの!お怒りなのはごもっともなのはわかりますが・・・。」
「別に怒ってないよ。単純に帰って寝たくなっただけ。」
関わりたくないとも言うが。
「・・・あの・・・。」
「何?」
しょんぼりしている金髪美女をジト目で睨むオレ。
「心細いので・・・付き添って下さいませんか?」
「はぁっ?!」
オレじゃ到底重くて動けないだろう完全重装備で、長大な武器を持てばあんな気性になるのに・・・心細い?
「大丈夫、大丈夫、姫なら一人でも。」
「ダメですか?」
「オレに何の特典もないしなぁ。」
ここ最近、損得無しで動き過ぎだと思わないか?
反動とは言わないが、少し他人に意地悪になってる気がするわ。
「見返りがあれば宜しいのですか?!」
・・・何て前向きな人なんですかね。
やりにくいったら、ありゃしない。
「・・・わかったよ、付いて行くよ。行けばいいんでしょ、全く。」